データセンタ冷却技術:AIをささえる液冷・放熱材料の開発動向と実用化への課題
アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、データセンタ冷却に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

AIデータセンタの冷却技術とは
AIデータセンタの冷却技術とは、人工知能(Artificial Intelligence:AI)の学習・推論処理をになう画像処理装置(Graphics Processing Unit:GPU)など、演算を高速化するアクセラレータが発する熱を排出し、演算性能と稼働信頼性を維持するためにかかせないものです。半導体は一定の温度を超えると動作周波数を自動的に下げて自らを保護するため、冷却が追いつかないと、計算能力が制限されます。従来のデータセンタは、室内に冷たい空気を送り込み、機器のあいだを通過させて熱を運び去る空冷を基盤としてきました。しかしAI向けの機器は設置面積あたりの発熱量が従来のサーバより大きく、単位体積あたりに運べる熱量が小さい空気では冷却が追いつきにくくなっています。そこで、空気より単位体積あたりに多くの熱を運べる液体を媒体とする方式へ、比重が移りつつあります。
液体をもちいる代表的な方式は三つあります。第一は、チップの真上に金属製の受熱板(コールドプレート)を密着させ、その内部に冷却液を循環させるダイレクトチップ液冷(直接液冷)です。第二は、ラックの背面扉そのものを熱交換器とし、通過する排気から熱を回収するリアドア(rear-door)型冷却です。第三は、電気を通さない誘電性の液体に機器全体を沈める液浸(immersion)冷却です。本レポートでは、これらの方式に加えて、各冷却方式を成立させる熱交換器や冷媒、熱界面材料(Thermal Interface Material:TIM)などの要素技術をふくめ、この領域をささえる熱交換・熱管理技術全般を分析対象としています。
なお、本分析の母集団(分析対象の集合)は、熱の発生・輸送・排出を主題とする文献で構成されています。数値流体解析や制御、機械学習を手法としてもちいる研究も、熱を対象とするものはふくまれます。一方で、計算資源の配分やIT運用そのものを主題とし、熱に関する用語をもちいない研究は十分に捕捉されていない可能性があります。また、応用可能性を基準に母集団を秀出すると、温度帯や支配的な課題の異なる分野が同居します。本母集団で汚れやスケール(付着した析出物)、腐食に言及する出願は496件ある一方、半導体の接合部温度に言及するものは4件、熱流束(単位時間に単位面積を通過する熱量)に言及するものは26件です。板の成形や流路配分、漏洩対策といった構造と製造の知見は温度帯を越えて転用できますが、作動流体や材料の選定、おもな故障の起こり方は温度帯ごとにことなります。本レポートでは、温度帯を越えて応用できる構造や製造の知見を中心に整理します。
本レポートの件数は、技術の蓄積をしめす指標として読む必要があります。件数が表すのは、AIデータセンタの冷却に応用できる技術がどの領域にどれだけ蓄積され、誰が保有しているかです。データセンタがその技術をどれだけ採用しているかではありません。したがって、母集団で液体をあつかう文献が多いことは、データセンタの冷却が液冷へ移行していることの根拠にはなりません。データセンタに関わる開発動向については、データセンタもしくはサーバに明示的に言及する特許185件と、データセンタに言及する論文127件に限って述べます。
技術的な役割は、熱が発生源から外部へ抜けていく経路に沿って三つの層に分けて整理できます(図1)。

