ナフサ供給不安 51.7%が「在庫確保」でリスクに備える 需要側の在庫確保と供給側の選別が同時進行 収益力による対応力格差が鮮明に
中東情勢に伴うナフサなど石油製品供給状況に関する影響調査

中東情勢の緊迫化から3カ月が経過し、企業活動への影響が広がっている。ナフサを原料とする資材の取扱制限が広がるとともに、価格も上昇している。そこでナフサなど石油製品の供給状況についてアンケートを行い、調達上の支障が生じている資材や企業の対応状況を調査した。
SUMMARY
ナフサなど石油製品をめぐる供給不安に対し、企業の51.7%が「在庫確保」による防衛策を講じている。「仕入コストの上昇」(83.9%)や「調達不安定」(73.0%)が広がる中、市場では供給側による取引先選別も同時に進行している。分析の結果、こうした局面では、価格高騰を一時的に吸収する収益力や、在庫確保・代替調達に必要な資金余力によって、企業の対応力に差が生じている。今後は、供給元まで含めた商流把握、取引先との関係強化、価格転嫁力の確保が重要となる。
調査期間:2026年5月21日~5月31日(インターネット調査)
有効回答企業数:4,604社
企業間の「優先度」と「調達格差」のメカニズムが招くコスト増
ナフサなど石油製品をめぐる供給不安は、需要側と供給側の動きが重なり、価格・納期条件の見直しとして表れている。本調査結果をもとに、影響の強まりからコスト上昇に至る流れを整理した。
起点となるのは、企業の約7割が感じている「影響の強まり」(69.4%)である。需要側の企業では「調達不安定」(73.0%)や「リードタイム長期化」(50.2%)といった調達・納期不安が広がっている。必要資材を早めに押さえようとする動きが強まり、「在庫の確保(前倒し発注・安全在庫の引き上げ)」は51.7%に上った。
一方、供給側では、先行き不透明なコスト変動や納期不安を背景に、見積・契約条件を慎重に見直す動きがみられる。「仕入価格の変動が激しく、見積・契約が困難」は42.8%となったほか、「顧客対応の優先順位付け」も14.4%に上った。需要側の前倒し発注と、供給側の見積・契約慎重化や配分調整が同時に進むことで、総量の不足だけでは説明できない、一部の商流・品目における目詰まりが生じているとみられる。
こうした需給調整の過程では、川上・川中企業による価格改定や見積条件の見直しが進み、これらが仕入価格の上昇として表れている。企業が実施している取り組みとして「価格改定」は39.5%、「顧客への納期・価格・仕様の再交渉」は37.8%に上った。結果として、事業活動に生じている影響では、「原材料・部材の仕入コスト上昇」が83.9%で最多となり、「物流・輸送・包装コストの上昇」も48.9%、「エネルギーコストの上昇」も34.1%に達した。供給側にとっての価格改定は、需要側にとってはコスト上昇となり、商流を通じて価格高騰が連鎖している。供給不安は、単なる物理的な「モノ不足」にとどまらず、価格・納期条件の見直しを通じて、企業のコスト構造に波及している。
約7割が影響の強まりを実感、価格・納期不安が続く
具体的な影響「原材料・部材コスト上昇」が83.9%でトップ
中東情勢による事業活動への影響について、パニック的な動きがみられた3・4月時点と、調査を行った5月時点との変化を尋ねたところ、「影響はさらに強まっている」と答えた企業が32.6%に上った。「やや強まっている」と回答した36.8%と合わせ、約7割(69.4%)の企業が影響の強まりを実感していた。
事業活動に生じている影響では、「原材料・部材の仕入コスト上昇」が83.9%と最も多く、「調達が不安定/入手困難」(73.0%)、「調達リードタイムの長期化」(50.2%)が続いた。物理的な調達難に加え、「物流・輸送・包装コスト上昇」(48.9%)、「仕入価格の変動が激しく、見積・契約が困難」(42.8%)、「エネルギーコスト上昇」(34.1%)など、価格・納期・契約条件の変化が企業活動に広く影響している。
調達支障は、塗料など「化学系加工資材」が29.6%でトップ
