国内初: 酪酸菌配合剤が高齢者の機能性便秘症状を改善する可能性を報告
順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 浅岡大介教授らのグループは、 医療用の酪酸菌配合剤*¹(以下、酪酸菌配合剤)が高齢者の機能性便秘症における便性状および便秘関連症状を改善する可能性を国内で初めて明らかにしました(株式会社インフォレスタ調べ2025年6月末時点)。高齢者の機能性便秘症は健康長寿に影響を及ぼすため、“人生100年時代”のわが国において酪酸菌配合剤による治療は高齢者の便秘症に対する安全かつ有用な選択肢の一つとなる可能性が示唆されました。
本研究はオンラインオープンアクセス学術ジャーナルDiseases誌に2026年8月31日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● 高齢者の機能性便秘症において、酪酸菌配合剤投与により、治療前と比較して主要評価項目である便性状(排便スコア)*²の改善傾向が認められました。また副次評価項目である「日本語版便秘症患者QOL評価尺度(JPAC-QOL)*³」、「改変便秘症状重症度スコア(mCSS)*⁴」においても、便秘関連症状(QOLおよび重症度)の改善傾向が示されました。
● 胃酸分泌抑制薬(PPI/P-CAB)の使用状況別にサブ解析を行ったところ、非服用群では投与8週時点で便性状(排便スコア)の改善傾向が認められた一方、服用群では明確な変化が認められませんでした。
背景
高齢者の慢性便秘症は生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、近年では冠動脈疾患、脳血管疾患、慢性腎疾患、フレイル、サルコペニアなどと関連し、生命予後にも影響を及ぼす可能性が報告されています。慢性便秘症の中でも、明らかな器質的疾患や薬剤性・症候性の要因を主因としない機能性便秘症は、日常診療でしばしば遭遇する重要な病態であり、その予防や安全な治療法の確立は、臨床上重要な課題です。
今回研究グループは、医療用の酪酸菌配合剤である3菌株配合プロバイオティクス製剤*⁵(乳酸菌・糖化菌・酪酸菌)を高齢の機能性便秘症患者に8週間投与し、安全性ならびに、便性状(排便スコア)、便秘関連症状(QOLおよび重症度)、腸内細菌叢を探索的に評価することを目的として、単施設、非盲検、単群試験を実施しました。
内容
本研究では、RomeⅣ診断基準*⁶を満たした高齢の機能性便秘症患者(65歳以上90歳未満)49名を対象に、酪酸菌配合剤を1回2錠、1日3回毎食後8週間投与しました。
主要評価項目である排便スコアは、治療前(0週)と比較して治療8週後に便性状が改善する傾向が認められました(図1)。また排便スコアを、PPIもしくはP-CAB服用の有無で検討したところ、PPI/P-CAB非服用群では8週時点で治療前(0週)と比較し改善傾向が認められましたが、PPI/P-CAB服用群では改善傾向は見られませんでした(図2)。この結果から、PPI/P-CAB服用が、排便スコアに対するプロバイオティクスの効果に影響を及ぼしていることが示唆されました(図2)。

また、生活の質(QOL)の改善を評価するJPAC-QOLの合計スコアは、治療前(0週)と比べ治療8週後において改善傾向が確認され、便秘の重症度の指標となるmCSSの合計スコアも、治療前(0週)と比べ治療8週後において改善傾向が確認されました(図3)。

本研究における有害事象は、49例中3例(6.1%)の患者で計3件報告されました。重篤な有害事象として「予期せぬ死亡」が1件認められましたが、酪酸菌配合剤との因果関係は認められませんでした。また、因果関係が否定できない有害事象として「腹痛」1件、「胸やけ・胃灼熱感・胃痛」1件が確認されました。これらの患者はいずれも酪酸菌配合剤の投与を中止し、中止後に症状の改善を認めました。
さらに、酪酸菌配合剤が腸内細菌叢に及ぼす変化を検討したところ、治療前(0週)と治療8週後の菌の多様性に違いは認められませんでした。また、全体集団における腸内細菌叢の差を見つける解析(LEfSe解析)を実施したところ、治療前後で変化は認められませんでした。一方、サブ解析において、PPI/P-CAB非服用群では治療前(0週)と比べ治療8週後に酪酸産生に関連する分類群の一つであるClostridium sensu stricto 1属の増加が示され、Clostridium sensu stricto 1属の増加が便秘症状に影響を与えたと考えられました。さらに、治療8週後における両群の腸内細菌叢をLEfSe解析で比較したところ、PPI/P-CAB服用群において Streptococcus、Veillonella、Rothia、および未分類の Pasteurellaceae を含む「口腔関連細菌群」の増加が認められました。これらの結果から、PPI/P-CAB服用による胃酸分泌抑制が、これら口腔関連細菌の定着・増加に関連している可能性が明らかになりました。
今後の展開
本研究で得られた知見を基盤として、高齢者の健康寿命延伸を目標に、便秘症状に対する予防・介入を視野に入れた臨床研究に取り組んでおり、現在は、高齢者の慢性便秘症に対するプロバイオティクス投与の有効性や、PPI/P-CAB服用の影響について、本研究で得られた結果の検証を進めています。
前向きランダム化比較試験(RCT)も見据えた検討では、プロバイオティクス投与の有効性・安全性に関するより高い水準のエビデンス確立のために、プロバイオティクスと全身性疾患との関連についても研究を進め、腸内環境を介した新たな予防・介入戦略の構築につなげたいと考えています。
用語解説
*1.医療用の酪酸菌配合剤: 酪酸菌を含む複数の有用菌を配合した整腸剤であり、腸内環境の改善を通じて消化器症状の改善に用いられる医療用製剤
*2.排便スコア: 便の形や硬さを7段階で表す「ブリストル便形状スケール(BSFS)」をもとに、1週間の便の状態をまとめて評価する指標。正常な便に近い状態を基準とし、便が出なかった日や硬い便の日は低い点数となる。スコアがマイナスから0に近づくほど、便の状態が正常に近づき、改善していることを示す *Nagamine T et al. Biosci Microbiota Food Health. 2020; 39(4): 197–198.