まず、チップから熱を受け取る界面の層です。半導体の表面と受熱部品はいずれも微視的には凹凸があり、そのまま重ねると両者の間に空隙が生じます。空気は熱を伝えにくいため、この空隙が熱の通り道を塞ぐ抵抗となります。これを埋めて熱を通しやすくするのが熱界面材料であり、受け取った熱を面方向に広げて局所的な高温部をならすのがベーパチャンバです。
次に、受け取った熱を離れた場所へ運ぶ輸送の層です。液体の蒸発と凝縮を利用して動力を使わずに熱を運ぶループヒートパイプや、冷却液を循環させる配管系がこれにあたります。なお、微細な流路に冷却液を通すマイクロチャネルや、機器ごと液体に沈める液浸は、熱を受け取る部分と運ぶ部分が一体になっており、前段の受熱側に位置づけられます。
最後が、運ばれてきた熱を施設側で大気や冷却水へ最終的に放出する層であり、薄い金属板を重ねて伝熱面積を確保するプレート式熱交換器や、冷媒の圧縮と膨張によって冷水をつくる冷凍機が中核をにないます。
この三つの層は直列につながっており、チップから外気までの熱抵抗(熱の伝わりにくさ)は、直列の経路では各層の和としてとらえられます。どこか一つの層が熱の流れを大きく妨げている場合、他の層だけを改善しても、全体の放熱性能の向上は限られます。半導体側の熱設計と施設側の熱交換が、どちらも欠かせない理由はここにあります。今回の分析母集団でも、この三層に対応する技術分野が併存していました。
素材から施設設備までが一本の経路でつながるというこの構造を背景に、産業面では二つの論点が浮かびます。一つは、設備産業と半導体・IT産業の接点です。本分析の特許母集団では、プレート式熱交換器を手がける専業メーカと、半導体・IT機器メーカが上位出願人として並存しています。冷却が演算性能を左右するなか、これまで別の産業として発展してきた両者の技術を、どう組み合わせるかが課題となります。
もう一つは、データソースによる技術分野の構成の違いです。論文とグラントでは熱を伝える材料と相変化をあつかう領域が最大の比重を占める一方、特許では熱交換器の構造に関する出願が多く、液冷・液浸を直接あつかう出願は限られます。この違いを研究から実装までの時間的な差として解釈するには、個別技術の開発段階や採用状況との称号が必要です。
公的支援については、今回のグラント母集団において、二相冷却システムや熱界面材料を対象とする助成が米国・欧州を中心に確認されました。特に米国では、企業を対象とする研究開発助成が2021年以降も毎年採択されています。
以下、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、特許・学術論文・グラント(研究助成金)・スタートアップ企業情報の4つのデータソースに基づき、AIデータセンタの冷却に応用できる熱交換・熱管理技術の動向を分析します。
AIデータセンタの冷却技術に関する特許の動向分析
アスタミューゼ独自のデータベースから、AIデータセンタの冷却に応用できる熱交換・熱管理技術に関連するキーワードをふくむ特許母集団10,234件を抽出しました(出願年2016年〜2025年)。本レポートでは、4つのデータソースのうち特許・論文・グラントの対象期間を2016年から2025年の10年間にそろえています。企業や研究機関が出願する特許は、社会実装が近い、あるいはすでに実装済みである技術の動向を反映します。
今回抽出された特許は7つのカテゴリに分類できます(図2)。

なお、この分類は特許・論文・グラントに共通の技術軸を設け、各文献の表題から判定したものです。判定の観点には冷却方式、熱の経路上の位置、材料、設備区分が混在しており、複数の分類に当てはまる文献が約1割あります。これらはあらかじめ定めた評価順で先に一致した分類に計上しているため、本図は厳密な技術分類ではなく、母集団の構成を概観するための整理としてご覧ください。
もっとも多いのは熱交換器本体の構造設計をあつかう「熱交換器・伝熱構造」でした。4,243件、全体の41.5%にあたります。次いで、熱を伝える媒体と材料をあつかう「熱媒体・熱機能材料」が1,272件(12.4%)、デバイス側の実装をあつかう「半導体・電子機器の放熱実装」が1,169件(11.4%)、蒸発と凝縮で熱を運ぶ「ヒートパイプ・相変化冷却」が1,144件(11.2%)、施設側の「空調・冷凍・施設設備」が347件(3.4%)と続きます。本レポートの主題の一つである「液冷・液浸システム」は230件(2.2%)にとどまり、残る1,829件(17.9%)は上記に分類されない出願でした。ただし、液冷・液浸システムの230件は、表題で液冷そのものを主題にした出願の数です。液冷をささえる熱交換器や冷媒、熱界面材料、相変化デバイスは、それぞれ別の分類に入っています。
このうち、表題または要約においてデータセンタもしくはサーバについて明示的に言及している特許は185件にとどまります。母集団の大半は汎用の熱交換・熱管理技術です。本分析では、データセンタ向け冷却を、既存の熱交換・熱管理技術の応用先としてとらえています。
(以降、データセンタ冷却技術に関する特許出願の国別件数推移、キーワード分析、注目事例、および論文、グラント、スタートアップ企業に関する詳細分析と事例、それらをふまえた全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
著者:アスタミューゼ株式会社 岸本 拓磨 博士(医学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「データセンタ冷却」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。
また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
お問合せフォーム:https://www.astamuse.co.jp/contact/
すべての画像
- 種類
- 調査レポート
- ビジネスカテゴリ
- 経営・コンサルティング法務・特許・知的財産
- ダウンロード
- プレスリリース素材
このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます
