『新プロジェクトＸ挑戦者たち１　東京スカイツリー　カメラ付き携帯　三陸鉄道復旧　明石海峡大橋』が発売。番組ナレーター・田口トモロヲの特別エッセイを公開！

人に讃えられなくても、光が当たらなくても、ひたむきな仕事がある。情熱と勇気をまっすぐに届ける人気番組が待望の書籍化

株式会社ＮＨＫ出版

2024年7月10日 10時00分

　18年ぶりの新作放送で話題を集める「新プロジェクトＸ　挑戦者たち」（NHK）の書籍化シリーズ『新プロジェクトＸ挑戦者たち１　東京スカイツリー　カメラ付き携帯　三陸鉄道復旧　明石海峡大橋』が7月10日に発売されました。挑戦者たちはいかにして困難を乗り越えてきたのか？その「成功のカギ」に迫る、読みごたえ十分のノンフィクションです。

　発売を記念し、本書のために田口トモロヲさんが書き下ろした特別エッセイ「『プロジェクトX』が教えてくれたこと」の一部を公開します。

～「『プロジェクトX』が教えてくれたこと」田口トモロヲ～

“トモロヲ節”の原点

　今では多くの視聴者にご評価いただいていますが、僕のナレーションも最初は手探り状態でした。

（中略）

　番組が始まった当初のナレーションをあらためて聴いてみると、読む速度が違うのが自分でもわかります。原稿に書かれている情報量は、それだけたくさんありました。けれども番組スタッフは、情報をもれなく伝えるために早口で読むことを要求せず、僕の読む速度を生かして言葉を間引くという作業をしてくれました。

　その過程で、写真や映像だけで十分伝わることがある、ナレーションは最低限でいいという考え方が生まれました。それは「見る人を信じる」という選択だったと思います。視聴者のイマジネーションや、感受性の余白を大事にしたことで、「プロジェクトX」に独特の表現手法ができあがっていった。僕はそう考えています。
　僕自身、「プロジェクトX」のナレーションは物語を正確に伝えることを第一に考えています。近すぎず、遠すぎず、必要な距離感を持って、あまり前のめりにならず、寄り添えるような温度――そんなイメージで読むことを心掛けてきました。「新プロジェクトX」でも、そこは変わりません。しかし、旧シリーズから18歳も年を取って僕も60代です。40代の頃に比べたら、体力と持続力の衰えは意識しないわけにはいきません。50歳を過ぎて花粉症になったこともあり、声質の変化も心配していました。ところが……。
　あれは「約束の春～三陸鉄道復旧への苦闘」（2024年4月20日放送）のナレーション収録のときです。旧シリーズでマイクを何本も試してくれた音声さんと、たまたまトイレで一緒になりました。そのときに、「田口さんの声、変わらないですねえ」と言ってもらったのです。一緒に番組をつくってきて、僕の声を誰よりも知っている、いわば〝戦友〟の一言でしたから、心の底からホッとしましたね。