iPS細胞由来NKT細胞を用いた新規細胞療法の有効性を前臨床研究で確認 ―抗原提示細胞との併用で、患者ごとのがんに反応するT細胞を強く引き出す可能性―
千葉大学大学院医学研究院の青木孝浩助教、本橋新一郎教授、理化学研究所生命医科学研究センター免疫器官形成研究チームの古関明彦チームディレクターらの研究グループは、iPS細胞由来の「NKT細胞(注1)」と、それを活性化させる「α-ガラクトシルセラミド(注2)を提示した抗原提示細胞(注3)」を組み合わせることで、強い抗腫瘍効果が得られることを明らかにしました。さらに本研究では、患者由来の肺がん組織とヒト免疫細胞を移植したマウスモデルに対して本併用療法を適用することで、がんに反応する記憶型T細胞が増えることを確認しました。これは、患者さんのがんに合わせた免疫応答を引き出す新しい細胞療法につながる成果です。
本研究成果は、2026年4月23日にStem Cell Research & Therapy に公開されました。
(論文はこちら:10.1186/s13287-026-04994-7)

■研究の背景
がんに対する免疫療法では、体の免疫細胞ががん細胞を見つけて攻撃する力を高めることが重要です。中でも「NKT細胞」は、免疫の司令塔のように働き、ほかの免疫細胞も活性化できることから、がん治療に有望な細胞として注目されてきました。一方で、がん患者さんの体内からNKT細胞を安定して確保することが課題でした。そこで研究グループはこれまでに、健康な人の細胞をもとにしたiPS細胞からNKT細胞を作製する技術を開発してきました。このiPS細胞由来NKT細胞(注4)は、α-ガラクトシルセラミドを用いて活性化させることでがんに対してより強い免疫反応を促す可能性が考えられていましたが、その効果は未だ実証はされていませんでした。
■研究成果のポイント
① 当研究グループは、iPS細胞由来NKT細胞と、NKT細胞を活性化するα-ガラクトシルセラミドを提示した抗原提示細胞を組み合わせて投与しました。すると、どちらか一方だけを使った場合よりも、二種類の細胞を併用した際に腫瘍の増大が強く抑えられました。
② 腫瘍の中の免疫細胞を詳しく調べたところ、この併用療法でのみ、強く増幅する記憶型T細胞がいることを明らかにしました。
③ 増えたT細胞のT細胞受容体を調べると、実際に腫瘍細胞に反応するT細胞であることが示されました。つまり今回の治療は、がんを見分けて反応するT細胞の増加を促す可能性が示されました。
④ 実際に、記憶型T細胞の目印であるCCR7陽性細胞を取り除くと抗腫瘍効果が弱まったことから、これらのT細胞が治療効果に重要であることも確認されました。
⑤ がん患者本人から十分な量のNKT細胞を採取することは困難ですが、本研究では健康なドナーのiPS細胞から作製した「他家」細胞を使用しています。これにより、誰にでも使える「オフザシェルフ(既製品)」な治療としての道を開きました。
■今後の展望(研究者コメント)
今回の前臨床研究の成果によって、iPS細胞由来NKT細胞を使い、患者さんごとのがんに応じたT細胞免疫を引き出せるパーソナライズ医療の可能性が示せたと考えています。現在、進行性頭頸部癌を対象にこのiPS細胞由来NKT細胞と患者由来抗原提示細胞を用いた併用療法の臨床試験を行っており、この治療法の有効性を確認していく予定です。通常のT細胞を他人に移植すると攻撃反応(GVHD)が問題になりますが、NKT細胞は、特定の白血球の型に限定されずGVHDを起こしにくく比較的安全に治療に使える可能性があり、幅広い患者さんに応用しやすい点が特長です。今後は、より長期的な効果や、さまざまながん種での有効性をさらに検証し、実際の治療につなげていきたいと思います。
■用語解説
注1)NKT細胞:体の免疫をすばやく動かす特別なリンパ球。自分でがん細胞を攻撃するだけでなく、ほかの免疫細胞にも作用し、免疫全体を活性化する。
注2)α-ガラクトシルセラミド(αGalCer):NKT細胞を強く活性化する物質。抗原提示細胞に取り込ませて使うことで、NKT細胞を活性化することができる。
注3) 抗原提示細胞:体内に侵入した異物やがん細胞の情報(抗原)を取り込み、その特徴を免疫細胞に提示する役割をもつ細胞。これにより、T細胞やNKT細胞などが標的を認識し、免疫応答が引き起こされる。
注4)iPS細胞由来NKT細胞 : iPS細胞から人工的に作ったNKT細胞。患者さん自身から十分なNKT細胞を集めにくい場合でも、安定して供給できる可能性がある。
■論文情報
タイトル:Preclinical efficacy of combination therapy with allogeneic induced pluripotent stem cell-derived invariant natural killer T and α-galactosylceramide-pulsed antigen-presenting cells
著者:Takahiro Aoki, Midori Kobayashi, Momoko Okoshi, Munechika Yamaguchi, Hiroko Okura, Satoko Sasaki, Yoshie Sasako, Sachiko Kira, Yun-Hsuan Chang, Nayuta Yakushiji-Kaminatsui, Jafar Sharif, Masashi Matsuda, Masahiro Kiuchi, Kiyoshi Hirahara, Motoko Y. Kimura, Shinichiro Motohashi, Haruhiko Koseki
雑誌名:Stem Cell Research & Therapy
DOI:10.1186/s13287-026-04994-7
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実現拠点ネットワークプログラム, 疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B), NKT細胞再生によるがん免疫治療技術開発拠点
・日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実用化研究事業, 再発・進行頭頸部がん患者を対象としたiPS-NKT細胞動注療法に関する第1相試験
・日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実用化研究事業, 再発・進行頭頸部がん患者を対象としたiPS-NKT細胞動注療法に関する第1相試験の第2用量
・日本学術振興会 科学研究費助成事業 23K07827
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