不整脈だけを抑え、心機能は守る新しい治療薬候補を開発

― Ca²⁺シグナルを選択的に制御する仕組みを解明概要 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学医学部薬理学講座の國廣(呉林)なごみ 客員准教授、小西眞人 客員教授、村山尚 先任准教授、櫻井隆 教授、同 臨床検査医学講座 杉原匡美 准教授、東京科学大学総合研究院生体材料工学研究所薬化学分野の影近弘之 教授(研究当時)、石田良典 助教(現 名古屋市立大学)、静岡県立大学薬学部生体情報薬理学分野の児玉昌美 講師、黒川洵子 教授、東京医科大学細胞生理学分野の城田(井上)華 講師、横山詩子 主任教授らの研究グループは、他の5機関との共同研究により、2型リアノジン受容体(RyR2)*¹を選択的に抑制する新規化合物「Ryanozole*²」が、致死性不整脈疾患であるカテコラミン誘発性多型性心室頻拍(CPVT)*³の有望な治療薬となり得ることを明らかにしました。RyR2変異を有するCPVTモデルマウスを用いた検証により、Ryanozoleは不整脈発作の予防および停止に強い効果を示し、従来薬で問題となる心機能への悪影響も認められませんでした。本研究により、Ryanozoleおよびその誘導体はCPVTに対する新たな治療薬となる可能性が示されました。

本論文はBritish Journal of Pharmacology誌のオンライン版に2026年4月27日付で公開されました。

本研究成果のポイント

●  Ryanozoleの心臓に対する効果を細胞レベルから個体レベルまで包括的に検討

●  Ryanozoleが、細胞内Ca²⁺動態異常を是正し、心機能を損なわずに不整脈を抑制する事を発見

●  新しいカテゴリーの抗不整脈薬*⁴の誕生へ

背景

カテコラミン誘発性多型性心室頻拍(CPVT)は、交感神経の緊張によって誘発される重篤な不整脈疾患であり、若年者における心臓突然死の原因の一つとして知られています。その多くはリアノジン受容体(RyR2)の遺伝子変異によって引き起こされます。現在は既存の抗不整脈薬や植込み型除細動器(ICD)*⁵による治療が行われていますが、薬剤による心機能低下や伝導障害などの副作用、またICDによる不整脈悪化のリスクなどが課題となっており、より安全で効果的な治療法の開発が求められています。CPVTではRyR2の活性が過剰になることが知られているため、RyR2を選択的に抑制する薬剤が有望と考えられてきましたが、これまで実用的な薬剤は存在しませんでした。そこで本研究では、我々が開発したRyR2選択的化合物Ryanozoleについて、その抗不整脈効果と安全性を分子から個体レベルまで包括的に検証しました。

 

内容

本研究で、分子・細胞レベルの解析により、RyanozoleはIC50約20 nMという高い親和性で、野生型および複数のCPVT関連変異を持つRyR2を抑制することが明らかとなりました。さらに、細胞内Ca²⁺濃度が低い条件では強く抑制し、高い条件では抑制が弱まるという、Ca²⁺依存的な作用を示しました。単離心筋細胞*⁶を用いた解析では、不整脈の原因となる拡張期の異常Ca²⁺シグナル(Ca²⁺ sparkやCa²⁺ wave*⁷)をほぼ完全に抑制する一方で、収縮期のCa²⁺ transient*⁸には影響を与えませんでした。

さらに、CPVTモデルマウスにおいて、Ryanozoleはアドレナリン誘発性不整脈の発生を強く抑制しました。また、日常活動中に生じる自発的不整脈も速やかに停止しました。心電図および心エコー解析から、心機能や伝導への有害な影響は認められず、むしろ心収縮機能が改善する傾向も確認されました。これらの結果は、「拡張期では強く作用し、収縮期では作用が弱まる」というRyanozoleの特徴的な性質に基づくものと考えられます。

以上の結果から、Ryanozoleは心機能を損なうことなく不整脈を抑制する、優れた抗不整脈作用を有することが示されました(図1)。

今後の展開

本研究により、遺伝性致死性不整脈であるCPVTに対する新たな治療薬候補として、Ryanozoleの有効性と安全性が示されました。今後は薬物動態や長期安全性の検討を進めることで、臨床応用に向けた創薬開発への展開が期待されます。本成果は、患者の生活の質(QOL)を維持しながら治療可能な新しい抗不整脈薬の開発につながることが期待されます。

  

図1:本研究で明らかになったRyanozoleの作用機序 

Ryanozoleは、心拡張期に不整脈の原因となる異常なCa²⁺放出のみを抑制し、収縮期には正常なCa²⁺ transientを保つことで、心機能を損なわずに不整脈を抑制する。

   

用語解説

*1 2型リアノジン受容体 (RyR2): 心筋細胞でCa²⁺を貯蔵する筋小胞体に存在する、分子量2 MDaの巨大なCa²⁺遊離チャネル。正常な心収縮に重要な役割を担う。RyR2の異常や変異は不整脈の原因となる。

