心不全入院患者における退院時の尿中アルブミン/クレアチニン比とその後の腎機能低下お よび腎関連イベントとの関連
― 全国多施設レジストリJROADHF-NEXTからの知見 ―
順天堂大学医学部循環器内科学講座の赤間優香 非常勤助教(共同筆頭著者)、真 優スレーシュワル 大学院生(共同筆頭著者)、中出泰輔 助教、藤本雄大 非常勤助教、末永祐哉 准教授、南野徹 教授らの研究グループは、入院心不全患者における尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)(*1)の臨床的意義を検討しました。UACR は慢性腎臓病において腎障害を反映する重要な指標として広く用いられていますが、心不全患者における腎機能低下や腎関連イベント(透析導入や腎臓病による死亡など)との関連は明らかとなっていませんでした。本研究では入院心不全患者を対象とし、退院時に測定したUACRの数値が高い患者ほど退院後の腎機能低下が大きく、腎関連イベントおよび全死亡リスクも高いことを明らかにしました。本成果は、退院時の UACR 測定が、その後の腎機能悪化と生命予後の両面を評価するうえで有用な可能性を示す重要な報告です。
本論文はJournal of Cardiac Failure誌のオンライン版に2026年9月30日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● 日本全国87施設が参加したJROADHF-NEXTレジストリを用いて、入院心不全患者における退院時の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の臨床的意義を検討した
● 退院時UACRの数値が高い患者ほど、退院後1年間の推算糸球体濾過量(eGFR)の低下が大きかった
● 退院時のUACR高値は、退院後の腎関連イベントおよび全死亡リスクの上昇と有意に関連していた
背景
心不全は高齢化に伴い患者数が増加している重要な循環器疾患であり、入院を要する心不全患者では、退院後も死亡や再入院のリスクが高いことが知られています。また、心不全患者は腎機能障害を合併することが多く、心臓と腎臓の相互作用、いわゆる「心腎連関」が病態や予後に大きく関与します。尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)は、尿中に排泄されるアルブミン量を評価する指標であり、慢性腎臓病では腎障害の検出や将来の腎機能低下を予測するための重要な検査です。一方で、心不全領域におけるUACRの研究は、主に死亡や心不全入院との関連に焦点が当てられており、退院後の腎機能低下や腎関連イベントとの関連は十分に検討されていませんでした。本研究では、JROADHF-NEXTを用いて、入院心不全患者における退院時UACRの値と、退院後の腎機能低下、腎関連イベント、死亡リスクとの関連を検討しました。
内容
本研究では、2019年から2021年にかけて国内87施設で実施された多施設前向き観察研究「JROADHF-NEXT」に登録された入院心不全患者のデータを用いて解析を行いました。今回の解析は、退院時に採取され、凍結保存された尿検体を用いてUACRの測定が可能であった3,107名が対象となりました(中央値年齢 76歳、男性 62%)。患者はUACRの値に基づき、A1(UACR < 30 mg/gCr)、A2(UACR 30–300 mg/gCr)、A3(UACR > 300 mg/gCr)の3群に分類しました。全体のうち、A1は 2,051名(66.0%)、A2は 695名(22.4%)、A3は 361名(11.6%)でした。
まず、退院時から1年後までの腎機能変化を評価したところ、UACRの値が高い群ほど推算糸球体濾過量(eGFR)(*2)の低下が大きいことが示されました(ANCOVA解析(*3) P < 0.001)。年齢、性別、退院時eGFRの違いを統計学的に補正して各UACR群を比較したところ、退院時から1年後までのeGFR変化量は、A1群で -2.4 mL/min/1.73m²、A2群で −4.2 mL/min/1.73m²、A3群で −5.1 mL/min/1.73m² と、UACR値の上昇に伴って段階的に腎機能低下が大きくなりました。
次に、退院後の腎関連死、維持透析の開始、eGFR 40%以上の低下、腎不全への進行を含む腎関連イベントを評価しました。2年間の追跡期間中に195名(6.3%)で腎関連イベントの発生を認めました。腎関連イベントの発生率は、A1群で4.6%、A2群で7.5%、A3群で13.6%と、UACR値が高い群ほど段階的に増加しました(傾向検定 P < 0.001、カイ2乗検定 P < 0.001)。年齢、性別、退院時eGFRを考慮したロジスティック回帰分析(*4)においても、A2群(オッズ比 1.83、95%信頼区間(CI) 1.27–2.61)および A3群(オッズ比 3.69、95%CI 2.48–5.44)はA1群と比較して腎関連イベントのリスクが有意に高いことが確認されました。
