細菌毒素から細胞を守る新たな仕組みを発見

― 生理活性脂質とその受容体が細胞膜修復を促進 ―

学校法人 順天堂

順天堂大学医学部生化学第一講座の遅源 助教、佐伯和子 先任准教授、横溝岳彦 教授らの研究グループは、生理活性脂質*¹ 2-HHT*²によるBLT2*³の活性化が、細菌毒素による細胞膜損傷から細胞を守る仕組みを明らかにしました。多くの病原性細菌は細胞膜上で多量体化して膜孔を形成する毒素(膜孔形成毒素:PFT)*⁴を産生することで宿主細胞に深刻なダメージを引き起こしますが、宿主上皮細胞はPFTに応答して12-HHTを産生し、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)*⁵の1つであるBLT2を活性化することで、PFTによる損傷膜を積極的に細胞外小胞(EV)*⁶に乗せて除去し、細胞骨格の再構築を促すことで細胞膜の修復を促進させていることを明らかにしました。本成果は、生理活性脂質によって活性化されるGPCRが細胞膜修復を制御することを報告するものであり、宿主細胞が本来備える修復能力を高めるという新たな細胞保護戦略への応用の可能性を示すものです。

本論文は、Rockefeller University Pressの学術誌Journal of Cell Biology誌のオンライン版に2026年9月3日付で公開されました。

   

本研究成果のポイント

●  12-HHTによるBLT2の活性化が細胞膜修復を促進し、膜孔形成毒素による細胞死を抑制することを発見した

●  12-HHT/BLT2経路が、細胞外小胞による損傷膜の除去や細胞骨格の再構築を促進し、細胞膜修復を制御することを解明した

●  12-HHT/BLT2経路の活性化が、宿主細胞の修復能力を高める新たな細胞保護戦略の開発へつながる可能性を見いだした

背景

細菌の産生する膜孔形成毒素(PFT)は、さまざまな細菌感染症において組織傷害の重症化に関わることが知られています。一方、細胞には損傷した細胞膜を修復して生存を維持するさまざまな仕組みが備わっているものの、細胞膜修復の調節因子や詳細な仕組みについては、十分に明らかになっていませんでした。12-HHTは、生体内で産生される生理活性脂質であり、上皮細胞に広く発現しているBLT2に作用して生理機能を発揮します。本研究では、BLT2欠損マウスが肺炎球菌の産生するPFTの気道内投与に対して脆弱であることに着目して、12-HHT/BLT2経路がPFTによる上皮細胞膜障害およびその後の修復機構に与える影響を検証しました。

 

内容

本研究では、BLT2の発現がPFTによる細胞膜障害に与える影響を調べる目的で、ホロトモグラフィック顕微鏡*⁷や走査型電子顕微鏡を用いて、PFT添加後の細胞の形態変化をBLT2発現上皮細胞とBLT2非発現上皮細胞で観察しました。その結果、BLT2を発現していない細胞ではPFT添加後すぐに細胞膜の膨張・核の萎縮・ミトコンドリアの崩壊といった浸透圧異常を示す形態変化が生じたのに対して、BLT2発現細胞では細胞膜の激しいラフリングが生じたものの、核やミトコンドリアの形態は維持されていました。そこで、細胞膜の障害の程度を調べたところ、BLT2発現細胞では、細胞膜の障害が著しく抑制されていることが明らかとなりました。

次に、BLT2が細胞膜障害を抑制する仕組みについて調べました。PFT添加後の細胞を蛍光顕微鏡で観察したところ、PFTと膜修復因子ANXA1*⁸とBLT2が細胞膜の局所に共に集積してくることが明らかとなりました。また、BLT2発現細胞ではPFT添加による細胞外小胞(EV)の数の上昇が認められたため、透過型電子顕微鏡を用いてEVの形態を観察したところ、PFTによる膜孔や膜孔前駆体が多数含まれていました(図1)。このことから、BLT2はPFTの膜孔を含む細胞膜をEVとして細胞外へ排出し、細胞膜の修復を促進させていると考えられます。また、EVの放出やその後の細胞膜の正常化には、細胞膜を裏から支えている細胞骨格の再構築が必要であると考えられます。BLT2を発現する細胞では、PFT添加後に細胞骨格であるアクチン繊維の形成が促進していました。

最後に、BLT2による上皮細胞での細胞膜保護作用にはリガンドが必要であるかを調べました。PFT添加により上皮細胞で12-HHTが産生されるか質量分析計を用いて調べたところ、BLT2を活性化しうる濃度の12-HHTが作られていることが明らかとなりました。また、この12-HHT産生を抑制するとBLT2による保護作用が消失したことから、BLT2による細胞膜修復にはリガンドとして12-HHTが必要であることが明らかになりました (図1)。

本研究では、PFTとして肺炎球菌が産生するニューモリシン、溶血性連鎖球菌が産生するストレプトリジンO、黄色ブドウ球菌が産生するαヘモリジンを用いていますが、どのPFTに対してもBLT2は細胞膜障害を抑制する作用を示しており、BLT2がさまざまな細菌感染症の重症化抑制に寄与している可能性が考えられます。

  

