敗血症関連筋萎縮を抑制する新規治療薬の可能性

― AMP(アデノシン一リン酸)による人工冬眠作用の応用研究 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学の吉原育実 非常勤助手、近藤豊 主任教授らの研究グループは、敗血症関連筋萎縮の進展メカニズムを解明し新しい治療法を提案しました。現在まで敗血症関連筋萎縮の原因は多岐にわたると考えられており、どの要因が重要か不明でした。そこで本研究グループは人工冬眠作用の応用研究により、筋萎縮の要因は高炎症性サイトカイン血症によるものであり、そのなかでインターロイキン-1β(代表的な炎症性サイトカイン)が発症の鍵であることを発見しました。さらにAdenosine 5’-monophosphate(アデノシン一リン酸、通称AMP)の投与によりその筋萎縮を抑制することを確認しました。本結果は、従来運動器リハビリテーション以外の治療法が無かった敗血症性筋萎縮に対し、AMP投与による新規治療法の可能性を示すものです。

本論文はJournal of Intensive Care誌のオンライン版に2026年7月4日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  敗血症関連筋萎縮の進展にはインターロイキン-1βが重要であることを発見

●  人工冬眠作用を有するAMPが敗血症関連筋萎縮の抑制効果があることを確認

●  現在まで薬物による治療法がなかった敗血症関連筋萎縮に対する新規治療法開発の可能性

背景  

敗血症*¹は、感染に対する宿主免疫応答の破綻によって生じる生命を脅かす病態であり、近年の治療成績向上により生存率は改善している一方で、敗血症関連筋萎縮*²が重要な予後規定因子として注目されています。敗血症関連筋萎縮は患者の身体機能回復や社会復帰に大きく影響し、その発症には炎症性サイトカイン*³、酸化ストレス、蛋白代謝異常など複数の機序が関与すると考えられていました。しかしながらどの要因が敗血症関連筋萎縮の発症に重要なのかは明らかになっていませんでした。一方でAMP*⁴は以前から人工冬眠作用があることがわかっており、臓器保護作用を有する可能性がありました。そこで本研究では、敗血症関連筋萎縮の分子学的機序とAMPによる敗血症関連筋萎縮の抑制効果について、サイトカイン発現、AMPK*⁵活性化および網羅的遺伝子解析の観点から検討を行いました。

内容  

本研究では、細胞実験においてC2C12筋管細胞およびRAW264.7マクロファージ細胞を用いてAMPの作用を検討しました。動物実験では雄性C57BL/6マウスを用いて盲腸結紮穿刺を施した敗血症モデルを作製し、AMPを腹腔内投与しその効果を検討しました。実験動物の握力測定、血液・筋組織解析、ウエスタンブロット、RNAシークエンス、ELISA、フローサイトメトリー、リアルタイムPCR、免疫組織化学染色、組織学的評価などを実施しました。さらにヒト敗血症患者血漿を用いた解析を行いました。その結果、ヒト敗血症患者の血漿を用いた解析で、筋萎縮を伴う症例で炎症性サイトカインが高値を示しました。細胞・動物実験ではAMPは敗血症に伴う炎症性サイトカイン産生を抑制し、AMPKシグナルの調節およびmTORC1活性化の抑制を介して敗血症を発症した実験動物の筋量と筋力が回復しました。また、AMPはRAW264.7マクロファージ細胞においてエンドトキシン誘導性インターロイキン-1βの産生を抑制し、C2C12筋管細胞におけるエンドトキシンまたはインターロイキン-1βの誘導性筋萎縮を軽減しました。

以上の結果から、敗血症関連筋萎縮は高インターロイキン-1β血症が要因であることが明らかになりました。さらにAMPの投与により筋細胞におけるAMPKの活性化やFbx32の発現抑制が起こり、敗血症関連筋萎縮が抑制される可能性を示しました(図1)。

今後の展開  

今回、研究グループは従来治療法がなく、発症メカニズムも不明であった敗血症関連筋萎縮の発症メカニズムを解明しました。さらにAMPにより敗血症関連筋萎縮の抑制効果を初めて示したものです。本治療法が臨床応用されれば、敗血症から回復した後も後遺症で苦しむ数百万人の患者が救済されることが期待されます。

   

図1:本研究で明らかになった敗血症関連筋萎縮の発症メカニズムとAMPの作用

敗血症ではマクロファージ細胞などの炎症細胞から放出されるインターロイキン-1βにより筋萎縮が引き起こされる。AMPは筋細胞に働きかけAMPKを活性化させると同時に、炎症細胞へ働きかけインターロイキン-1βの放出を抑制する。その結果、筋細胞中のFbx32の発現が抑制され敗血症関連筋萎縮を防止する。

用語解説

*1 敗血症: 感染に対する生体反応が過剰かつ制御不能となり、全身の臓器障害を引き起こして生命を脅かす重篤な病態。世界で年間約1,100万人が死亡する主要な死亡原因の一つ。

*2 敗血症関連筋萎縮: 敗血症に伴う全身炎症や代謝異常により骨格筋量と筋力が低下し、身体機能回復や長期予後に影響を及ぼす病態。

*3  炎症性サイトカイン: 免疫細胞から産生され、炎症反応を促進・調節する生理活性物質であり、感染防御に重要な役割を果たす。一方で過剰な産生は組織障害や臓器障害を引き起こす。

*4  AMP: 生体内のエネルギー代謝を担うアデニンヌクレオチドの一種であり、細胞のエネルギー恒常性や代謝調節に重要な役割を果たす。

*5  AMPK: AMP活性化プロテインキナーゼの略称であり、細胞内のエネルギー状態を感知する主要な代謝制御因子であり、エネルギー不足時に活性化される。生体の恒常性維持に重要な役割を果たす酵素である。

原著論文 

本研究はJournal of Intensive Care誌のオンライン版に2026年7月4日付で公開されました。

タイトル: Adenosine 5'-monophosphate prevents sepsis-associated muscle wasting by activating AMPK and suppressing IL-1β inflammatory cytokines

タイトル(日本語訳): アデノシン一リン酸はAMPKを活性化し、炎症性サイトカインIL-1βを抑制することで、敗血症関連筋萎縮を予防する

著者: Ikumi Yoshihara1, Narumi Yoshihara1, Kei Hanafusa2,3, Koichiro Sueyoshi1, Yuko Ono1, Nao Umei1, Shin Watanabe1, Ken Okamoto1, Hiroshi Tanaka1, Yutaka Kondo1*

著者(日本語表記): 吉原育実1)、吉原成実1)、花房 慶2)3)、末吉孝一郎1)、大野雄康1)、梅井菜央1)、渡邉 心1)、岡本 健1)、田中 裕1)、近藤 豊1)

著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学、2)順天堂大学環境医学研究所、3) 順天堂大学 薬学部薬学科

DOI: https://doi.org/10.1186/s40560-026-00901-7

  

本研究はJSPS科研費JP24KJ1980,JP25K12250,JP22K09192,JP22KK0264,JP25K12259と公益財団法人 小林財団2024年研究助成の支援を受け実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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上場
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設立
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