さらに、UACR値 と生命予後との関連を検討したところ、Kaplan-Meier解析(*5)において3群の生存曲線に明瞭な解離が認められました(log-rank検定 P < 0.001)(図1)。Cox比例ハザードモデル(*6)を用いて、従来の予後予測指標であるGWTG-HFリスクスコア(*7)、log BNP(*8)、左室駆出率(*9)、NYHA心機能分類(*10)、貧血の有無などを考慮した解析を行った後も、UACR値が高い群で全死亡リスクが有意に高いことが確認されました(A2:ハザード比 1.39、95% CI 1.13–1.69、P = 0.002;A3:ハザード比 1.55、95% CI 1.20–2.01、P = 0.001)。また、左室駆出率による心不全病型の違いを考慮した解析でも、UACR値と死亡リスクとの関連は一貫して確認され、幅広い心不全患者において予後情報を有する可能性が示されました。
以上の結果より、入院心不全患者において、退院時のUACRはその後の腎機能低下、腎関連イベント、死亡リスクを反映する有用な指標である可能性が示されました。
今後の展開
本研究により、入院心不全患者においても、退院時のUACR測定が将来の腎機能低下や腎関連イベント、さらには生命予後のリスク層別化に有用である可能性が明らかとなりました。先行研究(*11)にて、UACRは慢性的な腎障害だけではなく、心不全に伴ううっ血など、血行動態変化とも関連することが報告されており、本研究の成果を踏まえると、UACRは心不全患者における重要な心腎連関の指標であることも示されました。
UACRは尿検査の一項目であり、非侵襲的かつ比較的簡便に測定可能なため、心不全患者においても入院や外来を問わず幅広く活用できる可能性があります。今後は、UACR値の経時的な変化や、薬物治療など治療介入後の変化を含めたさらなる研究により、心不全患者におけるUACR測定の臨床的活用法を明らかにしていくことが期待されます。

図1:本研究の結果とまとめ
本研究では、日本全国87施設が参加したJROADHF-NEXTレジストリを用いて、心不全で入院した患者3,107 人を対象に、退院時の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)とその後の腎機能低下、腎関連イベント、全死亡リスクとの関連を検討した。対象患者をUACRに基づいてA1、A2、A3の3群に分類したところ、UACRの値が高い群ほど、退院後1年間のeGFR低下が大きく、腎関連イベントの発生率も段階的に高かった。また、UACR 高値は退院後2年間の全死亡リスク上昇とも関連し、この関連は左室駆出率の範囲にかかわらず一貫して認められた。
用語解説
*1 尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR): 尿中に排泄されるアルブミン量を、尿中クレアチニンで補正して評価する指標。腎臓の障害を早期に反映する検査として、慢性腎臓病や糖尿病性腎症などで広く用いられている。
*2 推算糸球体濾過量 (eGFR): 血清クレアチニン値、年齢、性別などから推算される腎機能の指標。値が低いほど腎機能が低下していることを示す。
*3 ANCOVA解析: 背景の違いを統計的に調整したうえで、グループ間の結果の違いを比較する解析方法。
*4 ロジスティック回帰分析: 年齢や性別などの背景の違いを考慮したうえで、特定の因子が結果とどの程度関連しているかを評価する統計手法。
*5 Kaplan–Meier解析およびLog-rank検定: 観察期間中の生存率を時間経過に沿って推定し、群間の生存曲線の差を比較するために用いられる統計手法。
*6 Cox比例ハザード: 生存期間などの経過を解析するための統計手法。年齢や合併症などの影響を調整したうえで、特定の因子が死亡リスクにどの程度関与するかを評価する統計手法。
*7 GWTG-HFリスクスコア: 心不全で入院した患者さんの予後を予測するために用いられるスコア。年齢、血圧、心拍数、尿素窒素値、ナトリウム値などの情報をもとに、死亡リスクなどを推定する。
*8 log BNP: 心不全の重症度を反映する血液マーカーBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の値を対数変換したもの。統計解析を行いやすくするために用いる。
*9 左室駆出率: 心臓の左心室が1回の拍動で血液をどの程度送り出せているかを示す指標。心臓のポンプ機能を評価するために広く用いられる。
*10 NYHA心機能分類:心不全症状の程度を、日常生活での活動制限に基づいて分類する方法。Ⅰ度からⅣ度まであり、数字が大きいほど症状が重いことを示す。
*11 Boorsma EM, Ter Maaten JM, Damman K, van Essen BJ, Zannad F, van Veldhuisen DJ, Samani NJ, Dickstein K, Metra M, Filippatos G, et al. Albuminuria as a marker of systemic congestion in patients with heart failure. Eur Heart J. 2023;44:368-380. doi: 10.1093/eurheartj/ehac528