今後の展開

本研究では、生理活性脂質12-HHTによるBLT2の活性化が細胞膜の修復を促進し、病原性細菌の産生する毒素による細胞死を抑制することを明らかにしました。今後、BLT2が膜修復に関わる他の因子とどのように連携して細胞膜の修復や再構築を制御するのかを明らかにするとともに、細菌感染モデルにおいて12-HHT/BLT2経路が組織傷害を保護しうるかを明らかにすることが重要です。さらに、病原体や毒素を標的とする抗菌薬や抗毒素療法といった従来の方法に加えて、12-HHT/BLT2を標的として宿主細胞が元来有している修復能力を高めるという新たな細胞保護戦略につながる可能性が期待されます。

図1)12-HHT/BLT2経路による細胞膜修復の促進機構

病原性細菌の産生する膜孔形成毒素が宿主上皮細胞の細胞膜上で多量体化して膜孔を形成すると、上皮細胞では12-HHTの産生が上昇してBLT2が活性化されます。BLT2は、毒素の孔を含む損傷膜を細胞外小胞に乗せて細胞外へと積極的に放出させるとともにRac1の活性化を介してアクチン細胞骨格の再構築を促進させることで、細胞膜の修復を促して細胞死を抑制することが明らかとなりました。(細胞外小胞の写真:矢印は毒素の膜孔、星印は毒素の膜孔前駆体)

   

用語解説

*1 生理活性脂質

細胞外からの刺激に応答して生体膜の構成成分から一過性に産生され、特異的な受容体を介して生理作用を発揮する脂質分子の総称で、脂質メディエーターとも呼ばれます。

*2 12-HHT(12-hydroxyheptadecatrienoic acid)

アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)を介して体内で産生される生理活性脂質です。BLT2の内因性リガンドとして作用し、BLT2を活性化することが知られています。

*3 BLT2(leukotriene B4 receptor 2)

細胞膜上に存在するGタンパク質共役型受容体(GPCR)の1つで、12-HHTによって活性化されます。上皮組織に広く発現し、上皮バリア機能の維持や創傷治癒などに関与することが知られています。

*4 膜孔形成毒素(Pore-forming toxin:PFT)

細菌などが産生する毒素の一群で、細胞膜上で多量体の孔を形成し、細胞内外のイオンや物質のバランスを崩すことで細胞を傷害します。

*5 Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)

細胞膜上に存在し、細胞外からのさまざまな情報を細胞内へ伝える受容体の一群です。ヒトでは多数のGPCRが存在し、多くの生理機能を調節しています。また、多くの医薬品の標的となっている重要な受容体群です。

*6 細胞外小胞(Extracellular vesicle:EV)

細胞から細胞外へ放出される、脂質膜で囲まれた微小な小胞の総称です。細胞間の情報伝達や不要な物質の排出など、さまざまな機能に関与します。

*7 ホロトモグラフィック顕微鏡

細胞を構成する物質ごとの屈折率の違いを利用して、細胞小器官や細胞膜の構造を高精度で検出できる光学顕微鏡で、特殊な染色をせずに生きた細胞の微細な形態変化を捉えることができます。

*8 ANXA1(Annexin A1)

カルシウム依存的にリン脂質膜へ結合するタンパク質で、細胞膜修復を含むさまざまな細胞機能に関与します。

 

研究者のコメント

私は、細胞で起きている様々な生命現象を捉え、その運命がどのように決定されるのかを明らかにすることに魅力を感じています。細胞膜損傷後の細胞の運命を追究する中で、12-HHT/BLT2という細胞自身が元来持っている防御の仕組みに出会いました。損傷した膜を速やかに修復し、細胞を死ではなく生存へと導くこの仕組みについて、今後さらに深く理解し、細胞が持つ「修復する力」を生かした新たな細胞保護のアプローチにつなげたいと考えています。

本研究を支えてくださった皆様に心より感謝申し上げます。(遅 源)

原著論文 

本研究は、Journal of Cell Biology誌のオンライン版に2026年9月3日付で公開されました。

タイトル: Lipid-mediated activation of BLT2 promotes membrane repair to prevent cell death.

タイトル(日本語訳): 生理活性脂質によるBLT2の活性化は細胞膜修復を促進して細胞死を防ぐ

著者: Yuan Chi, Kazuko Saeki, Ken Yasukawa, Soichiro Kakuta, Tomoaki Koga, Takehiko Yokomizo

著者(日本語表記): 遅源1,2)、佐伯和子1)、安川賢1,3)、角田宗一郎4)、古賀友紹1,5)、横溝岳彦1)

著者所属:

1)順天堂大学医学部生化学第一講座

2)順天堂大学大学院医学研究科 ゲノム・再生医療センター

3)佐藤製薬株式会社 創薬研究部

4)順天堂大学大学院医学研究科 共同研究基盤センター 形態解析イメージング研究室

5)金沢大学 医薬保健研究域 薬学系 炎症記憶制御学

DOI: 10.1083/jcb.202510004    

    

本研究は、JSPS科研費JP18F18093、JP20K22790、JP23K14505、JP26K18568、JP18K06923、JP21K06826、JP25K11792、JP18H02627、JP19KK0199、JP21H04798、JP24H00601、日本医療研究開発機構(AMED-CREST)JP19gm1210006、JP21wm0425008、JP25gm1910006、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1411007)、日本科学協会笹川科学研究助成の支援を受けて実施されました。

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上場
未上場
資本金
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設立
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