*2 Ryanozole : 著者らにより最近開発された、分子量約300のテトラゾール化合物(TMDJ-035)。RyR2を強く抑制する一方、他のアイソフォーム(RyR1とRyR3)には作用しない(Ishida et al. Eur J Med Chem. 2023)。

*3 カテコラミン誘発性多型性心室頻拍(CPVT): 遺伝性不整脈の一種で、運動や精神的興奮などのストレスにより致死的な多型性心室頻拍が誘発される疾患。若年発症が多く、原因の多くはRyR2遺伝子である。

*4 抗不整脈薬: 心臓の異常な電気信号を正常に戻す薬の総称。Naチャネル遮断薬(I群)、β遮断薬(II群)、Kチャネル遮断薬(III群)、Ca拮抗薬(IV群)に分類される。CPVTの治療には、β遮断薬とNaチャネル阻害薬であるflecainideが広く用いられ、場合によってはCa拮抗薬(例:ベラパミル)が使用される。

*5 植込み型除細動器(ICD): 致死的な不整脈(心室細動・心室頻拍)を自動検知し、電気ショックで治療して突然死を防ぐ体内植込み型デバイス。本体は皮下に置き、そこから伸びるリード(電極)を静脈を通して心臓まで入れることで、不整脈を監視・治療する。

*6 単離心筋細胞:マウスやラットなどの心臓組織から、酵素処理を用いて心筋細胞同士の結合を解き、一つひとつに分離した生きた心筋細胞のこと。Ca²⁺シグナルの異常を顕微鏡で検出したり、イオン電流を測定して不整脈の原因を突き止める研究用に用いる。

*7 Ca²⁺ spark, Ca²⁺ wave: 心筋細胞内において局所的なCa²⁺の放出現象。Ca2+ sparkはごく小さな範囲(1-2 µm)で一時的に起こるCa²⁺放出であり、Ca²⁺ waveはそれが連続して起こり波の様に伝わっていく現象。これらはβアドレナリン刺激や心不全などの病的状態で頻度が増加し、不整脈の発生原因となる。

*8 Ca²⁺ transient: 心筋および骨格筋細胞において、活動電位(電気信号)に応じて、細胞内のCa²⁺濃度が一時的に急上昇し、その後低下する現象。この変化が心臓の拍動(収縮と弛緩)を生み出す。

原著論文 

本研究はBritish Journal of Pharmacology誌のオンライン版に2026年4月27日付で公開されました。

タイトル:A novel selective stabilizer of the ryanodine receptor 2 prevents stress-induced ventricular arrhythmias without impairing cardiac function

タイトル(日本語訳): 新規RyR2選択的抑制薬は心機能を損なわずにストレス誘発性不整脈を抑制する

著者: Nagomi Kurebayashi; Masami Kodama; Hana Inoue, Masato Konishi; Masami Sugihara; Takashi Murayama; Ryosuke Ishida; Koichiro Ishii; Shuichi Mori; Yukari Endo; Xi Zeng; Yukiko U. Inoue; Takayoshi Inoue; Satoru Noguchi; Hajime Nishio; Eri Nakashima; Norio Suzuki; Noriko Nakaya, Ryushi Sato, Yuya Otori, Ayuna Tsutsumi, Mirei Takahashi,Takayuki Oka, Haruo Ogawa, Kayoko Kanamitsu; Hiroyuki Kusuhara; Utako Yokoyama; Junko Kurokawa; Hiroyuki Kagechika; Takashi Sakurai

著者(日本語表記): 國廣(呉林)なごみ1*; 児玉昌美1,2; 城田(井上)華3, 小西真人1; 杉原匡美4; 村山尚1; 石田良典5; 石井光一郎1; 森修一5; 遠藤ゆかり1; 曾希5; 井上(上野)由紀子6; 井上高良6; 野口悟6; 西尾元7; 中島恵理8; 鈴木則夫 8; 中谷紀子8, 佐藤隆至2, 大鳥祐矢9, 堤あゆな9, 高橋美麗1, 岡貴之10, 小川治夫9, 金光佳代子8; 楠原洋之8; 横山詩子3; 黒川洵子2; 影近弘之5*; 櫻井隆1

著者所属: 1)順天堂大学医学部薬理学講座、2)静岡県立大学、3)東京医科大学、4)順天堂大学医学部臨床検査医学講座、5)東京科学大学、6)国立精神・神経医療研究センター、7)兵庫医科大学、8)東京大学、9)京都大学、10)ナニオンテクノロジーズジャパン

*責任著者

DOI: 10.1111/bph.70459    

本研究はAMED創薬ブースターDNW-21012、JSPS科研費 JP22K06652, JP23K24067, JP25K02443, JP22K15244, 創薬等先端技術支援基盤プラットフォームBINDS JP19am0101080, JP24ama121043, JP25ama121051、生体医歯工学共同研究拠点、および公益財団法人 車両競技公益資金記念財団の支援を受け、多施設との共同研究の基に実施されました。

本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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03-3813-3111
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設立
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