研究者のコメント
心不全診療では、心臓だけでなく腎臓の状態もあわせて評価することが重要であり、近年では「心腎連関」として注目されています。本研究は、UACRが心臓と腎臓の状態を統合的に反映するマーカーとして活用できる可能性を示したものです。今後は、UACRを日常診療における心不全患者さんのリスク評価や治療方針の決定にどのように活かしていくかを、さらに検討していきたいと考えています。
原著論文
本研究はJournal of Cardiac Failure誌のオンライン版で(2026年9月30日付)先行公開されました。
タイトル: Implications of urinary albumin-to-creatinine ratio for subsequent kidney function decline and kidney-related outcomes in patients hospitalized for worsening heart failure: Insights from the JROADHF-NEXT registry
タイトル(日本語訳): 心不全入院患者における退院時の尿中アルブミン/クレアチニン比とその後の腎機能低下および腎関連イベントとの関連:全国多施設レジストリJROADHF-NEXTからの知見
著者: Yuka Akama (co-first author) 1), Yu Suresvar Singh (co-first author) 1), Taisuke Nakade 1), Yudai Fujimoto 1), Tomomi Ide 2), Keisuke Kida 3), Shouji Matsushima 2), Nobuyuki Enzan 4), Masataka Ikeda 5), Takeshi Kitai 6), Tatsunori Taniguchi 7), Takahiro Okumura 8), Takeshi Tohyama 9), Hiroyuki Tsutsui 10), Toshiharu Ninomiya 11), Tohru Minamino 1), Jozine M. Ter Maaten 12), Kevin Damman 12), Adriaan A. Voors MD 12), and Yuya Matsue 1)
著者(日本語表記): 赤間 友香(共同筆頭著者)1), 真 優スレーシュワル(共同筆頭著者)1), 中出 泰輔1), 藤本 雄大1), 井手 友美2), 木田 圭亮3), 松島 将士2), 円山 信之4), 池田 昌隆5), 北井 豪6), 谷口 達典7), 奥村 貴裕8), 遠山 岳詩9), 筒井 裕之10), 二宮 利治11), 南野 徹 1), Jozine M. Ter Maaten 12), Kevin Damman 12), Adriaan A. Voors 12) , 末永 祐哉 1)
著者所属: 1) 順天堂大学医学部循環器内科学講座, 2) 九州大学病院循環器内科, 3) 聖マリアンナ医科大学医学部医学科薬理学, 4) Cardiovascular Disease Initiative, Broad Institute, 5) 九州大学病院別府病院, 6) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター心不全部, 7) 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学, 8) 名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学, 9) Institute for Medical Engineering and Science, Massachusetts Institute of Technology, 10) 国際医療福祉大学医学部, 11) 九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学, 12) University of Groningen, Department of Cardiology, University Medical Center Groningen
DOI: 10.1016/j.cardfail.2026.09.033.
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)(JP19ek0210080)および 厚生労働科学研究費補助金(20FC1051)の支援を受けました。
本研究の実施にあたり、ご尽力、ご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます。
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