医薬品の効率的な合成に期待―脂質などに広く存在するアミノアルコールの供給へ―
千葉大学大学院理学研究院の荒井孝義教授らの研究チームは、アルデヒドとニトロアルカンという化合物を効率よく反応させる新しい触媒を設計し、水素結合とハロゲン結合(注1)という分子間の相互作用を利用することで、目的とする構造を高い精度で合成することに成功しました。その結果、脂質などの生物活性物質や医薬品の原料として重要なβ-アミノアルコール(注2)を効率よく合成できることを実証しました。本研究成果は、今後、医薬品の開発や機能性化学物質の合成に広く活用されることが期待されます。
本研究成果は、2026年9月24日(現地時間)に、学術誌Angewandte Chemie International Editionで公開されました。
(論文はこちら:10.1002/anie.7009966)

■研究の背景(詳細は別添参照)
β-アミノアルコールは両方の炭素が不斉炭素(注3)であり、水酸基とアミノ基が同じ側を向くシン体と反対側を向くアンチ体が存在します。
シン体、アンチ体ともに、鏡像異性体が存在するため、医薬品などの開発・合成に用いられる有機化学には、この4種類の異性体を作り分ける精密な触媒化学が求められます。
これまでの研究において、シン体を与える触媒反応は多くの成功例がありますが、アンチ体を与える触媒は化学的に設計が難しく汎用性に優れる報告は限られてきました(図上部)。
■研究成果のポイント(詳細は別添参照)
● アルデヒドとニトロアルカンを同時に活性化できる新しい触媒を開発し、これまで設計が難しかったアンチ選択的ニトロアルドール反応(注4)を高効率で実現しました。
● 独自のPyBidine-ニッケル錯体にヨウ素や臭素を導入し、水素結合とハロゲン結合を活用することで、反応の立体構造を制御し、目的とする立体構造を高い精度で合成することに成功しました。(図下部)
● 反応過程の計算科学による解析から、アルデヒドは水素結合とハロゲン結合により、ニトロアルカンはニッケルにより効率的に活性化していることが分かりました。一つの触媒上で多様な相互作用が協調して機能するのは最先端の触媒化学の成果です。

■今後の展望(研究者コメント)
本成果により、医薬品や機能性化学物質の原料として重要な化合物を、狙った立体構造で効率よく合成することが可能になります。今後は、具体的な医薬品の提供に適用し、産学連携を進めていくことを計画しています。
また、ハロゲン結合を金属触媒反応の機能に取り入れることができたことは大きな成果です。ハロゲン結合を積極的に用いて、環境にやさしい有機化学を樹立していきたいと考えています。
■用語解説
注1)水素結合とハロゲン結合:水素結合は水素原子を介して分子同士が引き合う比較的強い相互作用の一種。DNAの二重らせん構造の維持やタンパク質の立体構造の形成にも重要な役割を果たす。ハロゲン結合はヨウ素や臭素などのハロゲン原子と、他の分子との間に働く方向性の高い相互作用。比較的新しい分子認識の手法として注目されており、分子を特定の向きに配置することができる。
注2)β-アミノアルコール:隣り合った炭素上にアミノ基と水酸基を有する化合物で、生体内や医薬品において非常に重要な構造である。
注3)不斉炭素:4種類の異なる原子や原子団が結合した炭素原子のこと。不斉炭素をもつ化合物には、右手と左手のように互いに鏡像関係にありながら重ね合わせることができない2種類の立体構造(鏡像異性体)が存在する。
注4)アンチ選択的ニトロアルドール反応:アルデヒドとニトロアルカンを反応させて、β-ニトロアルコールと呼ばれる化合物を合成する「ニトロアルドール反応」において、生成物中の2つの不斉炭素がアンチ体と呼ばれる特定の立体配置を優先的に形成する反応のこと。
■論文情報
タイトル:Halogen-Bond-Assisted anti-Selective Henry Reaction Promoted by a Chiral Nickel Catalyst
著者:Soushi Tsurusaki, Hidesato Iwama, Risa Yoshida, Sumire Kobayashi, Ryuhei Chiba, Takayoshi Arai
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
DOI:10.1002/anie.7009966
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・科学研究費助成事業(26K01496)
・千葉大学国際高等研究基幹学際的先端研究支援プログラム
「千葉ハロゲン科学:ハロゲンで繋ぐ分子機能」
添付資料はこちら
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