HPVワクチン教育に“謎解き”を活用

― 女子大学生を対象とした研究で、知識保持と主体的な学びを促す可能性を確認―

学校法人 順天堂

順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学講座の近藤慶太大学院生、宮上泰樹助教、齋田瑞恵准教授、内藤俊夫主任教授らの研究グループは、HPV(*1)ワクチン(*2)の教育において、謎解き(*3)を教材に用いた参加型教育の効果を検証しました。本研究では、女子大学生267名を対象に、謎解き群、講義群、対照群(非介入)の3群に分けて比較した結果、研究直後のHPVワクチンの知識や接種意向は、講義群が最も大きく向上しました。一方、3か月後の知識保持状況は謎解き群と講義群が対照群より高く、両群間に差はありませんでしたが、謎解き群では謎解きによって感情的関与、内発的動機づけ、仲間との協働が促されました。本成果は、若年層がHPVワクチンについて主体的に学ぶための参加型教育における可能性を示すものです。本論文はScientific Reports誌のオンライン版に2026年4月18日付で掲載されました。

本研究成果のポイント

● HPVワクチン教育のために、紙媒体の問題用紙とLINEチャットボット(*4)の組み合わせによる謎解きを用いた教材を開発し、女子大学生を対象に効果を検証しました。

● 3か月後の知識保持は、謎解き群と講義群が対照群より高く、謎解き群と講義群の間に有意な差は認められませんでした。

● 自由記述の分析から謎解きを用いた参加型教育によって感情的関与、内発的動機づけ、仲間との協働を促され、従来型講義を補完する教育手法としての展開が期待されます。

背景

子宮頸がんの主な原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)感染は、HPVワクチンにより予防可能です。しかし日本では、国の方針により、2013年にHPVワクチンの積極的勧奨が差し控えられた影響などにより接種率が大きく低下しました。2022年に積極的勧奨が再開された後も、若年層への正確な情報提供が課題となっています。特に大学生の年代では、HPVワクチンの必要性を自分ごととして理解し、接種について考える機会が十分に与えられているとはいえません。そこで本研究では、若年層になじみやすい謎解きを用いた教材を開発し、従来型講義と比較して教育効果を検証しました。

内容

本研究では、共立女子大学の学生を対象に、HPVワクチンに関する教育の効果を検証しました。研究デザインは、謎解き群92名、講義群75名、対照群100名の3群を比較する非ランダム化準実験研究です。

謎解き群では、参加者が3〜4名のチームを組み、物語に沿って紙媒体の問題用紙に書かれた暗号やクロスワードなどの謎を解き、LINEチャットボットに回答を入力しながらHPVワクチンに関する学習を進めました。講義群では、総合診療を専門とする医師が同じ内容の双方向型講義(*5)を30分間行い、対照群では、アンケートのみを実施しました。

評価は、研究開始前、開始直後、研究3か月後に実施しました。HPVワクチンに関する参加者の知識、接種意向、満足度、理解度、実際の接種開始率を定量的に評価し、さらに謎解き群の自由記述については、Finkの意義ある学習分類(*6)に基づく内容分析を行いました。

その結果、研究開始直後のワクチンに関する参加者の知識、接種意向、満足度、理解度は、講義群が最も高い結果となりました。一方、3か月後の知識保持については、謎解き群と講義群が対照群より高く、謎解き群と講義群の間に有意な差は認められませんでした。これは、謎解きを教材に用いた参加型教育が、講義と同様に、HPVワクチンに関する知識を一定期間保持する教育手法となり得ることを示しています。

また、研究開始前にHPVワクチン未接種であった参加者において、3か月後の接種意向は、謎解き群が対照群よりも大きく向上しました。一方で、3か月後の実際の接種開始率は講義群が最も高く、謎解き群と対照群の間には有意な差は認められませんでした。この結果は、参加型教材による動機づけに加えて、医療者による説明や質疑応答など、信頼できる情報提供の機会が重要であることを示しています。

自由記述の分析では、謎解きを教材に用いた参加型教育が、楽しさ、好奇心、主体的な学習、仲間との協力、ワクチンについて考えるきっかけを生み出していたことが示されました。特に、感情的関与や内発的動機づけに関する記述が多く、謎解きは単なる知識習得だけでなく、若年層がHPVワクチンについて前向きに学ぶ入口として機能することを示唆するものでした。

以上の結果から、謎解きは、従来型講義に完全に置き換わるものではないものの、講義や医療者との対話を補完し、若年層がHPVワクチンについて主体的に学ぶための教育手法として一定の効果を期待することができます。

