潰瘍性大腸炎に対する「腸内細菌叢移植療法」の臨床実装に向け新たな特定臨床研究を開 始
― 先進医療Bで確認された有効性と安全性に基づき、より広い臨床現場での有用性を検証 ―

順天堂大学(東京都文京区、学長:代田浩之)とメタジェンセラピューティクス株式会社(山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO:中原拓)は、2026年9月8日より、活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法(A-FMT療法)」の多施設共同ランダム化比較試験を開始しました。
2023年から2025年にかけて実施された厚生労働省承認の先進医療B「活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とする抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」の多施設共同臨床研究では、寛解導入率*¹ 45.9%を達成し、主要評価項目を満たす有効性が確認されました。また、安全性評価においても重篤な有害事象は認められず、安全性が担保された治療法であることが示されました。同結果を踏まえ、潰瘍性大腸炎に対する「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法(A-FMT療法)」の臨床実装を見据え、さらに規模を拡大し多施設共同臨床研究を実施します。また本研究では、抗菌薬投与期間の短縮に伴う有効性・安全性の検証、効果発現メカニズムの解明を行います。
研究の概要
■研究課題名
「活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とした抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法(A-FMT療法)の多施設共同ランダム化比較試験」
■研究代表者
順天堂大学大学院医学研究科 腸内細菌療法リサーチセンター・消化器内科
教授 石川 大
■研究参加施設 (2026年10月現在、都道府県順)
北海道大学病院、自治医科大学附属病院、順天堂大学医学部附属練馬病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、金沢大学附属病院、滋賀医科大学医学部附属病院 、京都府立医科大学附属病院、大阪大学医学部附属病院、川崎医科大学附属病院、九州大学病院
■共同研究機関
メタジェンセラピューティクス株式会社:ドナーのリクルーティング及び便検体の管理に係る支援業務、腸内細菌叢溶液の作成、品質管理および輸送に係る支援業務
※研究の詳細:臨床研究等提出・公開システム(jRCT):https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCTs031260318
背景
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こす指定難病であり、国内の患者数は30万人以上と推定されています。腹痛や慢性下痢、血便などの症状によって生活の質が大きく損なわれ、患者数は年々増加しています 出典#1。潰瘍性大腸炎の明確な発症原因は不明ですが、原因の一つとして腸内細菌叢の乱れが関与していることが明らかになっています。
順天堂大学では2014年6月より、抗菌剤併用腸内細菌叢移植*²(以下「A-FMT」)に関する臨床研究を実施し、腸内細菌ドナーの感染症スクリーニングの適正化や、“良いドナーの条件”および“ドナーと患者の相性”に関する知見を報告するなど、安全で効果的な新規治療法の確立を目指した基礎研究と臨床応用の両面から成果を積み重ねてきました。
また、近年、順天堂大学大学院医学研究科に腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)*³が設置され、腸内細菌療法に関する基礎研究と臨床研究の連携が推進されています。さらに、A-FMT療法の実装化に向けて産学連携が進められており、メタジェンセラピューティクス株式会社との協働により、安全かつ安定した腸内細菌叢溶液の作成・管理体制や臨床応用の基盤整備が進められています。
目的
本研究は以下の①~③を目的としています。
① A-FMT療法の臨床実装を見据えた、より大規模な多施設共同臨床研究
先進医療B「活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とする抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」の結果では、A-FMT療法は活動期潰瘍性大腸炎患者に対する有効性および安全性が示唆されている。一方で、これまでA-FMT療法は限られた施設でのみ実施されてきた治療である。本研究では、さらに規模を拡大し多施設共同臨床研究を実施することで、より広い臨床現場における適用可能性を検討する。
② 抗菌薬投与期間の短縮に伴う有効性・安全性の検証
先進医療Bで実施された抗菌薬の長期間(2週間)投与は、臨床実装上の課題となり得る可能性がある。したがって本研究では、抗菌薬の投与期間を5日間に短縮し、A-FMT療法の臨床における有用性および安全性を検証する。
③ A-FMT療法の効果発現メカニズムの解明
本研究では、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を実施することで、A-FMT療法を受ける患者の腸内細菌叢の変化に関する信頼性の高いデータを取得し、A-FMT療法の効果発現メカニズムを探索する。
用語解説
*1 寛解導入率
潰瘍性大腸炎は「下痢や血便が続く」「腸に炎症がある」といった状態です。治療によって症状が落ち着き「ほとんど症状がなく、腸の中も炎症が改善した状態」を「寛解」と呼びます。今回の寛解導入率とは、参加した全ての方(途中で離脱した人も含める)の中の、寛解した人の割合を示します。本研究では治療開始から8週間後に、約46%の患者さんが寛解に達しました。従来の試験で報告されている「偽薬を使った場合の寛解率(約20%)」に比べて、明らかに高い効果が認められました。また、治療の効果は、症状の改善だけでなく、大腸内視鏡で大腸病変を観察・ビデオ撮影し、その映像は第三者の専門医による中央判定で評価されており、偏りのない客観的な判断が行われています。
*2 抗菌剤併用腸内細菌叢移植療法(Antibiotic Fecal Microbiota Transplantation療法:A-FMT療法)
①~③の3つのステップからなります。①乱れた腸内細菌叢の状態:腸内細菌のバランスが乱れ、多様度が低下しています。②3種類の抗菌薬(アモキシシリン、ホスホマイシン、メトロニダゾール:AFM療法)により腸内細菌量を極限まで減らし、乱れた腸内細菌叢をクリアにします。③内視鏡や注腸による便移植:ドナー便から生成した腸内細菌溶液の注入により、バランスのとれた腸内細菌叢の構築を図ります。

*3 順天堂大学大学院医学研究科腸内細菌療法リサーチセンター(Gut-Link Lab)
近年注目されている腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)を是正する治療法「腸内細菌療法」の基礎研究と臨床応用を推進するために2025年1月に設置されました。FMTを含む腸内細菌を利用した治療は消化器疾患だけでなく、他領域への応用可能性が広がっており、多分野の専門家が連携(Link)することで、ハイレベルで効率的な臨床研究と基礎研究を横断的に展開しています。また、腸内細菌療法の国際的研究拠点としての地位確立を目指しており、国内外のアカデミア・企業との連携(Link)も強化しています。

出典
#1 Tsutsui A, et al. Nationwide estimates of patient numbers and prevalence rates of ulcerative colitis and Crohn's disease in Japan in 2023. Journal of Gastroenterology
DOI: 10.1007/s00535-025-02295-z
関連プレスリリース
・2020年6月25日 順天堂大学「兄弟、同世代のドナーが便移植療法の長期治療効果を高める」
・2023年1月4日 順天堂大学「潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が先進医療Bとして承認、2023年1月より実施」
・2025年4月30日 順天堂大学「潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌移植療法“良いドナーの条件”と“ドナーと患者の相性”を解明~ 新規治療「腸内細菌療法」の確立に向けて ~」
・2025年9月29日 順天堂大学「寛解導入率45.9%を達成 ―潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植療法」
*本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)JP25qfb1270015、JSPS科研費 JP24K11138、順天堂大学次世代イノベーション創出基金 LEVEL3(RDB)の支援を受け実施されました。
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