*3.JPAC-QOL(Japanese version of the Patient Assessment of Constipation Quality of Life questionnaire (日本語版便秘症患者QOL評価尺度)): 便秘によって日常生活のしやすさや気分、体の不快感などにどの程度影響が出ているかを、患者さん自身が回答して評価する質問票。便秘が生活の質(QOL)に与える影響を把握するために用いられる日本語版の評価尺度 *Nomura H, et al. J Gastroenterol. 2014; 49: 667–673.
*4. 改変便秘症状重症度スコア(mCSS:Modified Constipation Scoring System): 便秘の程度を数値で評価する方法。排便回数、便の出しにくさ、残便感、腹痛、便秘のためにかかる時間などをもとに、便秘症状がどのくらい強いかを総合的に確認するために用いた.本研究ではCSS*(Constipation Scoring System)から病悩期間(年)を除いてスコア化している*Agachan et al. Dis Colon Rectum. 1996;39:681–685.
DOI:10.1007/BF02056950
*5. 3菌株配合プロバイオティクス製剤: 3種類の有用菌株を組み合わせて配合した製剤で、腸内細菌叢のバランスや腸内環境の改善を目的として用いられる
*6. Rome IV診断基準(機能性便秘症): 便秘の症状がどのくらい続いているか、また「便が出にくい」「硬い便が多い」「出し切れない感じがある」などの状態があるかを確認し、機能性便秘症を判定するための世界的な基準
1)機能性便秘症の診断基準:以下の6項目のうち2項目以上を満たす
a. 排便の4分の1超で強いいきみを要する
b. 排便の4分の1超で兎糞状便または硬便(ブリストル便形状スケールでタイプ1または2)を認める
c. 排便の4分の1超で残便感を認める
d. 排便の4分の1超で直腸肛門の閉塞感または排便困難感を認める
e. 排便の4分の1超で用手的な排便介助を要する
f. 自発的な排便回数が週3回未満である
2)補足基準:緩下剤を使用しない場合に軟便はまれであり、過敏性腸症候群(IBS)の診断基準を十分に満たさない
3)慢性の基準:症状は6ヵ月以上前から出現し、最近3ヵ月間は上記基準を満たしている
原著論文
本研究はDiseases誌のオンライン版に2026年8月31日付で公開されました。
タイトル: Safety and Exploratory Pre–Post Changes Associated with an Orally Disintegrating Three-Strain Probiotic Tablet in Older Adults with Functional Constipation: A Single-Center, Open-Label, Single-Arm Study
タイトル(日本語訳): 機能性便秘を有する高齢者における3菌株配合口腔内崩壊プロバイオティクス錠に関連する安全性および探索的前後変化:単施設、非盲検、単群試験
著者: DAISUKE ASAOKA¹*,TSUTOMU TAKEDA²,YASUHISA JIMBO¹, EIJI KAMBA¹,YUSUKE NOMOTO¹,OSAMU NOMURA¹, DAIKI ABE²,KUMIKO UEDA²,HIROYA UEYAMA²,HIROYUKI ISAYAMA²,MARIKO HOJO²,AKIHITO NAGAHARA²
著者(日本語表記): 浅岡大介1)、竹田努2)、神保泰久1)、樺暎志1)、野元勇佑1)、野村収1)、阿部大樹2)、上田久美子2)、上山浩也2)、伊佐山浩通2)、北條麻理子2)、永原章仁2)
著者所属: 1)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科、2)順天堂大学医学部 消化器内科学講座
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