博報堂生活者発想技術研究所 感情ハック研究プロジェクトと大阪大学、職場における感情に関する実態調査を実施
―有職者の約6割が「ポジティブに振舞える人が評価される」が「正直疲れている」と回答―
株式会社博報堂(本社:東京都港区、代表取締役社⻑:名倉健司)の専⾨組織「生活者発想技術研究所(以下、発想技研)」傘下の「感情ハック研究プロジェクト」は、大阪大学の山田陽子教授(社会学)と共同で、全国20~59歳の有職者男女661人を対象に「職場における感情に関する実態調査」を実施しました。
現代社会では、マインドフルネス等に代表されるような、生活者自らが自身の感情をコントロールしたり効率的に運用しようとする行動が広がっています。本研究ではこうした潮流を「感情ハック」と定義し、発想技研と大阪大学の共同で、その背景を明らかにするための調査を実施。山田教授の専門領域である「感情資本主義」の考え方を基盤に、企業や社会・または生活者自身が人の感情を経済的・文化的な価値を持つ資本として活用しようとする力学=「感情の資本化」の実態を定量的に検証しました。特に職場における感情について、都市部※1とその他地域※2を比較できる形で分析を行っていますので、その主要な結果についてご報告いたします。

※1 都市部:東京都/神奈川県/埼玉県/千葉県/大阪府/京都府/兵庫県/愛知県
※2 その他地域:上記の地域を除く39の道県
【調査結果サマリー】
-
全国20~59歳の男女において、「仕事の場でネガティブな感情を抱くことがあっても、その感情を「コントロールすること」が規範化(暗黙のルール化)されている
-
「仕事の場で、ポジティブな感情を表出することが得意な人と働きたい」も7割弱[瑠十1]
-
一方で、「ポジティブな感情だけを表出することに疲れている」人や「職場にはネガティブな感情を吐露する場がない」人も6割にのぼる
-
「感情を持ち込みたくない」と「感情がなければできない仕事があると思う」が共存。感情を管理するだけでなく、活用したい意向もうかがえる
-
都市部では、労働の場で感情が活用される傾向がそれ以外の地域と比べて強い
【主な調査結果】
1. 全国20~59歳の男女において、「仕事の場でネガティブな感情を抱くことがあっても、その感情を「コントロールすること」が規範化(暗黙のルール化)されている

有職者のうち、仕事の場において「感情をコントロールすることも仕事のうち」と回答した人は72.2%、「ネガティブな感情を抑えてポジティブな感情を表出することが得意な人が評価される」と回答した人は63.4%と、いずれも6割を上回りました。
また、いずれの結果も都市部でより高く、特に「ネガティブな感情を抑えてポジティブな感情を表出することが得意な人が評価される」と実感している人は都市部で多いことがわかりました(都市部:+6.4pt)。
2. 「仕事の場で、ポジティブな感情を表出することが得意な人と働きたい」も7割弱

また、有職者のうち「仕事の場で、ポジティブな感情を表出することが得意な人と働きたい」人は都市部・その他地域ともに66%となりました。「ポジティブに振舞うほうが評価される」という職場からの要請を感じているだけでなく、生活者の側もポジティブに振舞える人と働きたいと思っていることがわかる結果です。
3. 一方で、「ポジティブな感情だけを表出することに疲れている」人や「職場にはネガティブな感情を吐露する場がない」人も6割にのぼる

一方で、「仕事の場でネガティブな感情を抑えてポジティブな感情を表出することに、正直疲れている」も有職者全体で58.3%と過半数となり、特に都市部で高い結果となりました(都市部:+6.8pt)。
なお「仕事の場には、仕事中に感じたネガティブな感情を吐露したり解消する場がない」は、いずれの地域でも56%前後でした。仕事の場で評価されるためにはポジティブに振舞う必要があり、自身もそうした人と働きたいと思う一方で、ネガティブな感情は個人の責任のもとで処理することが求められている人も多いことがうかがえます。
4. 「感情を持ち込みたくない」と「感情がなければできない仕事があると思う」が共存。感情を抑えるだけではなく、活用したい意向もうかがえる

「仕事の場には感情を持ち込みたくない」と「感情がなければできない仕事がある」という、一見相反する2項目がいずれも64%と高い結果になりました。感情を仕事に持ち込むデメリットと、活用することで実現できる仕事があるという考えの間で揺れ動く人が少なくないことがうかがえます。
なお、「仕事の場には感情を持ち込みたくない」はその他地域のほうが高く(その他地域:+3.2pt)、「感情がなければできない仕事がある」は都市部のほうが高くなっており(都市部:+4.0pt)、感情を仕事に活用したいかどうかといった意識にはやや地域差があるようです。
5. 都市部では、仕事の場で感情を活用しようとする傾向がその他地域と比べて強い

