大反響で発売即重版! 安部公房の幻の遺作『飛ぶ男』(新潮文庫)が発売から10日で3刷決定
安部公房生誕100年
3月7日に生誕100年を迎えた安部公房。その遺作『飛ぶ男』に大きな注目が集まっています。本作は刊行発表当時より反響を呼び、2月28日に発売されるや否や発売即重版が決定。その後もSNSなどで次々に感想が投稿されるなど、日を追うごとに話題が拡大。この度、発売からわずか10日で3刷となりました。
新潮社より文庫新刊が発売されるのは、1995年『カンガルーノート』以来、約30年ぶりのことです。ノーベル文学賞受賞寸前であったといわれる安部公房の遺作にして未完の絶筆。その尖鋭な創造力で世界を震撼させた作家が最期に遺した物語とは――。
■フロッピーディスクから見つかった原稿
安部公房は1924年3月7日に生まれ、今年生誕100年を迎えました。
『飛ぶ男』は安部公房が1993年に急性心不全で急逝した後、愛用していたワープロのフロッピーディスクの中から発見された未完の絶筆です。その黒のフロッピーディスクには独特の筆跡で「飛ぶ男」と書かれており、その下にひし形で囲った「23」という番号が振られています。遺作がデータとして残されていたというのは、日本文学史上初のことだと言われており、まさにワープロを日本の作家で初めて取り入れ、また日本最初期のシンセサイザーユーザーでもあった、未来志向のメカ好きだった安部公房ならではのエピソードと言えます。
■9つの『飛ぶ男』
イ・チョンヒ氏の研究[i]によると、安部公房が晩年暮らしていた箱根の別荘にあったフロッピーディスクやワープロ原稿などを整理したところ、『飛ぶ男』の「創作MEMO」・内容の異なるワープロ原稿・ワープロ原稿の著者手入れ稿など、本作『飛ぶ男』に先立つ原稿は全部で9種類あったといわれています。
1994年に刊行された『飛ぶ男』(単行本/新潮社)は安部公房の死後、長年寄り添った真知夫人が原稿に手を入れたバージョンでした。今回の文庫版では、フロッピーディスクに遺されていた元原稿(安部公房全集029に収録されているものと同じ)を底本とし、安部公房自身による完全オリジナルバージョンを刊行しました。
[i] 李 貞煕(1997)、変貌するテキスト・『飛ぶ男』考、國文學:解釈と教材の研究、42、86~92
■「きみ、飛びたいと思ったことない?」
安部公房は生前本作について「ぼくの小説で繰り返し必ず出てくるものに、空中遊泳とか空中飛翔がある。今度は冒頭から空を飛んでる男のシーンだ。それも携帯電話を持って話してるところから始まる。ものすごく空想的だけど猛烈にリアル」と話しています。
またある時、安部公房は真知夫人にこう聞いたといいます――。
「きみ、飛びたいと思ったことない?」
夫人が「そんなこと思ったことないわ」と答えると、
「へぇ、飛びたくない人がいるのかね……」[ⅱ]
壮大な長編になるはずであった本作は、400字詰め換算で162枚分が書かれた状態で発見されました。
「ある夏の朝、たぶん四時五分ごろ、氷雨本町二丁目四番地の上空を人間そっくりの物体が南西方向に滑走していった。(中略)何かを左手に持ち、耳にあてがっている。唇の動きも、誰かに喋りかけている感じ。携帯電話だ。
どうやら《飛ぶ男》の出現に立ち会ってしまったようである。」(本文より)
完成していれば新たな代表作になる予感を感じさせる、知的で不条理でアヴァンギャルドな安部文学そのもののオープニングです。「飛ぶ男」と中学教師、男性不信の女、発射された2発の銃弾、曲げられたスプーン、妙な収集物で満ちた部屋。この物語は一体どこに向かっていくはずだったのか……。世界文学の最先端であり続けた作家が遺した最期の物語を、是非想像してみてください。
[ⅱ] 朝日新聞、1993年2月13日、朝刊、31頁、日経テレコン
■購買層の特徴
『砂の女』、『壁』といった安部公房の代表作は10代後半から20代といった若い読者が多いものの、『飛ぶ男』は読者全体の3分の1を50~70代の読者が占めています。かつて若かりし頃に安部公房の作品を読んでいた読者が、改めてこの約30年ぶりの新刊を手に取っていると言えます。発売前のSNSでの情報解禁においても、往年のファンからの期待の声が多く寄せられました。
■「安部公房生誕100年フェア」絶賛展開中!
新潮社は「安部公房生誕100年」として、2月末から書店店頭でフェアを開催しています。文庫新刊『飛ぶ男』に加え、3月末には安部文学の幕開けともいえる『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』も発売。既刊文庫には女優の齋藤飛鳥さん、ゲームデザイナーの小島秀夫さん、作家の一穂ミチさんに推薦コメントをお寄せいただきました。
他にも「新潮」3月号では「――特別に特別な作品宇宙」として未発表写真に加え、円城塔さん、島田雅彦さん、平野敬一郎さん等、多くの方にエッセイをご寄稿いただきました。
「芸術新潮」3月号「私たちには安部公房が必要だ」は60頁を超える特集で、写真家の安部公房を追いながら、作品のガイドブックとしても充実した内容になっております。
「波」3月号では文庫新刊2点の詳細に加え、浅野忠信さんの映画『箱男』撮影秘話、小島秀夫さんの安部公房との出会い等、ユニークなエッセイをご寄稿いただきました。
3月7日より待望の電子書籍も発売されました。『飛ぶ男』刊行をはじめ、新潮社全体で安部公房生誕100年を盛り上げていますので、是非書店店頭へ足をお運びください。
■内容紹介
ある夏の朝。時速2、3キロで滑空する物体がいた。《飛ぶ男》の出現である。目撃者は3人。暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師……。突如発射された2発の銃弾は、飛ぶ男と中学教師を強く結び付け、奇妙な部屋へと女を誘う。世界文学の最先端として存在し続けた作家が、最期に創造した不条理な世界とは――。表題作のほか「新潮」で連載が始まった「さまざまな父」を収録。
■著者略歴
安部公房(1924-1993)
東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。2012年、読売新聞の取材により、ノーベル文学賞受賞寸前だったことが明らかにされた。
■書誌情報
書名 飛ぶ男(新潮文庫刊)
著者 安部公房
発売日 2024年2月28日
定価・電子書籍の希望小売価格 649円(税込)
ISBN 978-4-10-112125-3
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