企業の「価格転嫁率」39.9%、再び4割を下回る 急激な円安、中東情勢の混乱によるコストアップが下押し
価格転嫁に関する実態調査(2026年7月)

株式会社帝国データバンクは、全国2万2,350社を対象に、「価格転嫁」に関するアンケート調査を実施した。なお、価格転嫁に関する実態調査は、前回2026年2月に実施し、今回で8回目。
SUMMARY
7月調査時点の価格転嫁率は39.9%となり、再び4割を下回った。項目別では、人件費、物流費、エネルギーコストの転嫁は3割前後にとどまる。他方、価格改定までの期間は短縮傾向がみられた。価格転嫁は「実施」から、「十分な転嫁」と「継続的な価格改定」を問う段階に入り、定期的な価格協議ができる取引環境の整備が不可欠となっている。
調査期間:2026年7月17日~7月31日(インターネット調査)
調査対象:全国2万2,350社、有効回答企業数は1万518社(回答率47.1%)
価格転嫁率は39.9%、再び4割を下回る
自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、コストの上昇分に対して『多少なりとも価格転嫁できている』と回答した企業は75.8%となった。前回調査(2026年2月)の76.9%から1.1ポイント低下した。内訳をみると、「10割すべて転嫁できている」企業は3.4%、「8割以上」は13.0%、「5割以上8割未満」は17.5%となり、「5割以上転嫁」できている企業の割合は33.9%だった。一方で、「2割以上5割未満」は17.4%、「2割未満」は24.5%、「全く価格転嫁できない」企業は11.9%となり、「転嫁が5割未満」の企業の割合は53.8%となった。なかでも、およそ8社に1社がコスト上昇分を販売価格に全く反映できていない。

価格転嫁を実施できている企業が多いことと、コスト上昇を十分に反映できていることは同義ではなく、「2割未満」が最大の回答層となり、「10割すべて転嫁できている」は3.4%にすぎない。価格転嫁は広く行われているものの、実態としては小幅な値上げや一部費目のみの転嫁にとどまる企業が多いと考えられる。
また、コスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率[1]」は39.9%だった。前回調査の42.1%から2.2ポイント低下し、再び4割を下回った。2025年7月に実施した前々回調査の39.4%は上回ったものの、前回みられた改善の動きは続かず、価格転嫁には頭打ち感が表れている。
企業規模別の価格転嫁率は、大企業が41.6%、中小企業が39.7%、小規模企業が38.3%となった。規模が小さくなるほど価格転嫁率が低下している。とりわけ、小規模企業は、取引先との力関係や競合他社との価格競争に加え、原価計算や交渉資料の作成を担う人材が限られるなど、交渉の準備面でも制約を抱えやすい。価格転嫁の格差は、価格決定力や交渉力の差を反映したものとみられる。
依然として、価格決定権の弱い業種ほど価格転嫁が厳しい
サプライチェーン別に価格転嫁の状況をみると、「化学品卸売」(63.2%)や「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(53.5%)、「機械・器具卸売」(51.3%)など、卸売業の業種を中心に、転嫁率は5割を超えたものの、全体的に前回調査と比較して低下している様子が表れた。また、消費者に近い川下に位置する業種の「各種商品小売(食品スーパー)」(33.1%)や「飲食店」(28.7%)、「旅館・ホテル」(23.0%)などでは、継続的な価格転嫁が難しく、「価格転嫁すると集客できなくなるのではないかという不安から、値上げに踏み出せない」(飲食店、兵庫県)や「競合先との価格競争の中、価格転嫁するのは難しい。特に競合相手が資本力のある場合、価格で勝てる見込みは少ない」(各種商品小売、山梨県)といった声が企業から寄せられた。
さらに、「市場の相場によって価格が決定するため、コストを価格転嫁することが実質できない」(農・林・水産、長野県)や「収入の大部分が介護報酬によるため、自社独自の価格設定はほとんどできない」(医療・福祉・保健衛生、岡山県)など、価格決定権が弱く、容易に価格を改定できない業種・業態では、コスト増を自社で吸収せざるを得ないケースも多い。そのほか、手数料などが法令で定められている「不動産」(25.9%)や、ゲームセンターのように1ゲーム当たりの料金を容易に変更できない「娯楽サービス」(17.7%)も価格転嫁率は低水準で推移している。
これまで、消費者に近い川下産業や、公的価格、契約、取引慣行などによって価格決定権が制約される業種ほど、価格転嫁が難しい傾向が指摘されていた。今回も同様の結果が表れ、こうした構造的な課題は解消されていない。
人件費・物流費・エネルギーコストは転嫁3割前後
さらに、自社の主な商品・サービスにおいて、代表的なコストとなる原材料費、人件費、物流費、エネルギーコストを項目別にそれぞれどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、価格転嫁率が最も高かったのは原材料費の47.3%だった。次いで物流費が34.5%、人件費が32.0%、エネルギーコストが29.6%となった。原材料費では、仕入れ先からの価格改定通知や市況データなど、コスト上昇を客観的に示す資料が得やすい。そのため、価格改定の根拠を取引先に説明しやすく、他の費目に比べて転嫁が進んでいると考えられる。一方で、人件費、物流費、エネルギーコストは、複数の商品やサービスにまたがって発生することが多く、個別の販売価格との対応関係を示しにくい。間接費として扱われやすいことも、転嫁を難しくしていると言えよう。
とりわけ、人件費は一時的な負担ではなく、人手不足に対応するための賃上げや採用条件の改善、社会保険料、教育費などが継続的に発生する。その上昇分を価格に反映できなければ、賃上げの原資が確保できず、人材採用や定着、サービス品質の維持にも影響が及びかねない。

