発汗時の汗腺の収縮メカニズムの解明と、新たな制汗成分を発見

~IFSCC2023でポスター部門最優秀賞 受賞~次世代制汗剤の開発や発汗機能障害の研究への応用に期待

(株)マンダム

  • 研究成果のポイント

◆ヒトが汗をかく際、どのようなメカニズムで汗腺が収縮しているかを解明

◆汗腺の収縮に必要な筋上皮細胞にギャップジャンクション※1を構成するコネキシン※2が多く存在すること、発汗時の汗腺の収縮にはそのギャップジャンクションが大きく関与していることを発見

◆ギャップジャンクションの機能を止める阻害剤やその類縁体のグリチルリチン酸モノアンモニウム(GMA)※3がヒトの温熱性発汗や精神性発汗を抑制することを発見

◆今回の成果は、発汗時の汗腺の収縮に直接作用して制汗する、従来にはない次世代制汗技術として製品開発に生かしていく。また、多汗症などの発汗機能障害の研究にも応用が期待される。


  • 概要

大阪大学大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座の藤田郁尚招へい教授、蛋白質研究所寄附研究部門の関口清俊寄附研究部門教授、 大学院医学系研究科 情報統合医学皮膚科学講座の種村篤准教授、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 皮膚病態学分野の室田浩之教授、大阪公立大学大学院 医学研究科 皮膚病態学分野の片山一朗特任教授らの研究グループは、ヒトが発汗する際に、どのような機構で汗腺の収縮が起こっているかを明らかにしました。

今回、汗腺の収縮に重要な筋上皮細胞上にギャップジャンクションを構成するコネキシン(CX)が多く発現していること、発汗時の汗腺の収縮にはそのギャップジャンクションが大きく関与していることを見出しました(図1)。また、ギャップジャンクションの機能を止める薬剤カルベノキソロン(CBX)によって汗腺の活動が抑制されることを確認しました。さらにCBXの類縁体のGMAが実際にヒトの温熱性発汗や精神性発汗の両方を抑制することを発見しました(図2、3)。

これらの成果は、従来の制汗技術にはない、次世代制汗技術の開発や汗腺の発汗障害にあたる多汗症の解明や治療にも役立つと期待されます。

本内容は、以下の国際学会で2023年9月4日~7日(スペイン・バルセロナ)にて発表し、ポスター部門で「最優秀賞」を受賞しました。


  • 研究の背景

近年、世界規模で平均気温が上昇していることもあり、過剰な発汗は発汗機能の障害を持つ多汗症患者だけでなく、発汗障害のない生活者にとっても不快に感じるものになり、QOLの低下に繋がっています。発汗を抑える簡便な方法としては、制汗剤がよく利用されています。制汗剤に含まれるアルミニウム塩が汗腺に蓋をすることで、物理的に発汗を抑制するメカニズムです。しかし、マンダムが実施した制汗剤使用者への調査※4によると、3人に1人がその効果性等に満足しておらず、更なる制汗の機能性の向上が望まれています。従来とは異なる新たな制汗技術の構築に向け、本研究グループではヒトの汗腺を用いて、ヒトの汗腺が発汗時に収縮することで、皮膚表面に汗が押し出されることを明らかにしてきました。しかしながら、その詳細なメカニズムについては不明な点も多く、また発汗を抑制する効果的な成分も明らかになっていませんでした。


  • 研究の内容

本研究グループでは、ヒト皮膚組織からエクリン汗腺を採取し、観察を行いました。発汗時の汗腺の収縮に必要な筋上皮細胞にギャップジャンクションを構成しているCXが発現していることを明らかにし、その中でも特にCX43が筋上皮細胞上に多く分布していることが分かりました(図1)。また、ギャップジャンクションの阻害剤であるCBXが筋上皮細胞の動きや汗腺の活動を抑制することを確認しました。これらの結果から、発汗時の汗腺の収縮には筋上皮細胞にあるギャップジャンクションが重要な因子であることが明らかとなりました。

次に、その類縁体であるGMAを用いて、運動負荷や精神的負荷による実際の発汗に対する制汗効果について、発汗挙動をリアルタイムに観察できる発汗計を用いて検証しました。その結果、GMAをワキに塗布することで運動による発汗開始を遅らせ、15分間の運動による発汗の総量を減少させました(図2)。また、GMAによって発汗の挙動(振幅)が抑えらていることから、実際のヒトのワキでも汗腺の動きが抑制されていることが示唆されました。さらに、5分間の暗算による精神的負荷を与えた際の手の平の発汗もGMAの塗布によって抑制されることが明らかとなりました(図3)。