事業において納期遅延や数量不足などの調達上の支障が最も生じている資材を尋ねたところ、塗料や接着剤、シンナーなどの「化学系加工資材」が29.6%でトップとなった。続いて、粘着テープやプラスチック容器などの「包装・物流資材」が20.2%、「設備・建築・電子部材」が13.9%となった。いずれも、製造・施工の工程や出荷・納品を支える資材であり、主原料そのものではなく、事業活動の途中工程や物流面で使われる資材に支障が出ていることが分かる。
ナフサを含む「原材料・基礎化学品」で支障が出ているとする企業は11.9%にとどまった。「燃料・エネルギー関連」も6.8%と低い割合だった。川上の基礎素材が市場から完全に消滅したわけではなく、それらを原料として製造される接着剤、塗料、シンナー、インキ、出荷に不可欠な包装材など、川中の加工・流通段階で使われる資材において、相対的な調達難に直面している実態が浮かび上がる。
商流・業種で在庫余力に差、建設業は24日分
ナフサなどの不足は、サプライチェーン(商流)上どの階層で滞留し、どの階層で枯渇しているのか。業種別に「川上・川中・川下」産業に分類し、支障が生じている資材の在庫保有期間から、それぞれの商流上における在庫日数を推定、比較した。
その結果、基礎素材・資源供給を担う川上産業の平均在庫量は50日分、川中産業では「一次加工」で52日分を確保していたものの、中間流通を担う「卸売・流通」は39日分にとどまった。
川下産業では、在庫量に業種差がみられる。最も少なかったのは「建設業」で24日分にとどまった一方、自動車や食品製造など「最終組立」は56日分、「小売・サービス・インフラ」は45日分だった。川下全体で一律に在庫が少ないわけではなく、現場ごとに仕様が異なる建設関連など、一部の業種で在庫余力が限られている。
この結果、ナフサ由来の製品群における影響は、全面的な供給停止というよりも、商流や業種によって在庫の持ち方に偏りが生じ、一部の資材・業種で調達の目詰まりが起きやすい状況として捉えられる。川上や一次加工では一定の在庫を確保している一方、中間流通や建設業などでは、需要の変動や納期不安を在庫で吸収しにくい面がある。
在庫の偏りは、資材量だけでなく、取引関係や価格条件にも左右される。供給側が限られた在庫や納期余力をどの取引先に配分するか、需要側が価格上昇や納期変更をどこまで受け入れられるかによって、同じ資材でも調達しやすさに差が生じる。足元の供給不安は、総量としての純粋な「モノ不足」だけでなく、商流上の立場、価格条件、納期対応力の違いによって、調達できる企業としづらい企業が分かれる構造になっている。
「在庫確保」は51.7%、企業は複数対応で影響を吸収
「卸売・流通」で供給先の優先順位付けが進む
現在の石油製品の供給状況を踏まえ、短期的に実施している取り組みを尋ねると、「在庫の確保」が51.7%と半数を超えた。次いで、「価格改定」が39.5%、「顧客への納期・価格・仕様の再交渉」が37.8%となり、在庫確保だけでなく、価格や取引条件の見直しを進める企業も多い。一方で、「在庫の確保」を実行できていない企業も37.2%に上り、必要資材を早めに押さえる動きが広がるなかでも、対応余力には差がみられる。商流別では、「在庫の確保」は「小売・サービス・インフラ」を除く全商流で半数を超え、「価格改定」は「一次加工」で6割を超えたほか、「卸売・流通」(47.9%)、「基礎素材・資源供給」(44.3%)でも4割を超えた。
限られた在庫や納期余力をどの取引先・案件に配分するかを見直す動きもみられる。「顧客対応の優先順位付け」は全体で14.4%だったが、「卸売・流通」では21.6%と、商流上で唯一2割を超えた。価格改定や納期変更を受け入れやすい顧客、供給継続の優先度が高い取引先を重視する一方、価格改定に消極的な企業やスポット取引、小口取引先では、資材の手配や納期回答が難しくなるケースもある。こうした供給調整は合理的な自衛策である反面、商流上の目詰まりを生む要因となっている可能性がある。
企業からは、「価格の急騰もあるが、値上げを受けいれないと原料を供給してもらえない」(化学工業、石油製品・石炭製品製造/年商10~50億円)など、上流からの価格改定に協力的に応じざるを得ないといった声が聞かれた。こうした局面では、取引先や同業者との情報共有、発注時期の調整、相互融通といった平時からの関係性が、調達の安定性を左右しやすい。実際に、「自社も潤沢に在庫があるわけではないが、同業者に一部資材を回した」との声もあり、限られた在庫を業界内で融通し合う動きもみられる。こうした協力関係は、個社の自衛策にとどまらず、地域や業界全体で事業継続力を高める取り組みと言えよう。
