鉛のもつ二つの超電導相を原子の積み重ねのずれで制御!?~超伝導内の積層欠陥がもたらす効果の可視化に成功~

国立大学法人千葉大学

 千葉大学大学院工学研究院の山田豊和准教授、ドイツ・カールスルーエ工科大学のウルフ・ウルフヘケル教授、フランス・ロレーヌ大学のオレグ・クルノシコフ博士らの国際共同研究チームは、走査トンネル顕微鏡(STM)(注1)を用いた表面観察により、超伝導物質として古くから知られている鉛(Pb)の超伝導状態が「積層欠陥」によって大きく影響を受けることを可視化することに成功しました。超電導はリニアモーターカーや量子コンピューターなど、様々な最先端研究で使われている現象であり、本研究は今後の超伝導エレクトロニクス素子や量子デバイスの開発において重要な成果となります。

 本研究成果は、2026年2月6日付でアメリカ物理学会が発行する学際的科学ジャーナルPhysical Review Lettersに掲載されました。

■研究の背景と成果

 超伝導とは、特定の金属などを極低温に冷やした際、電気抵抗がゼロになる現象です。多くの超伝導体では、複数の電子の通り道(バンド)が関わっていますが、これまではそれらが複雑に絡み合っているため、個別の挙動を詳しく観察することは困難でした。

 今回の研究では、古くから超電導物質として知られる「鉛(Pb)」を、43 mK (ミリケルビン:マイナス273.11℃相当) の超低温まで冷やすことで、極めて高いエネルギー分解能を有するSTM電子分光マッピングを実施しました。その結果、鉛のもつ二つの超電導バンドの判別に成功し、この鉛の表面で「積層欠陥四面体(SFT)」を観察しました。

図1:Pb(111)表面で得た (a) STM形状像と同じ場所で得た(b) STM電子分光による電子状態密度像。

 図1aはSTMで観察した鉛表面の形状像です。一見平坦にみえる鉛の表面ですが、よくみると、矢印(i)が示す不純物である原子または分子の混入を伴う原子レベルの欠陥や、真空内での表面清浄に用いたアルゴンイオンスパッタリング過程(注2)で混入したアルゴンイオンが内包された事で生じるアルゴンバブル欠陥があります。さらにこの表面を観察すると、上下の二つの原子ステップが途中で途切れていることがわかります(図1a矢印(ii))。これは断層のずれのように、内部で原子1個分がこの地点で結晶の中までずれが入り込んでいることを示唆します。いわゆる“らせん転移”です。また、上下の原子ステップが途中で消えている二つの点は中で転移線としてつながっており、この領域(iii)は周囲の鉛とはずれた結晶構造SFTをとります。

 この同じ領域でSTM電子分光像を取得した結果が図1bです。領域(iii) SFTにて六角形と三角形の模様が現れました。表面下でSFT領域の原子は周りの原子と少しずれた構造をもつことで、同じ鉛であっても超電導特性を変えられることを示唆しています。

■今後の展望

 本研究により、古くから知られる代表的な超電導物質である鉛には、二つの超電導相だけでなく、積層欠陥の原子の積み重ねのずれにより二つの超電導バンド間の相互作用を変えられることが分かりました。超電導はリニアモーターカーや量子コンピューターなど、様々な最先端研究で使われている現象です。今後、応用面においては、このような積層欠陥の制御により超電導特性の理解や性能向上が期待されます。

■用語解説

注1)走査トンネル顕微鏡(STM)装置:原子レベルまで尖らせた探針で試料表面をなぞるようにすることで、物質表面を原子分解能で観察できる顕微鏡。原子より小さい1pm(ピコメートル=10⁻¹²メートル)の精度で、物質の電子状態を計測できる。

注2)アルゴンイオンスパッタリング過程:アルゴンイオンの衝突によって固体表面原子を物理的に叩き出す表面改質・除去・成膜の基本プロセスで、主に表面分析・薄膜形成・表面清浄化に用いる。

 

■論文情報

タイトル:Visualization of Defect-Induced Interband Proximity Effect at the Nanoscale

著者:Thomas Gozlinski, Qili Li, Rolf Heid, Oleg Kurnosikov, Alexander Haas, Ryohei Nemoto, Toyo Kazu Yamada, Jorg Schmalian and Wulf Wulfhekel

雑誌名:Physical Review Letters

DOI:10.1103/4vhj-s1fq

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未上場
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設立
2004年04月