ホップの性決定システムの解明に成功
― 世界的に権威のある学術誌「Nature Plants」に掲載 ―
サントリーグローバルイノベーションセンター(株)は、岡山大学、東京科学大学などとの共同研究の結果、ホップにおける性決定システムの解明に成功しました。本研究の成果は、世界的に権威のある学術誌「Nature Plants」のWEBサイトに6月18日(水)に掲載されました。
▼研究テーマ
「ホップの性決定機構の解明」
▼研究者
サントリーグローバルイノベーションセンター(株) 小埜栄一郎、瀬川天太
協力体制:岡山大学、東京科学大学
その他協力:岩手生物工学研究所、岩手大学、エジンバラ大学、かずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、チェコ科学アカデミー、チェコホップ研究所、富山大学
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▼研究背景
多くの植物は花の中におしべとめしべをもつ両性花であり、自分自身で種子をつけることができます。一方、アサ科カラハナソウ属(ビールづくりにかかせないホップの他、カナムグラなど)はヒトと同じように個体ごとに性別が決まっており、一株だけでは子孫が作れず、雄株と雌株が必要です(図1)。なお、ビールにはホップの雌花のみを使用しています(図2)。


これまで、ホップの性決定においては、「XA型」と呼ばれるシステムが存在することが知られていました。ヒトの性決定は「XY型」システムで、性を決定する遺伝子はY染色体に存在しますが、この「XA型」システムはX染色体に存在する点が特徴です。2014年にサントリーグローバルイノベーションセンター(株)を中心とした当時の研究チームが雌のホップの全DNA配列情報(ゲノム)を解読し発表※しましたが、当時の解析技術による限界と、片方の性のみのゲノム情報では、その詳細なメカニズムはこれまで解明されていませんでした。
※公刊は2015年(Natsume et al. The Draft Genome of Hop (Humulus lupulus), an Essence for Brewing. Plant and Cell Physiology Volume 56, Issue 3, March 2015, Pages 428–441.)
▼研究方法
最新のゲノム解析技術を使用し、雌のホップ(ザーツ品種)と雄のホップそれぞれのゲノム配列を決定することで、染色体レベルで一本に繋がった長鎖ゲノムを構築し、さらにホップの近縁種であるカナムグラの雄のゲノムも解析しました。「XA型」の性決定システムに関連する遺伝子を特定するために、ホップおよびカナムグラのX染色体とY染色体を詳細に比較しました(図3・図4)。


▼研究成果
X染色体とY染色体のゲノム配列を比較したところ、特にエチレン受容体に類似した特定の遺伝子(EXER)が性決定に重要であることを見出しました。この遺伝子を発現すると雌の生殖器官の生長が増強されると同時に雄の生殖器官の生長が弱まり、逆に抑制すると雄の生殖器官が形成されることを確認しました。これにより、ホップをはじめとするアサ科植物の性別はX染色体に存在するEXERによって決定されることが分かりました(図5)。

▼今後の展望
今回の研究で、ホップを含むアサ科植物のXA型の性決定システムが解明され、さらなる性決定システムの多様性が示されました。今後、この研究をもとに香味や生育の優れたホップ品種の開発が加速することが見込まれます。さらに植物に限らずあらゆる生物の性システムの理解が進むことが期待されます。
サントリーグローバルイノベーションセンター(株)は、サントリーグループの基盤技術研究を担う会社として、研究を通じて「未来」のお客様にとっての価値創造をミッションに掲げています。今後も新たなお客様価値の探求と自然科学のさらなる追求に、積極果敢に挑戦していきます。
▽サントリーグローバルイノベーションセンター(株)ホームページ
https://www.suntory.co.jp/sic/
以上
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