企業の想定為替レートは平均140円88銭 実勢レートとの乖離が企業業績の回復に水を差す可能性も
企業の想定為替レートに関する動向調査(2024年度)
企業が業績の見通し等を作成する際にあらかじめ設定(想定)した名目為替レートと、実際の為替レートに大きな乖離が生じた場合には、その乖離が企業の事業遂行に影響を与えるほか、業績を大きく左右することとなる。とりわけ、中小企業の想定為替レートは企業の与信にも影響を与える。
そこで、帝国データバンクは、企業の設定(想定)為替レートについて調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2024年5月調査とともに行った。
<調査結果(要旨)>
想定為替レートは平均1ドル=140.88円、昨年の127.61円より大幅な円安水準を想定
業界間の想定為替レートの違いは最大15.88円差、昨年の7.44円差から大幅に拡大
「直接輸入」だけを行う企業は「直接輸出」だけの企業より3.91円の円安水準を想定
※ 調査期間は2024年5月20日~5月31日、調査対象は全国2万7,104社で、有効回答企業数は1万1,410社(回答率42.1%)。分析対象は想定為替レートを設定している企業2,466社。なお、想定為替レートに関する調査は2017年以降、毎年実施し、今回で8回目
※ 本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
想定為替レートは平均1ドル=140.88円、昨年の127.61円より大幅な円安水準を想定
2024年5月時点での企業の想定為替レートは、平均1ドル=140.88円(以下、1米ドル当たりの円レートを示す)となった。前年4月の127.61円から13円27銭安と大幅な円安水準を想定していた。中央値は145円、最頻値は150円だった。
想定為替レートの分布をみると、企業の24.7%が「146~150円」を想定し、最も割合が高かった。また、「136~140円」「141~145円」「151~155円」「156円~」がいずれも10%台となっており、130円台後半以上を想定する企業が7割を超えている。
企業からは、「企業業績としては為替が追い風となる」(ゴムベルト製造、135円)や「インバウンド訪日客の増加で賑わいがある」(損害保険代理、150円)など、円安の好影響を受けた意見がみられた。一方で、「円安による価格の高騰、販売価格の上昇にともなう販売数量の減少で利幅、売上高とも減少」(家庭用電気機械器具卸売、112円)といった、物価高騰の声も聞かれた。
業界間の想定為替レートの違いは最大15.88円差、前年の7.44円差から大幅に拡大
業界別に想定為替レートをみると、『農・林・水産』や『卸売』『製造』『金融』が140円台を想定している一方で、『不動産』は130円台前半とみている。
また、最も円安水準の『農・林・水産』と最も円高水準の『不動産』の間には15.88円の差があった。
「直接輸入」だけを行う企業は「直接輸出」だけの企業より3.91円の円安水準を想定
輸出・輸入別に想定為替レートをみると、事業として直接または間接的に「輸出」を行っている企業では143.11円となった。
他方、「輸入」を行っている企業では144.56円だった。輸入企業は輸出企業より1.45円程度円安の水準を想定している。特に、「直接輸入のみ」(145.89円)を行っている企業は、「直接輸出のみ」(141.98円)を行っている企業よりも3.91円円安の水準を想定していた。
規模別では、「大企業」は144.16円、「中小企業」は141.54円、中小企業のうち「小規模企業」は138.14円だった。規模が大きくなるほど、円安を想定する傾向がある。また、「直接輸入のみ」を行っている企業では、「大企業」(146.22円)は「小規模企業」(142.98円)よりも3.24円円安の水準を想定している。
本調査によると、2024年度の想定為替レートは平均140円88銭だった。また、直接輸出のみを行う企業と直接輸入のみを行う企業では、収益への影響が逆方向に働くこともあるため、直接輸入企業は3.91円の円安水準を想定している。
2017年以降、実際の外国為替レートと想定レートに大きな差異はなかったが、2021年後半以降の実勢レートは想定レートよりも大幅に円安の水準が続いている。2024年には、名目為替レートは年初から半年で約10円も円安が進み、最近では150円台後半で推移している。企業が適正と考える為替レートは1ドル=110円台から120円台とされる<帝国データバンク「円安に関する企業の影響アンケート(2024年5月)」2024年5月17日発表>。そのため、引き続き実勢レートとの乖離による輸入物価を通じた企業収益の悪化を招くリスクに注視する必要があろう。
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