  • 本研究成果が社会に与える影響

本研究によって見出された新たな制汗技術は汗腺に直接作用することにより制汗できるもので、新たな機能をもった制汗剤の開発や従来の制汗技術との組み合わせにより更なる制汗効果の向上が可能になると考えられます。また、発汗における汗腺の動態機構がさらに解明されれば、発汗に関連する病気(多汗症)の解明や治療につながると期待されます。


  • 特記事項

本内容は、以下の国際学会で2023年9月4日~7日(スペイン・バルセロナ)にて発表し、全449件(口頭発表:76件、ポスター発表:373件)の中から、ポスター部門で「最優秀賞」を受賞しました。


The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists (IFSCC)2023

タイトル:Next-generation antiperspirant technique: Controlling the contraction of human eccrine gland

発表者名:Takeshi Hara, Kie Nakashima, Ayumi Kyuka, Hiroko Kato, Fumitaka Fujita, Atsushi Tanemura, Yukinobu Nakagawa, Hiroyuki Murota, Ichiro Katayama, Kiyotoshi Sekiguchi


本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業17K16337 (ヒト汗腺の発汗収縮メカニズムの解明-可視化法の改良とそれを用いた動態解析-)、及び19K17771 (汗腺組織内の汗そのものの可視化による、ヒトにおける汗運搬メカニズムの解明)の一部助成を受けて実施されました。


  • 用語解説および注釈

※1 ギャップジャンクション

隣り合う細胞と細胞をつなぎ、水溶性の小さいイオンや電気的信号を通過させる細胞間結合のこと

※2 コネキシン

ギャップジャンクションを構成するタンパク質のこと

※3 グリチルリチン酸モノアンモニウム(GMA)

生薬の一つである甘草から抽出される成分

※4 マンダムが実施した制汗剤使用者への調査 

2023年9月/20~59歳 男女/n=449/NET調査/マンダム調べ


  • 本件に関する問い合わせ先

<研究内容に関すること>

・大阪大学 大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座

 招へい教授 藤田郁尚(ふじたふみたか)

 TEL:06-6105-5785  FAX: 06-6105-5785  

 E-mail: fujita-f@phs.osaka-u.ac.jp


・大阪大学 蛋白質研究所 寄附研究部門教授 関口清俊(せきぐちきよとし)

 TEL:06-6105-5935  FAX: 06-6105-5936

 E-mail:  sekiguch@protein.osaka-u.ac.jp

 

<報道に関すること>

・大阪大学 薬学研究科 庶務係

 TEL:06-6879-8144  FAX: 06-6879-8154

 E-mail:  yakugaku-syomu@office.osaka-u.ac.jp


 ・株式会社マンダム 広報部

 大阪本社 酒井/奥田

 TEL:06-6767-5021  FAX: 06-6767-5045

 E-mail:  press@mandom.com


  • 原 武史(マンダム 先端技術研究所 ライフサイエンス研究グループ マネジャー・大阪大学大学院 薬学研究科 招へい准教授)のコメント

ヒトは、発汗することで効率的に体温調節できます。この発汗機能のおかげでヒトは長時間の運動ができるようになったと言われております。しかしながら、地球温暖化による平均気温の上昇や社会的な心理ストレスなどで発汗する機会も増え、過剰な発汗やそれによる不快な臭いに悩む人も増加しています。また、過剰な汗を主症状とする身体疾患である多汗症の方は、多量の発汗により生活に支障をきたし、QOL低下が問題となっています。このように生活者の過剰な発汗の悩みを解決することを目的に、ヒトの汗腺の発汗の仕組みの解明、新たな効果的な制汗成分の開発に取り組んで参りました。今後は、本研究成果を社会実装し、汗に悩みを抱える生活者のQOL向上に繋げていきたいと思います。

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会社概要

株式会社マンダム

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URL
https://www.mandom.co.jp
業種
製造業
本社所在地
大阪府大阪市中央区十二軒町5-12
電話番号
06-6767-5021
代表者名
西村 健
上場
東証プライム
資本金
-
設立
1927年12月