千葉大学病院とNTTドコモビジネス、炎症性腸疾患に関する日本初の革新的ePRO観察研究において有効性を確認
「SmartPRO®」と「析秘®」を活用し患者のプライバシーを保護
千葉大学医学部附属病院(病院長 大鳥精司、以下「千葉大病院」)は、次世代医療構想センター(センター長 吉村健佑)および千葉大学大学院医学研究院・消化器内科学の加藤順准教授、小笠原定久講師、對田尚助教、太田佑樹助教を中心とする研究チームと、NTTドコモビジネス株式会社(旧 NTTコミュニケーションズ株式会社、代表取締役社長 小島克重、以下「NTTドコモビジネス」)と共同で、炎症性腸疾患※1(IBD)における新しいePRO※2システムを用いた観察研究(以下「本研究」)を2022年12月より実施してきました。
慢性疾患の管理において、ePROは医療の質向上に寄与する有力な手段として注目されていますが、特にプライバシーへの配慮が求められる主観的な回答は、その信憑性に課題がありました。
本研究の結果、患者さん中心の医療の質向上に貢献し得る臨床的な有効性が確認されました。本研究の成果は第111回日本消化器病学会総会にて発表されており、今後は海外論文誌への投稿も予定しています。
1.背景
患者報告アウトカム (PRO※3) は、疾患が患者さんに及ぼす影響や治療の有効性について、本質的な洞察を提供する重要な手段です。しかし、データ収集においては、患者さんのプライバシー保護や回答バイアス※4といった課題が存在します。特にIBDのような慢性疾患では、症状に関する情報がプライバシーにも深く関わるため、従来の方法では「他人に回答が見られてしまうかもしれない」という心理的負担が生じ、実際の症状と調査結果に乖離が生じる可能性があります。そこで本研究では、プライバシーを守りつつ、偏りのないデータ収集を実現するために、NTTドコモビジネスの秘密計算サービス「析秘®」と、「SmartPRO®」を活用した新しいePROシステムを実装し、その有効性を評価しました。
2.本研究の概要
本研究では千葉県内の15施設が参加するIBDコホート※5を対象に、同意を得た322人から収集した2回分のePRO回答データとEDC※6上の臨床データを結合し、診療記録と紐づいた解析を実施しました。患者さんのプライバシーを保護しつつ、回答の秘匿性を担保したまま分析可能な新しいePROシステムにより、従来の診療では把握しきれなかった患者さんの声を可視化することが可能となりました。服薬アドヒアランス※7に関しては、28.9%の患者さんにおいて自己申告と実際の服薬状況に乖離がありました。これはePROデータが信頼性と臨床的有効性の向上に寄与する可能性を示唆しています。

3.今後の展開
本研究の成果と知見は、慢性疾患であるIBDの診療の在り方そのものを変える可能性を秘めています。医療者は診療情報と患者さんの声を組み合わせて分析することで、病気に対する理解をより深めることができます。また、患者さんに対しては、他の多くの患者との比較を通じて、自身の現在の状況を客観的に把握し、病気と向き合う機会を得られるよう、分析結果のフィードバックを行います。今後も千葉大病院とNTTドコモビジネスは、日常の診療では顕在化しなかった患者さんの生活実態や病態の解明に近づくため、より本音に迫ったPROの収集を進めていきます。これにより、IBDの治療の質や患者さんのQOLの向上に貢献するだけでなく、こうした新しい仕組みをIBD以外の疾患にも応用することで、医療業界が抱える課題の解決にも寄与します。
・「SmartPRO®」:NTTドコモビジネスが提供する、臨床試験や治験におけるインフォームド・コンセント※8とPRO収集、およびアンケート調査のデータ収集を管理するWebサービスです。
・「析秘®」:NTTドコモビジネスが提供する、データを秘匿化したまま分析を行い結果のみを出力する秘密計算が、Webブラウザ上で利用できるサービスです。
※1:炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease)とは、腸に発生する原因不明の慢性炎症性疾患です。20代から30代の比較的若 年者に多く発症し、下痢、血便などの症状が持続することが特徴です。これまでは、欧米での発症が多く見られましたが、近年は、日本を含むアジア諸国で急速に増加しており、若年層の好発が目立っています。
※2:ePRO(electric Patient-reported-outcome)とは、スマートフォンなどを活用し電子的に行うPRO(治療経過や症状に関する患者さんの主観的評価)です。
※3:PRO(Patient-reported-outcome)とは、患者さんが自身の健康状態や症状、生活の質(QOL)などを、医療従事者の解釈を介さずに直接報告するものです。
※4:回答バイアスとは、調査対象者が質問に対して実際の状況や意見と異なる回答をしてしまう心理的な偏りのことです。
※5:IBDコホートとは、炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)患者を対象に、長期間にわたり臨床情報や検体データを集積し、診断・治療・予後などを包括的に調査・解析する集団(コホート)研究を指します。
※6:EDC(Electronic Data Capture)とは、臨床研究において症例報告書(CRF)などのデータを電子的に入力・保存・管理するためのシステムです。
※7:服薬アドヒアランスとは、患者さんが治療方針を理解し、納得した上で、積極的に治療に参加し、処方された薬を指示通りに服用することです。
※8:インフォームド・コンセント(Informed Consent)とは、患者さんが自分の健康に関する重要な意思決定を行う際に、十分な情報に基づいて自由にかつ明確に同意をすることです。
【関連リンク】
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・千葉大学病院とNTT Com、炎症性腸疾患において患者のプライバシーを保護したまま行う日本初の観察研究を開始(2022年11月29日)
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【研究に関するお問い合わせ】
・千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター
Tel:043-226-2762 e-mail: byoin-jisedai@chiba-u.jp
・NTTドコモビジネス株式会社 ビジネスソリューション本部
スマートワールドビジネス部スマートヘルスケア推進室
e-mail:member-sh-bp@ntt.com
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・千葉大学医学部附属病院 病院広報室 大嵩・松浦・室田
Tel:043-226-2225 e-mail: byoin-koho@chiba-u.jp
・NTTドコモビジネス株式会社 経営企画部広報室
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