【国立科学博物館】「日本産ラピスラズリ 糸魚川市内で発見」
独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田謙一) の松原聰(国立科学博物館名誉研究員)らは、新潟県糸魚川市内の姫川支流で発見された青い石がラピスラズリであることを突き止めました。青色〜藍色の宝石として知られるラピスラズリですが、国内での産出確認は初めてです。今まで、別の鉱物と誤認されたり、他から持ち込まれた転石とみなされたりして、見逃されていた可能性があり、今後、さらなる発見が期待されます。
ラピスラズリは青色から藍色の宝石として七千年以上の歴史を持つ有名な石ですが、その産地は世界的に極めて限定されています。特に、古代から宝石品質のラピスラズリ原石を供給していた産地は、唯一、アフガニスタンの東北部のみであり、古代オリエント、中国、ギリシャ、ローマなどの遺跡、さらには日本の正倉院宝物にも見られるラピスラズリは全て、アフガニスタン産と考えられています。日本国内での産出はこれまで知られていません。
このたび、新潟県糸魚川市内で拾われたラピスラズリは、2名の方が長年趣味として収集してきた、地元の岩石(主に翡翠)の中に含まれていました。両氏が亡くなられた後、それぞれが収集された岩石は、翡翠などを扱う小滝物産(代表:伊藤加奈子氏)がまとめて引き取りましたが、その中に青い石があったため、国立科学博物館において化学組成分析とX線解析を行ったところ、ラピスラズリであることが判明しました。
ラピスラズリを構成する青色系鉱物は,2試料から藍方石(らんほうせき)(アユイン)が、1試料から方ソーダ石(ソーダライト)が同定されました。有名なアフガニスタンのラピスラズリも主に藍方石から構成されていますが、糸魚川産のものは共存鉱物に特徴があり、外国産のものでは報告のない鉱物組み合わせが確認されました。藍方石には珪灰石や灰礬(かいばん)石榴石(ざくろいし)を伴っていて、接触交代変成作用を受けた岩石(いわゆるスカルン)に類似しています。方ソーダ石は、ゴナルド沸石、AlO(OH)鉱物(おそらくダイアスポア)、シデロフィル雲母(黒雲母の一種)など外国産では知られていない共存鉱物を伴います。糸魚川のラピスラズリは、姫川などの河床や海岸で見られる翡翠と同様に、蛇紋岩メランジュ中の岩塊(ブロック)として産出したものと推察されます。詳しい研究成果については本年9月に行われる鉱物科学会総会で講演する予定です。
糸魚川市の海岸では、かつてラピスラズリの小礫が採集されたことがありますが、海岸での石拾いイベントの際に外国産のものが撒かれたものではないかとされ、詳しい研究はされませんでした(フォッサマグナミュージアム談)。しかし、イベントで撒いた物は、すべて翡翠の小礫であったことが判明し、海岸のラピスラズリも翡翠と同様に川から流れてきたものと推察できます。なお、河床や海岸には外観が似た別の青い石の礫があり、従来からデュモルティ石として知られ、最近、鉱物科学会でその産状や鉱物学的性質などが発表されました(白勢ほか、2025)。そのため、デュモルティ石と思って青い石を所有している人の標本には、ラピスラズリも紛れているのではないかと思われます。過去にも同様の例があり、新鉱物、「糸魚川石」は長い間、青い翡翠と思われていましたが、全く別の鉱物であることが判明(Miyajima et al.,1999)した後、続々と糸魚川石の標本が世に現れました。これに似た現象がラピスラズリでも起こる可能性があります。
令和7年12月 国立科学博物館理学研究部地学研究グループ
【調査研究チーム】
(国立科学博物館) 門馬綱一・松原聰・徳本明子・草葉陽子
(研究協力者) 伊藤加奈子・伊藤大貴・今井裕之・下林典正
【資料】
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かつては、翡翠も日本国内では産出しないと思われており、国内の遺跡から出土する翡翠製品は全て大陸からもたらされたと考えられていました。しかし、昭和初期に糸魚川流域で再発見されたことをきっかけとして、国内各地の遺跡から出土する翡翠製品は糸魚川産であることが判明し、さらには朝鮮半島へも大量に輸出されていたことが判明いたしました。
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今回の資料提供者である伊藤加奈子氏は、翡翠中の新鉱物、「糸魚川石」、「蓮華石」、「松原石」の発見にも関わっており、それらの原記載論文の共著者となっています。
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今回発見された中で一番大きな直径約20cmの礫は、姫川支流の上流部の河床で採集されたものと思われます。詳細な産地は、現在研究中のため明らかにできませんが、昨秋に伊藤大貴氏(伊藤加奈子氏の長男)と地元の有志によって採集地とされる周辺において2度の調査が行われました。しかし、河床の様相は、融雪や洪水などによって激しく変化するので、その際には目的の物は確認できず、引き続き現地調査を予定しています。


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