2つの脂肪滴タンパクが脂肪肝炎を制御する~新たな治療戦略として注目される肝脂肪滴コレステロールと脂肪滴分解経路~

国立大学法人千葉大学

                                      

 千葉大学大学院医学研究院の佐久間一基特任准教授、田中知明教授、イェール大学医学部のGerald I. Shulman教授らの国際共同研究チームは、肝臓の脂肪滴に局在するCIDEBおよびCGI-58という2つのタンパク質が、肝臓脂肪滴(注1)に蓄積するコレステロール(注2)の量を相反する方向に調節し、代謝機能障害関連脂肪肝炎(以下、MASH)の重症度に大きく関わることを明らかにしました。さらに、CIDEB抑制による保護効果は、食事から摂取したコレステロールの負荷、またはCGI-58/ATGL経路(注3)の抑制により消失することが示されました。本研究は、これまで示されていた「肝臓脂肪滴コレステロールがMASH進行の鍵」という概念を発展させ、脂肪滴タンパク質と脂肪滴分解経路を標的とした新たな治療戦略の開発につながる可能性が期待されます。
 本研究成果は、2026年6月2日に国際科学誌Cell Reportsで公開されました。
 (論文はこちら:10.1016/j.celrep.2026.117369)

図:MASHにおけるCGI-58・CIDEBの作用点


■研究の背景 (詳細はPDF参照)

 研究チームは、これまでに肝細胞内の脂質貯蔵構造である脂肪滴にコレステロールが蓄積し、炎症や線維化を伴うMASH病態が誘導されることを見出しました。また、脂肪滴関連タンパク質であるCIDEBの機能低下はMASHに対して保護的に働く可能性が示されているのに対し、CGI-58の機能低下はMASHの発症・進展に関与することが知られています。しかし、CIDEBとCGI-58が肝臓脂肪滴中のコレステロール量をどのように制御し、MASHの重症度にどのような影響を及ぼすかは明らかではありませんでした。

■研究成果のポイント (詳細はPDF参照)

1. CIDEBおよびCGI-58ノックダウンマウスモデルの解析

 コリン欠乏高脂肪食(注4)を1週間投与したMASHモデルマウスにおいて、CIDEBを抑制した結果、血中の肝障害マーカーであるALT(注5)およびAST(注6)が低下し、肝臓脂肪滴のサイズも小さくなりました。また、脂肪滴を単離して解析したところ、脂肪滴中の中性脂肪とコレステロールが低下していました。一方、脂肪分解酵素ATGLを活性化するCGI-58を抑制した結果、血中のALTおよびASTが上昇し、肝臓脂肪滴は大型化しました。こちらも解析の結果、脂肪滴中の中性脂肪とコレステロールが増加していました。

2. CIDEB抑制の保護効果にはCGI-58/ATGL依存性の脂肪滴分解経路が必要

 CIDEBを抑制してMASHが改善している状態で、同時にCGI-58またはATGLを抑制すると、肝臓脂肪滴中の中性脂肪とコレステロールが増加し、肝障害や炎症が再び悪化しました。これより、CIDEB抑制の保護効果はCGI-58/ATGL依存性の脂肪滴分解経路を介して発揮されることが示されました。

■今後の展望 (詳細はPDF参照)

 本研究により、肝臓脂肪滴中のコレステロール量は、MASHの病態進展を左右する重要な因子であり、その量は脂肪滴タンパク質であるCIDEBとCGI-58により正反対に制御されることが明らかになりました。今後、CIDEBを標的とした核酸医薬や、脂肪滴コレステロールを低下させる治療法の安全性・有効性をさらに検証することで、MASHに対する新たな治療戦略の開発が期待されます。

■用語解説

注1)脂肪滴:細胞内に存在する、脂質を貯蔵するための構造。中性脂肪やコレステロールなどが蓄積され、エネルギー源として使われる一方、過剰な脂肪滴は肝炎や糖尿病などの病態を引き起こす原因となることがある。

注2)コレステロール:細胞膜やホルモンの材料となる脂質の一種。体に必要な物質だが、肝臓内で過剰に蓄積すると、炎症や組織の障害を引き起こすことがある。本研究では、脂肪滴の中に蓄積されたコレステロールが肝炎や線維化を誘導する因子であることが示された。

注3)CGI-58/ATGL経路:細胞内に蓄積された中性脂肪を分解するための経路。脂肪滴に中性脂肪が蓄積すると、脂肪を最初に分解する酵素であるATGLがCGI-58に結合して脂肪分解を促進する。

注4)コリン欠乏高脂肪食(Choline-deficient, L-amino acid-defined, high-fat diet: CDAHFD):

コリンを含まず、特定のアミノ酸組成と高脂肪を特徴とした食餌。コリンは脂肪の代謝や肝臓の正常な機能に不可欠な栄養素であり、これを欠乏させることで肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や線維化を伴うMASHのような病態をマウスで再現することができる。

注5)ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(Alanine Aminotransferase)のこと。主に肝細胞の中に存在している酵素で、肝細胞が傷つくことで血液中に漏れ出すため、肝障害の指標として広く使われている。

注6)AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Aspartate Aminotransferase)という酵素で、ALTと同様に、肝細胞が傷つくと血液中に放出されるため、肝機能検査で測定の指標とされる。

■研究プロジェクトについて

本研究は、以下の支援を受けて遂行されました。

・日本学術振興会・科学研究費助成事業(科研費)国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))「鉄代謝を介したNAFLD制御機構とその臨床応用」(20KK0373)

■論文情報

タイトル:CIDEB and CGI-58 differentially regulate liver lipid-droplet cholesterol to modulate metabolic dysfunction-associated steatohepatitis severity

著者:Ikki Sakuma, Rafael C Gaspar, Henrique N Morgan, Jie Zheng, Ali R Nasiri, Sylvie Dufour, Mario Kahn, Mateus T Guerra, Yuki Taki, Yusuke Kawashima, Dean Yimlamai, Mark Perelis, Daniel F Vatner, Kitt Falk Petersen, Varman T Samuel, Tomoaki Tanaka, Gerald I Shulman

雑誌名:Cell Reports

DOI:10.1016/j.celrep.2026.117369

詳細はこちら

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業種
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本社所在地
千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33  
電話番号
043-251-1111
代表者名
横手 幸太郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月