植物に含まれる複雑な天然物の完全化学合成に成功 ―ビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBを世界に先駆けて全合成―

国立大学法人千葉大学

 千葉大学大学院医学薬学府後期3年博士課程の松宮 諭史氏および同大同院薬学研究院の石川 勇人教授らの研究グループは、独自に開発した有機分子触媒反応(注1)と、植物内で進行している生合成(注2)を模倣した縮合反応を組み合わせることで、キョウチクトウ科植物由来の多量体型インドールアルカロイド(注3)であるビスロイコノチンA、ならびにボウシゴニンBについて、世界に先駆けて全合成(注4)を達成しました。本成果は、複雑な多量体型インドールアルカロイド類に対する新たな全合成戦略の指針となるだけでなく、それらを活用した創薬研究のさらなる発展につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026年5月23日に学術誌Angewandte Chemie International Editionオンライン版にて公開されました。
(論文はこちら:10.1002/anie.6698305)

図:ビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBを世界に先駆けて全合成

■研究の背景 

  3次元的に広がりのある骨格を持つ多量体型天然物は、単量体型には見られない顕著かつ特異的な生物への影響を示すことが報告されています。しかし構造の複雑さゆえに化学合成による供給は容易でなく、創薬研究への展開は困難です。ビスロイコノチンAは、異なる種のインドールアルカロイドが結合した化学構造を有し、強力な抗がん活性を示します。ボウシゴニンBはビスロイコノチンAにさらに別のインドールアルカロイドが縮合した3量体型アルカロイドであり、極めて複雑な構造を有しています。

■研究成果のポイント
 単量体型インドールアルカロイドに広く共通する「3-エチルピペリジン構造」を、有機分子触媒反応を用いて立体選択的に構築する方法を新たに開発しました。本手法をもとに、ビスロイコノチンAおよびボウシゴニンBの構成ユニットを発散的に合成・縮合することで、総工程数を大幅に削減することに成功し、多量体型天然物の効率的な化学合成を実現しました(図)。


 キョウチクトウ科植物内で進行する生合成を模倣し、①で合成した構成ユニットを酸性水溶液中で加熱することで、ビスロイコノチンAと同一骨格を有する化合物を単一生成物として得ることに成功しました。本反応は、特別な官能基を必要とせず、高い位置選択性および立体選択性を伴って進行することから、有機合成化学における分子連結法として極めて有用です。また、植物内で進行する生合成を化学合成にて再現したことで、これら天然物の生合成機構に対する理解の深化にもつながります。

 

■今後の展望(研究者コメント)

 本研究では、インドールアルカロイド類に共通する構造を見いだし、それを効率的に化学合成するとともに、共通の構成ユニットとして利用し、合成終盤でカップリングする戦略を採用しました。本戦略はインドールアルカロイドに限らず、さまざまな多量体型天然物の合成にも応用可能です。今後、複雑天然物の全合成研究がさらに発展し、それらを基盤とした創薬研究の加速につながることが期待されます。


■用語解説

注1)有機分子触媒反応:金属を含まず、炭素や酸素等で構成される有機分子そのものが触媒として働く化学反応。

注2)生合成:生体内で酵素の働きにより複雑な天然物が作られる過程。

注3)インドールアルカロイド:アミノ酸であるトリプトファンに由来するインドール骨格を含み、主に植物や微生物から見いだされる窒素含有天然有機化合物。

注4)全合成:単純な市販原料から出発して、目的とする化合物を人工的に合成すること。


■論文情報

タイトル:Enantioselective Total Syntheses of Bisleuconothine A and Bousigonine B

著者:Satoshi Matsumiya, Yukine Mizukami, Akihiro Morita, Kazuma Hirata, Shinya Shiomi, Shota Tominaga, Noriyuki Kogure, Hiromitsu Takayama, Mariko Kitajima, Hayato Ishikawa

雑誌名:Angewandte Chemie International Edition

DOI:10.1002/anie.6698305


■研究プロジェクトについて

 本研究は主に、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム、日本学術振興会 科学研究費助成事業科研費、文部科学省科学研究費助成事業「学術変革研究A:天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン」の支援により遂行されました。

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上場
未上場
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設立
2004年04月