手術時に発症する難治性疾患の新たな原因を解明

~CaV1.1変異によるDICR亢進が悪性高熱症を誘導~

学校法人 順天堂

順天堂大学医学部薬理学講座の村山尚 先任准教授と信州大学医学部分子薬理学教室の冨田拓郎 准教授らの研究グループは、広島大学および東邦大学との共同研究により、骨格筋型電位依存性カルシウムチャネル(CaV1.1)*¹の遺伝子変異による悪性高熱症(MH)*²の新たな発症機構を明らかにしました。本研究では、CaV1.1変異が骨格筋の生理的カルシウム遊離機構である脱分極誘発性Ca2+遊離(DICR)の電位依存性を亢進させた結果、静止時にDICRが生じてCa2+誘発性Ca2+遊離(CICR)を増強することを示しました。本成果は、長年不明であったCaV1.1変異によるMH発症機構の理解を大きく前進させるとともに、新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、Communications Biology誌のオンライン版に2026年5月29日付で掲載されました。

本研究成果のポイント

●  悪性高熱症(MH)患者から発見されたCaV1.1変異をDICR再構成系により機能解析

●  CaV1.1変異ではDICRの電位依存性亢進がCICRを増強することを発見

●  CaV1.1変異による悪性高熱症(MH)発症機構の提唱と治療薬開発の可能性を示唆

背景

悪性高熱症(MH)は、外科手術時に使用される吸入麻酔薬や筋弛緩薬によって、体温上昇、筋拘縮、代謝亢進などを引き起こす重篤な疾患です。主な原因は、骨格筋の筋小胞体に存在するCa2+遊離チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)からの異常なCa2+遊離です。正常な筋収縮では、細胞膜の脱分極によりT管膜の電位センサーであるCaV1.1が活性化され、RyR1が開口してCa2+が遊離されます(脱分極誘発性Ca2+遊離:DICR)。一方、RyR1は細胞質Ca2+によっても活性化される性質(Ca2+誘発性Ca2+遊離:CICR)を持ち、CICRの亢進によりMHが発症することが分かっていました。これまでMH患者の多くでRyR1の機能亢進変異が報告されてきましたが、一部の患者ではCaV1.1に遺伝子変異が同定されています。しかし、DICRに関与するCaV1.1の変異がどのようにMHを引き起こすのかは不明でした。そこで、研究グループは新規MH関連CaV1.1変異の機能解析を行い、MH発症との関連を調べました。

内容

DICRは、RyR1およびCaV1.1に加えて、β1a、Stac3、JP2からなる複合体によって成立します。本研究では、この複合体をHEK293細胞に導入したDICR再構成系*³を用い、広島大学で同定された4種類のCaV1.1変異(A560T、S879P、F1161L、D1382V)の機能解析を行いました。その結果、S879PおよびF1161Lは、野生型に比べてDICRのカリウム濃度依存性が亢進しており、より低い脱分極で活性化されることが分かりました。さらに、これらの変異ではCaV1.1の電荷移動(charge movement)*⁴の電位依存性が過分極側にシフトしており、DICR亢進と一致する変化が認められました。興味深いことに、これらの変異を発現した細胞では、カフェイン*⁵によるCa2+遊離が増強しており、MH様の表現型を示しました。この増強は、静止時の膜電位を過分極*⁶させる、あるいはDICR構成因子(β1aやStac3)を除去することで消失しました。以上の結果から、CaV1.1変異(S879PおよびF1161L)では電位依存性の亢進により静止状態においても微弱なDICRが生じ、それがRyR1近傍の局所的なCa2+濃度上昇を介してCICRを増強してMHを発症する可能性が示されました(図)。

今後の展開

本研究は、「生理的Ca2+遊離機構であるDICRに関与するCaV1.1変異が、なぜMHを引き起こすのか」という長年の疑問に対して、新たな概念(静止時DICRの関与)を提示するものです。一方で、本研究は再構成細胞系を用いたものであり、骨格筋の生理環境を完全に再現したものではありません。今後は遺伝子改変マウスなどを用いた検証が重要となります。MHは吸入麻酔薬だけでなく脱分極性筋弛緩薬によっても誘発されることが知られていますが、その発症機構は不明でした。これらの薬剤は細胞膜を持続的に脱分極させるため、CaV1.1変異と同様にDICRの活性化を介してMHを誘発する可能性があります。今後は亢進したDICRを正常化する新たなMH治療薬の開発が期待されます。

