ショウジョウバエの「音を感じる触角構造」のつくりかた ―さなぎにおける聴覚構造の形態形成プロセスを解明―

国立大学法人千葉大学

                                      

 千葉大学大学院理学研究院の田尻怜子准教授、同大学院融合理工学府博士後期課程の江珊(Shan Jiang)氏の研究チームは、昆虫の「耳」に相当する聴覚器官の複雑精緻な構造がどのようにつくられるのかの解明を目指し、ショウジョウバエの触角の聴覚器官の形態形成過程を解析しました。その結果、外骨格(注1)が音を受けて振動するために重要な構造である関節の形成プロセスや、音受容器のニューロンと関節の外骨格を接続する樹状突起キャップの形成と伸長プロセスを明らかにしました。今回の研究成果は、聴覚器官の発生や維持の分子メカニズムの解明や、その進化機構の理解につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026年10月2日に、学術誌Discover Developmental Biologyで公開されました。

  論文はこちら:10.1007/s00427-026-00734-2

図:成虫の触角の聴覚を担う構造


■研究の背景 

 ショウジョウバエの触角は主に3つの節からなり、音を受けて先端の節が振動すると、その付け根にある関節が回転します。この回転が、関節に接続する「ジョンストン器官(JO)(注2)」と呼ばれる受容器に伝わることで音が感知されます。この関節の構造や、JOと関節外骨格とを接続する構造は非常に精巧であり、遺伝子変異によってこれらの構造が破綻すると難聴・失聴を引き起こすことが知られていました。しかし、幼虫期から、成虫になるまでの間にどのように外骨格が関節を形作り、そこにJOがどのように接続するのか、これらのプロセスを詳細に観察した研究はこれまで報告されていませんでした。


■研究成果のポイント

〇 ショウジョウバエの幼虫期と成虫をつなぐ、さなぎの時期の外骨格とJO、およびそれらの間の接着装置の形態を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて経時的に追跡しました。

〇 外骨格を形成する表皮は関節領域で徐々に陥入していって、蛹化後約48時間には深くくぼんだ関節の構造が完成し、その後にクチクラを分泌していました。

〇 JOのニューロンの樹状突起は最終的に、細胞外基質を介してクチクラに接着します。この接着基質の構成因子であるNompA(注3)タンパク質を観察した結果、接着基質はJOの細胞から分泌され始め、表皮の最外層まで伸長していました。

〇 JOと表皮はクチクラが分泌されるより前から、接着基質によって結びつくと考えられ、この接着は表皮の陥入の進行過程を通じて最前線(くぼみの最深部)に位置していることがわかりました。これらから、JOが表皮の陥入を物理的に、あるいは何らかの化学的シグナルを介して誘導することが強く示唆されました。

■今後の展望(研究者コメント)

 ショウジョウバエの触角において、扁平な組織から関節構造や音受容器と関節の接着構造ができる発生プロセスを理解することができました。今後は、このプロセスに関わる遺伝子の機能や物理的な作用を解析することによって、音を感じる複雑精緻な構造をつくりだす分子・力学メカニズムの全貌を明らかにしたいと考えています。

■用語解説

注1)外骨格:昆虫の表皮細胞と、そこから分泌される細胞外基質(クチクラ)。体を保護するとともに、機械的な動きの物理的支柱・支点として機能する。

注2)ジョンストン器官(Johnston's organ: JO):ショウジョウバエやカの触角に存在する音受容器。数百個の機能ユニットからなり、各ユニットは機械受容ニューロンとそれを覆う細胞などからなる。

注3)NompA(No mechanoreceptor potential A):JOのニューロンの樹状突起を外骨格に接続する細胞外基質の構成タンパク質。

■論文情報

タイトル:Morphogenesis of the Drosophila antennal auditory structure in the pupa, with a focus on the connection between the sensory organ and the exoskeleton

著者:Shan Jiang, Reiko Tajiri

雑誌名:Discover Developmental Biology

DOI:10.1007/s00427-026-00734-2

■研究プロジェクトについて

本研究は、以下の支援によって実施されました。

・サントリーSunRiSE 生命科学研究者支援プログラム

・千葉大学 全方位・挑戦的融合イノベーター博士人材養成プロジェクト (ALDIC-PhD) (科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING))

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電話番号
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代表者名
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上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月