前述の調査結果に加え、「仕事を通じて自己実現したい(都市部:+8.5pt)」「感情労働にやりがいを感じる(その他地域より+4.1pt)」は、いずれも都市部でその他地域よりも高い値となりました。都市部では仕事と自身の感情を関連づけたり、仕事に自身の感情を活用する傾向がその他地域と比べて強いことがうかがえる結果です。
その背景として、①都市部ではサービス業やクリエイティブ職といった第三次産業の比率が高く、こうした職業では「感じの良さ」や相手の心を動かすことが価値となるため、自身の感情を活用する感情労働の割合が多くなりやすい可能性 ②都市部は市場が大きく個人のキャリア形成における選択の自由度が高いため、個人の自己実現ややりがいが仕事に反映されやすい などの可能性が考えられます。
【全体の考察】
全体として、現代の職場においては感情とそのコントロールが仕事と切り離せないものになっていること、企業側だけでなく生活者側も感情をうまくコントロール・活用したいと考えている側面があることがうかがえる調査結果でした。ただ、職場において感情をコントロールすることが規範化し、生活者側も感情をコントロールできる人と働きたいと思っている一方で、職場にはネガティブな感情を吐露する場がない現状では、生活者は実質的に「個人の責任のもとで」感情の処理をすることが求められているといえるでしょう。こうした社会環境が、生活者に自発的な感情のコントロール=「感情ハック」を行うことを強いているところもあるのではないでしょうか。
今後の研究では、感情を抑えるだけではなく活用したいとも考えている生活者が職場において建設的な形で感情と付き合っていくために、企業としてどういった提案ができそうかも含めて、引き続き検証を進めていきたいと思います。
【調査概要】
職場における感情に関する調査
調査地域:全国
調査対象:20~59歳の有職者の男女
調査数:SCR調査2,700人、本調査661人
調査方法:インターネット調査
調査日:2025年9月5日(金)~2025年9月16日(火)
【補足:感情資本主義の理論と感情の資本化について】
感情資本主義は、イスラエル=フランスの社会学者エヴァ・イルーズ(Eva Illouz)によって提唱された概念で、現代社会において「経済的な論理」と「感情の動き」が分かちがたく結びついている状態を指す。
かつて、理性や効率が重視される「労働(公)」と、ありのままの感情が許される「プライベート(私)」は別物と考えられてきたが、現代ではその境界が曖昧になり、相互に影響し合っている。その結果、人々の感情やその表出のしかたが、その人の人間性や文化的教養を示す指標となったり、お金やモノと同じように経済的・文化的な価値を持つ「資本」として扱われるという「感情の資本化」が起きている。
<現代社会における「感情の資本化」の例>
・ビジネスの場で:職場においてネガティブな感情を抑え、ポジティブに振る舞うという感情コントロール力が、個人のパフォーマンスを高めるスキルや評価の対象となっている。
・推し活の場で:推しへの愛着や応援したいという感情が課金額で測られることで、市場を支える「資本」に変換され、巨大な経済圏を生み出している。
【山田陽子教授プロフィール】

博士(学術)/ 大阪大学大学院人間科学研究科教授
単著に、『働く人のための感情資本論―パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』、『心をめぐる知のグローバル化と自律的個人像―「心」の聖化とマネジメント』など。近著は『ポスト・ヒューマン時代の感情資本』。社会学理論と社会調査にもとづいて近代社会と感情について研究している。
※山田教授の研究詳細はこちら。
【「感情ハック」研究プロジェクトについて】
近年では、マインドフルネスやアンガーマネジメントのように、生活者が自らの感情をコントロールしたり、時に効率的に運用しようとする動きがみられます。こうした行動を「感情ハック」と定義し、その背景にある企業や社会の力学をふまえて、生活者がよりよく自身や他者の感情と向き合っていくための提言やソリューションの開発をめざすプロジェクトです。
WEB記事:【連載】 なぜ『感情ハック』を研究するのか | 研究デザインセンター | 博報堂
【生活者発想技術研究所について】
クライアント企業の生活者発想を推進するための研究開発を行うことを目的に、2024年9月に設立された専門組織です。「未来生活者発想」をコンセプトに、「生活者発想経営」「フォーカス型生活者洞察」「生活者心理・行動」「ウェルビーイング社会の共創」「生活者発想に基づく創造性」等に関する、研究・開発・教育・発信を行っています。
・WEBサイトはこちら: https://hassogiken.jp/
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像