加熱殺菌ビフィズス菌の摂取がサルコペニア患者の筋量関連指標に影響を及ぼす可能性を 確認
-サルコペニア患者を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験-
順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 浅岡大介教授らの研究グループは、サルコペニア患者を対象に、加熱殺菌したビフィズス菌 Bifidobacterium breve MCC1274/B-3(B-3HK)(*1)の24週間摂取による筋肉への影響を検討する無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。
その結果、主要評価項目である膝伸展筋力(*2)の改善は認められませんでした。一方で、探索的解析において、骨格筋量指数(SMI)(*3)や四肢筋肉量(*4)などの筋量関連指標、さらに血中IGF-1(インスリン様成長因子-1)(*5)および25-ヒドロキシビタミンD(*6)について、プラセボ群と比較して有意な差が認められました。これらの変化は主としてプラセボ群で観察された低下の抑制によるものであり、加熱殺菌したビフィズス菌がサルコペニア患者の筋代謝関連経路に影響を及ぼす可能性を示唆しています。
本研究成果は、サルコペニア患者を対象とした介入研究の重要な基礎データとなり、今後の大規模臨床試験の設計に役立つことが期待されます。
本論文はNutrients誌のオンライン版に2026年9月20日付で公開されました。
本研究成果のポイント
・サルコペニア患者を対象に、加熱殺菌ビフィズス菌MCC1274/B-3(B-3HK)を24週間摂取する無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。
・主要評価項目である膝伸展筋力の改善は認められなかった。
・ 探索的解析において、筋量関連指標やIGF-1、25-ヒドロキシビタミンDについて、プラセボ群との有意な差が認められ、加熱殺菌ビフィズス菌の新たな可能性が示唆された。
背景
サルコペニアは加齢に伴う筋肉量および筋力の低下によって定義される疾患であり、フレイル、身体機能低下、要介護化、および死亡リスクの増加と関連しています。超高齢社会を迎えた日本において、サルコペニアの予防や改善は健康寿命延伸のための重要な課題となっています。
近年、腸内細菌叢と筋肉との関連を示す「腸-筋肉相関(gut–muscle axis)(*7)」が注目されています。腸内細菌由来の短鎖脂肪酸などの代謝産物は、筋肉のエネルギー代謝や炎症制御、タンパク質合成に関与することが報告されており、腸内細菌叢を標的とした新たな介入法の開発が期待されています。
Bifidobacterium breve MCC1274/B-3は、体脂肪低減や体組成改善との関連が報告されている菌株です。また、加熱殺菌したBifidobacterium breve MCC1274/B-3(B-3HK)は、筋肉量やミトコンドリア機能に関連するシグナル伝達経路を活性化することが示されています。しかし、サルコペニア患者を対象とした臨床試験はこれまで実施されていませんでした。
内容
本研究では、アジアにおけるサルコペニアの診断基準である「AWGS2019(*8)」に基づいてサルコペニアと診断された50~89歳の50名を対象に実施しました。対象者は、加熱殺菌したビフィズス菌MCC1274/B-3(B-3HK)を含む試験食品を摂取するグループ(B-3HK群)と、B-3HKを含まない食品を摂取するグループ(プラセボ群)の2つに無作為に分けられ、24週間(約6か月)にわたって毎日摂取しました。なお、思い込みによる影響を防ぐため、どちらの食品を摂取しているかは、参加者・研究者の双方に知らせない比較を行っています。
摂取を始める前と24週間後に、主要評価項目である膝伸展筋力のほか、筋肉量、歩行速度、握力、血液中成分、腸内細菌などを測定し、2グループ間の変化量を比較しました。
その結果、主要評価項目である膝伸展筋力については、両グループ間に差は認められず、B-3HKの摂取による筋力向上効果は得られませんでした。
一方、筋肉の量には違いが認められました。体に微弱な電流を流して体組成を推定する生体電気インピーダンス分析法(BIA法)(*9)で測定したところ、プラセボ群で24週間の間に骨格筋量指数(SMI)と四肢筋肉量がいずれも低下していたのに対し、B-3HK群ではその低下が抑えられ、両グループ間に統計学的有意差が認められました(図1)。ただし、X線を用いて測定する二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)(*10)による筋肉量や、歩行速度・握力といった身体機能指標では、両グループに差はみられませんでした。

図1 加熱殺菌ビフィズス菌MCC1274/B-3の摂取による筋量関連指標の変化
(a)骨格筋量指数(SMI)、(b)四肢筋肉量の変化量。MCC1274/B-3HK群では、プラセボ群と比較して筋量関連指標の低下が抑制される傾向が認められた。値は中央値±四分位範囲(IQR)で示した。
*p<0.05、**p<0.01。
血液検査では、筋肉のタンパク質がつくられる働きに関わるホルモンであるIGF-1と、骨や筋肉の健康に関わる25-ヒドロキシビタミンDについて、B-3HK群で増加がみられ、プラセボ群との間に有意な差が認められました(図2)。

図2 加熱殺菌ビフィズス菌MCC1274/B-3の摂取による血液バイオマーカーの変化
(a)IGF-1、(b)25-ヒドロキシビタミンDの変化量。MCC1274/B-3HK群では筋代謝関連マーカーに探索的な変化が認められた。値は中央値±四分位範囲(IQR)で示した。
*p<0.05、**p<0.01。
腸内細菌については、細菌の種類の豊富さやバランス(腸内細菌叢の多様性(*11))、主要な菌構成のいずれにも大きな変化はみられませんでした。このことから、加熱殺菌したビフィズス菌は、腸内細菌のバランスそのものを変化させるのではなく、それを受け取る人体の免疫やホルモン分泌を介して作用している可能性が示唆されます。
なお、筋肉量や血液成分でみられたこれらの変化は、あらかじめ検証すべき項目として定めていたものではなく、得られたデータを幅広く調べる中で見いだされたもの(探索的解析)です。参加者が50名と小規模であるため、本研究結果のみでB-3HKの有効性が証明されたわけではありません。