企業の4社に1社が価格転嫁までの期間、「短くなった」と回答
価格転嫁までの期間について尋ねたところ、「変わらない」が38.4%で最も高かった。次いで「短くなった」が26.3%、「長くなった」が7.6%、「今回が初めての価格転嫁だった」が2.5%となった。「短くなった」が「長くなった」を18.7ポイント上回っており、企業がコスト上昇を認識してから価格改定に動くまでの期間は、全体として短縮する方向にあることがうかがえる。急激な円安による輸入物価の上昇や、値上げに対する社会的な理解が以前より広がったことに加え、企業側でも価格協議の定期化や原価管理の強化が進み、コスト上昇に対する意思決定が迅速になった可能性がある。
業界別に「短くなった」企業の割合をみると、『製造』が34.6%で最も高く、『卸売』が30.3%、『運輸・倉庫』が27.9%で続いた。原価の変動を把握しやすく、仕入価格と販売価格の関係が比較的明確な業界ほど、価格改定までの期間が短縮している。
ただし、価格転嫁率は前回より低下している。これは、企業が従来よりも早く価格交渉や値上げに動いても、仕入価格の上昇スピードがより早まるなかで、顧客離れや販売数量の減少を懸念し、値上げ幅を抑えている可能性を示していよう。

価格転嫁は「実施」から、「十分な転嫁」と「継続性」を問う段階へ
本調査の結果、自社の商品・サービスのコスト上昇に対して、「多少なりとも価格転嫁できている」企業は75.8%と4社に3社にのぼる。一方で、急激な円安や中東情勢の混乱によるコストアップが下押しし、価格転嫁率は前回調査から2.2ポイント低下して39.9%となり、再び4割を下回った。コストが100円上昇しても約40円しか販売価格に反映できず、残りを企業が負担していることになる。また、2割未満の転嫁にとどまる企業が24.5%で最も多く、すべて転嫁できる企業は3.4%にすぎない。価格転嫁を実施する企業は広がったものの、十分な転嫁には至っていない。
費目別の価格転嫁率は、原材料費は5割近くにのぼったのに対し、人件費、物流費、エネルギーコストは3割前後にとどまった。価格転嫁の根拠を示しやすい原材料費に比べ、人件費など継続的に発生するコストの転嫁は遅れている。こうしたコストを企業が負担し続ければ、利益を圧迫するだけでなく、賃上げや人材確保、設備投資などを抑制する要因となりかねない。
今回新たに尋ねた価格転嫁までの期間は、「短くなった」が26.3%となり、「長くなった」の7.6%を大きく上回った。価格改定への交渉は迅速化しているものの、仕入価格の上昇スピードがさらに早まっていることなどで転嫁率自体は低下しており、早期の値上げが十分な転嫁に結び付いているとは言い切れない。
価格転嫁は、一度の値上げで完了するものではない。コスト変動を定期的に確認し、継続して価格を見直す経営プロセスとして定着させる必要がある。しかし、小規模企業や価格決定権の弱い業界では、個々の企業努力だけでの対応には限界がある。発注側と受注側が定期的に価格を協議し、原材料費だけでなく人件費や物流費なども価格見直しの対象とする取引環境の整備が欠かせない。
価格転嫁は「実施したかどうか」を確認する段階から、「必要なコストを十分に反映できたか」、さらに「環境の変化に応じて適正な価格改定を継続できるか」を問う段階に入っている。十分な価格転嫁と継続性を確保することは、企業収益の維持だけでなく、持続的な賃上げ、雇用の確保、設備投資、商品・サービスの安定供給を支える重要な条件となろう。
[1] 価格転嫁率は、各選択肢の中間値に各回答者数を乗じ加算したものから全回答者数で除したもの(ただし、「コスト上昇したが、価格転嫁するつもりはない」「コストは上昇していない」「分からない」は除く)
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