低収益企業で、借入負担の重さが資金繰り悪化に表れる
ナフサ供給不安に伴う影響や企業の対応は、企業規模の大小だけでなく、収益性や財務基盤といった平時からの経営属性によっても違いがみられる。本調査では、「事業活動に生じている影響」と「実施している取り組み」について、『売上高』『営業利益率』『有利子負債月商倍率』『倒産予測値※』の4つの軸で分析し、差が大きい項目に着目した。価格高騰は幅広い企業に共通する一方、見積・契約の困難さ、資金繰り、代替調達や在庫確保といった対応面では、経営基盤や資金調達余力の差が表れている。
<売上高>
売上規模別にみると、『100億円以上』の企業では「物流・輸送コストの上昇」が57.1%と、『1億円未満』の35.8%を大きく上回った。広域の物流網や多くの取引先を抱える企業ほど、輸送・保管・包装などの付随コスト上昇が負担となりやすい。また、『1億円未満』では「見積・契約が困難」が49.7%、「資金繰り悪化」が16.6%と高い。価格変動を契約条件に反映しにくい企業ほど、コスト増を一時的に自社で吸収せざるを得ず、経営負荷として表れやすいとみられる。取り組み面では、『100億円以上』で「代替サプライヤーの開拓」が35.5%と高く、広範な供給網を維持するため、調達先の分散や供給継続性の確認を進める動きがみられる。加えて、限られた在庫や納期余力を踏まえ、「顧客対応の優先順位付け」を行う動きもみられる。広範な取引網を抱える企業ほど、供給継続性の確認や取引先ごとの条件調整を進めているとみられる。
<営業利益率>
営業利益率別では、収益力の違いが価格高騰への対応余力として表れている。『赤字』企業では「仕入価格の変動が激しく、見積・契約が困難」が51.6%となり、『10%以上』の企業の33.9%を大きく上回った。また、「資金繰りの悪化」も『赤字』企業で15.1%に上り、『10%以上』の2.7%とは大きな差がみられた。仕入コスト上昇は営業利益率に関わらず8割台と広く共通しているが、赤字・低利益率企業では、価格改定までの期間にコスト増を吸収する余力が限られる。また、「受注制限」に至った割合は『10%以上』の企業が低かった。これは、原価高騰を受け入れてでも調達できる体力を備えているのに対し、低収益層では、調達難を補う余力が限られ、受注制限や事業機会の損失として表れやすいとみられる。取り組み面では、「価格改定」において『赤字』が41.7%、『0~5%未満』が44.3%と高く、低収益層ほど販売先との価格条件の見直しを迫られているとみられる。
<有利子負債月商倍率>
有利子負債月商倍率別では、借入負担の重さが資金繰りへの影響として表れている。『借入なし』の企業では「資金繰りの悪化」が0.5%にとどまる一方、『10倍以上』では18.6%に上った。既存債務の返済負担を抱える企業ほど、急激な仕入価格上昇への対応や安全在庫の積み増しに必要な追加資金を確保できず、経営が圧迫されやすい。『10倍以上』の借入負担が大きい企業は、資金繰りの苦しさだけでなく、「顧客との納期・価格・仕様の再交渉」や「顧客対応の優先順位付け」といった調整アクションが低い傾向にあった。借入負担が重い企業では、既存債務の返済負担があるなかで、価格改定までの一時的なコスト吸収や在庫確保に必要な資金を確保しにくい。結果として、顧客との条件調整や優先順位付けといった対応にも制約が生じやすいとみられる。
<倒産予測値>
倒産予測値別では、『高リスク企業』の「資金繰りの悪化」が21.8%と、『中低リスク企業』の7.0%を大きく上回り、資金面での負荷が鮮明となっている。また、『高リスク企業』では、「代替サプライヤーの開拓」(28.0%)や「使用量削減」(19.3%)の割合も相対的に高い。既存の調達先だけでは十分な供給を確保しにくいなかで、調達先の見直しや使用量の抑制など、複数の対応を進めている様子がうかがえる。
ただし、こうした対応を進めるには一定の資金や取引調整力が必要となる。今回の結果は、ナフサ高が直ちに倒産リスクにつながることを示すものではなく、各社がもともと持つ財務余力や資金調達力の差が、外部環境の変化によって表面化していると捉える必要がある。