本研究では、筋力改善の効果は得られませんでしたが、加齢に伴う筋肉量の低下を抑えられる可能性と、筋肉の維持に関わる血液成分が変化する可能性が示されました。これは、食品を通じて腸から筋肉の健康にはたらきかけるという考え方を裏づける手がかりとなるものです。また、加熱殺菌した菌体は生きた菌と比べて、品質を保ったまま食品に利用しやすいという特長があり、日常生活に取り入れやすい形での応用が期待されます。
今後の展開
今回の結果は有効性を証明するものではありませんが、加熱殺菌ビフィズス菌がサルコペニア患者の筋肉の健康に寄与する可能性を示す結果であり、今後の研究に繋がる重要な知見です。今後はより大規模な臨床試験を実施し、その臨床的意義や作用機序を明らかにしていく予定です。
用語解説
*1 加熱殺菌したビフィズス菌 Bifidobacterium breve MCC1274/B-3(B-3HK): 森永乳業が保有するヒト由来のビフィズス菌株(Bifidobacterium breve種)の加熱殺菌体。筋量・筋力増加の可能性が示唆されている。
*2 膝伸展筋力: 太ももの前側にある大腿四頭筋を使って膝を伸ばす力のこと。歩行や立ち上がりなどの日常動作に重要な筋力指標として利用される。
*3 骨格筋量指数(SMI:Skeletal Muscle Mass Index): 四肢の筋肉量を身長の二乗で割って算出する指標。サルコペニア診断に広く用いられ、値が低いほど筋肉量が少ないことを示す。
*4 四肢筋肉量: 両腕と両脚に存在する筋肉量の合計。高齢者の筋肉量低下を評価する代表的な指標の一つである。
*5 IGF-1(Insulin-like Growth Factor-1:インスリン様成長因子-1): 肝臓などで産生されるホルモン。筋タンパク質合成や筋肉の維持・成長に重要な役割を果たすことが知られている。
*6 25-ヒドロキシビタミンD: 体内のビタミンD状態を評価する際に用いられる代表的な血液指標。骨の健康だけでなく、筋肉機能との関連も報告されている。
*7 腸-筋肉相関(gut–muscle axis): 腸内細菌やその代謝産物が筋肉の量や機能に影響を及ぼすという考え方。腸内環境とサルコペニアとの関連が注目されており、腸内細菌を介した筋肉の健康維持に関する研究が進められている。
*8 AWGS2019: アジア人を対象としたサルコペニア診断基準。筋肉量の低下に加え、握力や歩行速度などの身体機能の低下を組み合わせてサルコペニアを診断する。日本を含むアジア地域で広く用いられている。
*9 生体電気インピーダンス分析法(BIA法:Bioelectrical Impedance Analysis): 体に微弱な電流を流し、その流れやすさから筋肉量や体脂肪量を推定する測定方法。短時間で簡単に体組成を評価できるため、サルコペニアの評価などに広く用いられている。
*10 二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法:Dual-energy X-ray Absorptiometry): X線を用いて骨量、筋肉量、脂肪量を測定する方法。骨密度検査でも用いられており、筋肉量を比較的高い精度で評価できる。
*11 腸内細菌叢の多様性: 腸内に存在する細菌の種類やバランスの豊かさを示す指標。一般的に多様性が高いほど腸内環境が安定していると考えられている。
・α多様性:個人の腸内細菌叢の豊かさを示す指標
・β多様性:異なる人同士の腸内細菌叢の構成の違いを示す指標
研究者のコメント
サルコペニア患者を対象としたポストバイオティクスの臨床試験は世界的にも限られています。本研究では筋力改善は確認できませんでしたが、筋量関連指標やIGF-1などに興味深い変化が認められました。今後はより大規模な試験を通じて、腸内細菌由来成分が高齢者の筋肉の健康維持にどのように関与するのかを明らかにしていきたいと考えています。
(教授 浅岡 大介)
原著論文
本研究はNutrients誌のオンライン版に2026年9月20日付で公開されました。
タイトル: Effects of heat-killed Bifidobacterium breve B-3, a postbiotic, on muscle mass-related parameters in patients with sarcopenia: a randomized, double-blind, placebo-controlled pilot trial
タイトル(日本語訳): ポストバイオティクスである加熱殺菌Bifidobacterium breve B-3がサルコペニア患者の筋肉量関連指標に及ぼす効果:無作為化二重盲検プラセボ対照パイロット試験
著者: Daisuke Asaoka 1,*, Shin Yoshimoto 2, Noriko Katsumata 2, Noriyuki Iwabuchi 2, Naotake Yanagisawa 3, Toshitaka Odamaki 2, Jin-Zhong Xiao 4, Tsutomu Takeda 5, Shigeo Koido 6, Toshifumi Ohkusa 6, Akihito Nagahara 5 and Nobuhiro Sato 5
著者(日本語表記): 浅岡大介1)、吉本真2)、勝又紀子2)、岩淵紀介2)、柳澤尚武3)、小田巻俊孝2)、清水金忠4)、竹田努5)、小井戸薫雄6)、大草敏史6)、永原章仁5)、佐藤信紘5)
著者所属: 1)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科、2)森永乳業株式会社 バイオティクス研究所、3)順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター、4)森永乳業株式会社、5)順天堂大学医学部消化器内科学講座、6)東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科
DOI:10.3390/nu18183074
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