世界初、冷媒の漏えいを遠隔検知するレーザー式R32検知技術を開発
エアコンのフィールドサービスにおける冷媒漏えい検知効率向上で温室効果ガス排出のさらなる抑制に寄与
エアコンには、空気を冷やしたり温めたりするために欠かせない冷媒と呼ばれるガスが封入されており、冷媒には主にHFC(ハイドロフルオロカーボン)が使用されています。近年、その漏えいによる温暖化影響が国際的に問題視され、冷媒の温暖化係数(以下「GWP」)低減や、漏えい対策が求められています。こうした中、日本では世界に先駆けて、2012年以前に主な冷媒として使用されていたHFC-410A(以下「R410A」)(※1)と比べてGWPが1/3となる低GWP冷媒のR32への転換が進み、現在では、国内向けに製造販売されている家庭用エアコンのほぼ100%がR32となっています。また、R32はグローバルでも低GWP冷媒としての認知が広がり、すでに130ヵ国以上で普及が進んでいます。世界的に普及が進むR32に対する漏えい対策の重要性が増す中、R32の漏えいを的確かつ効率的に発見できる本技術の実用化を通じた温室効果ガス排出のさらなる抑制に取り組みます。
現在、エアコンのフィールドサービスで行われる冷媒漏えい有無の確認には、漏えいが疑われる箇所に検査機器を近づけて周辺の気体を採取する採気式(※2)を用いるのが一般的です。この手法では、エアコンの本体や配管は、天井の裏側など、脚立が必要な高所や人の手が届きづらい狭い場所に据え付けられていることが多いため、作業に手間と時間を要するだけでなく、安全性を確保しづらい場合や、検査機器を近づけることが困難な場合もありました。一方、このたび開発した本検知器は、離れた場所から対象物周辺に向けてレーザー光を照射することで、レーザー光の経路中におけるR32の有無を遠隔から効率的に確認できます。従来の採気式と比べ、作業工数の大幅な削減や安全性の向上が期待でき、その後の迅速な対処にもつなげられます。
加えて、本技術および本検知器は、R32を含む混合冷媒の検知もできるため、例えば、以前は主要な冷媒として使われていたR410A冷媒に対しても活用可能です。また、使用中の機器からの冷媒漏えいの検知だけでなく、撤去された機器からの漏えい検知、冷媒の再生プラントでの漏えい監視など、冷媒循環サイクルにおける様々なシーンでの活用を通じた、温室効果ガス排出抑制への貢献も期待できます。今後、本技術および本検知器の社会実装を通じてサステナブルな社会への貢献を目指します。
なお、この技術成果は、2023年11月16日(木)から11月17日(金)まで神戸国際会議場で開催される、日本冷凍空調工業会主催の『環境と新冷媒 国際シンポジウム2023』において、実機を展示して発表します。
※1 R410AはR32とR125を50:50で混合した冷媒で、地球温暖化係数がR32の約3倍。
※2 検査機器に内蔵したセンサーに接触した冷媒を検知する方式
遠隔R32検知器の概要
本検知器は、理研とダイキンが共同で特定(※3)したR32特有の近赤外線吸収波長帯に対応した波長の赤外線レーザーを射出し、壁面などで乱反射した光をレンズで集光する仕組みです。TGESが都市ガスの主成分であるメタンの検知を目的に実用化したメタンガス遠隔検知器(※4)をR32用に応用したもので、レーザー光の経路中にR32が存在した場合に起こる反射光の減衰をTGESの高感度な検波技術で測定し、R32の有無を瞬時に検知します。また、約10メートルの距離からの検知や窓越しの検知が可能です。
※3 特許第7114832号
※4 都市ガスの漏えい検知を目的に2001年世界で初めて開発。本技術を搭載した検知器は世界30ヵ国に普及。
現在普及している採気式の検査では、脚立を動かすなどしながら複数あるエアコンの室内機をそれぞれ確認して回る作業が必要です。本検知器は遠隔から効率的に検知できるため、作業工数の大幅な削減や作業の安全性向上が期待でき、その後の迅速な対処にもつなげられます。
レーザーを用いた検知技術と検知器の開発における各者の取り組み
世界的に普及が進むR32に対する漏えい対策の重要性が増す中、レーザーによる光学的遠隔ガス検知技術を持つ理研と、冷媒漏えい対策におけるノウハウを持つダイキンは、レーザーを用いて空気中のR32を効率的に発見できる技術の開発を開始し、その技術に必要なR32特有の近赤外線吸収波長帯の特定に成功しました。その後、ダイキンは、レーザーと独自の感度向上技術を用いた世界初の遠隔メタン検知器を2001年に実用化したTGESとともに、ダイキンと理研が特定した波長に対応した高精度な波長のレーザー射出と高感度の検波が可能な機器の開発に取り組みました。
本取り組みは、特定の波長の近赤外線を強く吸収する特性を持つメタン(CH4)と似た構造を持つR32(CH2F2)もレーザーで検知できる可能性があることなどから各者がつながり、実証に至った協創活動です。今後、ダイキンとTGESは本検知器の実用化に向けて、検知感度のさらなる向上や現場で持ち運べるサイズへの小型化を図り、2025年度の実用化を目指します。
遠隔R32検知器の主な目標仕様
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