※倒産予測値とは
・今後1年以内の倒産確率を算出したリスク指標で、10段階のグレードで表され、数値が大きいほどリスクは高い
・グレード8〜10を「高リスク企業」と定義
資金繰りへの影響は、売上規模だけで一律に決まるものではない。「資金繰りの悪化」を挙げた企業は全体で8.0%だったが、売上規模、営業利益率、有利子負債月商倍率を掛け合わせると、その割合には差がみられる。図では、左側に営業利益率5%以上の企業、右側に赤字または営業利益率5%未満の企業を配置し、売上規模と有利子負債月商倍率別に「資金繰りの悪化」の割合を比較した。
売上高5億円未満の小規模企業でも、営業利益率5%以上かつ有利子負債月商倍率5倍未満の企業群では、「資金繰りの悪化」は7.2%にとどまった。一方、売上高10億円以上であっても、赤字または営業利益率5%未満、かつ有利子負債月商倍率10倍以上の企業群では22.6%に達し、3倍以上の開きがみられた。
価格高騰局面では、企業規模の大小に加え、収益力と借入負担の組み合わせが資金繰りへの影響を左右していることがうかがえる。十分な利益を確保し、借入負担を抑えている企業では、小規模でも影響を相対的に抑えやすい一方、一定の売上規模があっても、低収益で借入負担が大きい企業では資金繰り悪化が表れやすい。
供給不安が促す、調達体制と経営基盤の見直し
中東情勢の緊迫化を受けたナフサなど石油製品の供給不安は、プラスチック、自動車部品、医療用品、建築資材など幅広い分野に影響を及ぼしている。ただし、足元の状況は産業全体でモノが完全に止まるというより、価格上昇、納期不安、特定品目の手配しづらさとして表れている。影響の焦点は、全面的な供給停止ではなく、流通の偏りや価格変動を企業がどの程度吸収できるかに移りつつある。
今回の調査では、需要側の在庫確保と供給側の配分調整が同時に進み、従来通りの価格や納期の維持が難しくなっている様子がうかがえた。また、総量の不足だけでは説明できない、一部の商流・品目における目詰まりが生じているとみられる。
こうした局面では、需要側企業は単に仕入先を複数に増やすだけでは十分ではない。複数の仕入先を持っていても、商流をさかのぼれば同じメーカー・商社に依存している場合、調達リスクを十分に分散できているとは限らない。供給元や一次代理店まで含めた商流を把握し、価格改定や納期変更が生じた際に、どの取引先と条件調整できるかを確認しておくことが重要となる。
また、価格高騰を吸収する力は、平時からの収益構造や取引関係、価格転嫁力、資金調達余力によって左右される。価格改定までの一時的なコスト吸収、在庫確保、代替調達先の開拓には資金が必要となるため、必要な資金を確保できるかどうかが対応力を左右する要素となっている。
足元では、政府の対応も総量の確保から、供給の偏りや流通の目詰まりの解消へと軸足を移している。経済産業省は6月時点で、ナフサ由来の化学製品を含む石油製品について年度を越えて供給継続できる見通しを示す一方、一部では供給の偏りや流通の目詰まりが生じているとの認識も示している。 また、目詰まり・偏りの解消に協力する団体・企業リストの公表や、シンナー・塗料向けの供給拡大策など、流通改善に向けた取り組みも進められている。
こうした対応により、今後は一部の商流・品目で生じている目詰まりが徐々に緩和されていくことが期待される。もっとも、価格高騰や納期不安が直ちに解消するとは限らず、企業側には引き続き、取引先との関係強化、二次取引先以降を含めた商流把握、価格転嫁を受け入れてもらえる商品・サービスの差別化が求められる。加えて、在庫確保や代替調達に必要な資金余力を確保することも重要となる。供給不安が長期化すれば、個社の自助努力だけでは対応が難しい企業も出てくる可能性がある。共同購買や業務提携に加え、調達網や販売基盤、保管機能、資金調達力を補完する手段として、M&Aを含む業界再編が進む可能性もある。ナフサ高・供給不安は、企業にとって調達体制だけでなく、収益構造や経営基盤そのものを見直す局面となっている。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
