AIで網膜色素変性症患者の数年後の視力を予測ー眼底写真大規模深層学習モデルを利用した視力予後予測モデルを開発ー

国立大学法人千葉大学

 千葉大学大学院医学研究院の馬場 隆之教授、川上 英良教授らの研究グループは、進行すると失明に至る遺伝性の指定難病である、網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa、以下RP)について、眼底写真を用いた既存の大規模深層学習モデルをベースに、RP診断およびRP患者の視力予後予測を行う方法を開発しました。眼底写真からRPを高精度に診断できることを示すとともに、眼底写真と視力の時系列データを学習することで、将来の視力低下を安定して高い精度で予測できることを明らかにしました。さらに、診断と予後予測でAIが重視する網膜領域の違いを可視化し、RPの病態理解につながる知見を得ました。研究グループが開発したモデルは今後、早期に視力喪失が予想される患者への迅速な治療介入につながり、 RP診療における新たな意思決定支援の基盤構築に寄与すると期待されます。

 本研究成果は2026年1月8日に、国際科学誌npj Digital Medicineでオンライン公開されました。

(論文はこちら:10.1038/s41746-025-02311-9

■研究の背景

 RPは、網膜の視細胞が徐々に障害されることで視機能が低下し、進行すると失明に至る遺伝性の指定難病で、国内患者数は推定3万人以上です。夜盲症、視野狭窄、視力低下などの症状を示し、最終的に失明に至る疾患ですが、進行速度や重症度には大きな個人差があります。現時点で確立された治療法はなく、発症後は対症療法やロービジョンケア(残っている視機能を活かしながら、補助器具等の工夫で生活の質を上げる取り組み)を行います。特にロービジョンケアは、視機能の低下に先立って開始することで高い効果が得られると考えられています。

 進行速度に大きな個人差があるRPにおいて、予後予測は介入の効果を最大化する鍵として期待されますが、これまでRP患者の視力の中長期的な予後を知ることはできませんでした。

■研究の成果

 本研究では、大規模眼底画像データに基づく既存の深層学習モデル4種をベースにRP診断モデルを構築し、最も優れた診断精度が得られたEfficientNetB4(注1)モデルを予後予測モデルにも採用しました。続いて、画像情報および視力予後の臨床データがそろっている患者のデータを学習させた視力予後予測モデルを構築し、時間依存性AUC分析(注2)により評価を行いました。なお学習には、千葉大学医学部附属病院で個人が特定されない形で過去に収集されたデータを用いました(診断モデル:252名496眼、予測モデル:179名334眼)。

 RP診断は非常に高い診断精度(AUC(注3)= 0.94)を達成し、視力予後予測においては眼底写真撮影後500~1,400日間に生じる視力低下を安定的に予測できることを示しました(平均時間依存性AUC = 0.82)。熟練した眼科医でも、眼底画像のみから診断の根拠となる微細な変化を検知するのは困難であり、診断モデルは医師によるRP診断を強力にサポートするツールとして期待されます。同様にこれまで困難であった視力予後予測ですが、深層学習を用いたRP患者の視力の予後予測モデルは初めての試みであり、予後に合わせた早期の治療・支援の実現につながります。

 また本研究ではAIが画像の中で注目している領域をヒートマップ(注4)により可視化し、診断と予後予測モデルでAIが異なる領域を参照していることを明らかにしました。AIの判断の根拠を明示することで、モデルの信頼性向上に加え、視力低下に関連するRPの病態メカニズムの解明に寄与することが期待されます。


■今後の展望

 RP患者の視力の予後予測モデルは、早期に視力喪失が予想される患者への迅速な治療介入につながり、 RP診療における新たな意思決定支援の基盤構築に寄与すると期待されます。またAIによる推論の根拠が可視化されたことにより、RPによる中長期的な視力低下のメカニズム解明にもつながります。今回の成果は単一施設でのデータに基づいているため、今後の臨床応用に向けて、外部データセットおよび多施設データを用いて検証を進めていきます。

■用語解説

注1)EfficientNetB4:画像解析に用いられる深層学習モデルの一種。医療画像解析においては、診断に関わる微細な特徴を効率よく捉えられるため、研究用途を中心に広く活用されている。

注2)時間依存性AUC分析:将来の発症やイベント発生までの時間を予測する「生存時間解析モデル」について、時間の経過を考慮して予測精度を評価する分析手法。

注3)AUC(Area Under the Curve):機械学習モデルの分類の正確さを示す指標の一つ。0から1の値をとり、1に近いほど分類が正確で識別能力が高いことを表す。

注4)ヒートマップ:データの「強さ」や「重要度」を色の濃淡や色の違いで表現する図のこと。本研究では、AIが画像のどの部分を重視して診断や予測を行ったのかを、色の濃淡で可視化している。

■倫理指針の遵守

本研究は千葉大学医学部附属病院の臨床研究倫理審査委員会の承認の下、実施されました。

■論文情報

タイトル:Leveraging large scale deep learning models for diagnosis and visual outcome prediction in retinitis pigmentosa

著者:Tatsuya Nagai, Koya Homma, Yuto Kawamata, Masahito Yoshihara, Eiryo Kawakami, Takayuki Baba

雑誌名:npj Digital Medicine

DOI: 10.1038/s41746-025-02311-9

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会社概要

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URL
https://www.chiba-u.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月