   

図:RyR1変異およびCaV1.1変異による悪性高熱症(MH)の発症機構

吸入麻酔薬はRyR1を活性化する作用を持つ。健常者ではRyR1のCICR活性が低いため、麻酔薬による刺激でもCa2+遊離は限定的であり、MHは発症しない。RyR1変異を有するMH患者ではCICR活性が亢進しているため、麻酔薬刺激により過剰なCa2+遊離が引き起こされる。一方、CaV1.1変異を有するMH患者では、DICRの活性化電位が過分極側へシフトしており、安静時にも微弱なCa2+遊離が生じやすくなる。その結果、RyR1周囲の局所Ca2+濃度が上昇し、CICRが増強されることで麻酔薬により過剰なCa²⁺遊離が誘発される。

用語解説

*1 骨格筋型電位依存性カルシウムチャネル(CaV1.1): 骨格筋のT管膜に存在するカルシウムチャネル。1型リアノジン受容体(RyR1)と相互作用して筋収縮を引き起こすための電位センサーとして機能する。

*2 悪性高熱症(MH): 外科手術時に使用される吸入麻酔薬や筋弛緩薬によって、体温上昇、筋拘縮、代謝亢進を引き起こす重篤な疾患。筋小胞体からの異常Ca2+遊離が原因である。

*3 DICR再構成系: HEK293細胞にDICR構成因子をバキュロウイルスにより導入したもの。

順天堂大学プレスリリース(骨格筋の超高速カルシウムイオン遊離システムの再現に成功 2022/11/2:https://www.juntendo.ac.jp/news/00672.html)を参照。

*4 電荷移動(charge movement): 脱分極刺激により膜貫通S4セグメントが膜内で移動してチャネルが活性化する。CaV1.1活性化の指標として使用される。

*5 カフェイン: RyR1活性化剤。MHではCICR活性が増大しているため、カフェイン誘発性Ca2+遊離が亢進する。

*6 過分極: 膜電位を低下させること。これにより静止時のDICR活性が低下する。

原著論文

本研究はCommunications Biology誌のオンライン版に2026年5月29日付で公開されました。

タイトル: Pathogenic CaV1.1 Variants Cause Hyperpolarizing Shift of Depolarization-Induced Ca2+ Release in Malignant Hyperthermia Susceptibility.

タイトル(日本語訳): 悪性高熱症関連CaV1.1変異は脱分極誘発性Ca2+遊離を過分極側にシフトする。

著者: Takashi Murayama 1)$*, Takuro Numaga-Tomita 2)$*, Hirotsugu Miyoshi 3), Tsuyoshi Ikeda 3), Keiko Mukaida 3), Takuya Kobayashi 1), Nagomi Kurebayashi 1), Tsutomu Nakada 2), Taichiro Tomida 4), Satomi Adachi-Akahane 4), Yasuo M Tsutsumi 3), Mitsuhiko Yamada 2), Takashi Sakurai 1) *Corresponding author

著者(日本語表記): 村山 尚 1)、冨田(沼賀) 拓郎 2)、三好 寛二 3)、池田 豪 3)、向田 圭子 3)、小林 琢也 1)、呉林 なごみ 1)、中田 勉 2)、冨田 太一郎 4)、赤羽 悟美 4)、堤 保夫 3)、山田 充彦 2)、櫻井 隆 1)$共同筆頭著者、*共同責任著者

著者所属: 1)順天堂大学医学部薬理学講座、2)信州大学医学部分子薬理学教室、3)広島大学医学部麻酔蘇生学、4)東邦大学医学部生理学講座統合生理学分野

DOI: 10.1038/s42003-026-10281-1       

本研究はJSPS科研費(JP22H02805, JP25K02443, JP22K06842, JP25K10153, JP23K08332)をはじめとした多くの支援を受け、多施設共同研究として実施されました。

本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。

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業種
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本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
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03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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