今後の展開

本研究により、謎解きは、HPVワクチンに関する知識保持を促し、若年層の学習意欲や主体的な関心を高める可能性が示されました。一方で、実際にHPVワクチン接種開始率を上げるには、教材による学習だけでは不十分であり、医療者による説明、個別の疑問に答える機会、接種場所や費用などの具体的な情報提供を組み合わせることが重要であると考えられます。

今後は、謎解きの後に医療者による短い解説や質疑応答を加えるなど、謎解きと専門家からの情報提供を組み合わせた教育プログラムの開発が期待されます。また、大学生だけでなく、中学生・高校生、保護者、地域住民など、さまざまな対象者に応じた教材への改良と効果検証を進めることで、HPVワクチンに関する正しい理解と納得に基づく意思決定を支援することが可能になると考えられます。

本研究は、医療情報を一方的に伝えるだけでなく、楽しさや物語性、協働学習を通じて、健康課題を自分ごととして考えるための新しいヘルスコミュニケーションの可能性を示すものです。

図1:HPVワクチンの教育における謎解きを教材に用いた参加型教育の概要と主な効果

本研究では、紙媒体の問題用紙とLINEチャットボットを組み合わせた謎解きを用いて、女子大学生がチームで謎を解きながらHPVワクチンについて学習しました。3群を比較した結果、3か月後の知識保持は謎解き群と講義群が対照群より高く、両群間に有意な差は認められませんでした。また、自由記述の分析から、謎解きを教材に用いた参加型教育は楽しさや好奇心、主体的な学び、仲間との協働を促す可能性が示されました。

用語解説

*1 HPV: ヒトパピローマウイルスの略称。多くの人が一生のうちに感染しうるウイルスであり、一部の型は子宮頸がんなどの発症に関係する。

*2 HPVワクチン: 子宮頸がんなどの原因となるHPV感染を予防するためのワクチン。日本では小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象に定期接種が行われている。

*3 謎解き(脱出ゲーム): 参加者が物語や設定に沿って提示される手がかりをもとに、暗号やパズル、問いを解き進める参加型コンテンツである。近年は、イベントや商業施設、教育現場などでも活用されており、参加者が楽しみながら主体的に考え、学ぶきっかけをつくる手法として注目されている。

*4 LINEチャットボット: 参加者がLINE上で回答を入力すると、自動的に物語や次の課題が進行する仕組み。本研究では、紙媒体の問題用紙と組み合わせて謎解きを用いた教材を構成した。

*5 双方向型講義: 講師の説明を聞くだけでなく、参加者がクイズや問題に答えながら学ぶ講義形式。自分で考えたり、回答を振り返ったりする機会を設けることで、内容への理解を深めることを目的としている。

*6 Finkの意義ある学習分類: 学習成果を、知識だけでなく、応用、統合、人間的側面、関心・価値づけ、学び方の学習などを含めて捉える教育理論。本研究では、謎解き群の自由記述分析に用いた。

研究者のコメント

以前より謎解きを作る中で、楽しさや驚きが学びの入口になる手応えを感じていました。本研究では、それを教育効果として検証できたことを嬉しく思います。一方で、謎解きは万能ではなく、すべての人に届く手法でもありません。そのため、多様な人が多様な方法で啓発を行い、社会を少しでも健康に近づけていければと考えています。


原著論文 

本研究はScientific Reports誌のオンライン版で2026年4月18日付で公開されました。

タイトル: Escape room-based learning for HPV vaccine education in Japanese female university students: a controlled, three-group study

タイトル(日本語訳): 日本人女子大学生に対するHPVワクチン教育における脱出ゲーム型学習:3群比較研究

著者: Keita Kondo1), Kosuke Ishizuka2), Taiju Miyagami1), Mitsuki Ugajin3), Miyuki Yuasa4), Mizue Saita1), Toshio Naito1)

著者(日本語表記): 近藤慶太 1)、石塚晃介2)、宮上泰樹1)、宇賀神光輝3)、湯浅美由紀4 )、齋田瑞恵1)、内藤俊夫1)

著者所属: 1)順天堂大学医学部 総合診療科学講座、2)横浜市立大学医学部 総合診療医学、3)滋賀医科大学医学部医学科、4)共立女子大学 学生支援課 保健室

DOI:10.1038/s41598-026-48126-w

本研究に参加いただいた皆様、研究実施にご協力いただいた共立女子大学の関係者の皆様に深く御礼申し上げます。

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会社概要

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URL
http://www.juntendo.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都文京区本郷2-1-1
電話番号
03-3813-3111
代表者名
小川 秀興
上場
未上場
資本金
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設立
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