【新潟医療福祉大学】認知症疾患医療センターの地域配置を地理空間解析―豪雪地帯・半島・離島など、地理的条件によるアクセス上の課題を明らかに―
NSGグループの新潟医療福祉大学社会福祉学科の馬場美彦准教授は、東京都健康長寿医療センター研究所、認知症介護研究・研修東京センターと共同で、認知症疾患医療センターの整備状況について地理的・気候的な観点から分析しました。
認知症疾患医療センターは、二次医療圏ごとの整備と全国500か所以上の整備が目標とされ、現在では500か所以上の整備が実現しています。一方で、現在も認知症疾患医療センターが整備されていない二次医療圏が存在するなど、単純な施設数だけでは捉えられない地域間のアクセス上の課題が残されています。
本研究では、認知症疾患医療センターの位置情報と、豪雪地帯、振興山村地域、特定農山村地域、半島、離島などの地理空間データを用いて、地域特性と認知症疾患医療センターの配置との関係を分析しました。さらに、自動車による30km到達圏を解析し、認知症疾患医療センターへのアクセスを検討できる地図を作成しました。
その結果、豪雪地帯や半島、湖沼周辺、東京の離島地域など、地理的・気候的条件によって認知症疾患医療センターへのアクセスが困難となる可能性がある地域が、地図上で明らかになりました。これらの地域では、遠隔支援などを含めた医療・介護支援体制の検討が必要であることが示唆されました。
本研究成果は、国際医学雑誌「BMJ Open」第16巻(2026年8月)に掲載されました。
研究について
【研究の目的】
認知症疾患医療センター1は、認知症の専門的な医療機関として、地域における認知症医療の中核的な役割を担っています。全国500か所以上の整備が進められ、二次医療圏ごとの整備も目標とされてきました。
しかし、認知症疾患医療センターの「数」が充足していても、豪雪地帯、半島、離島など、地理的条件によって医療機関へのアクセスが困難な地域が存在する可能性があります。
そこで本研究では、厚生労働省が公開する認知症疾患医療センターの位置情報と、国土交通省の国土数値情報に含まれる豪雪地帯、振興山村地域、特定農山村地域、半島、離島などの地理空間データを用いて、地理空間データを用いた分析を行いました。
また、認知症疾患医療センターが整備されていない地域については、各自治体が公開する認知症ケアパス2を調査し、認知症疾患医療センターがない地域でどのような支援体制が整備されているのかを確認しました。
さらに、認知症疾患医療センターを起点として、自動車で30km以内に到達できる地域(30km到達圏、Isochrone)を解析し、地理的なアクセス状況を検討しました。
本研究により、豪雪地帯、半島、湖沼周辺、東京の離島地域など、地理的・気候的条件によって認知症疾患医療センターへのアクセスが困難となる地域が存在することが明らかになりました。このような地域では、遠隔支援などを含めた新たな支援体制を検討する必要性が示唆されました。
【研究成果のポイント】
1.認知症疾患医療センターと地域の地理的条件を分析
認知症疾患医療センターの位置情報と、豪雪地帯、振興山村地域、特定農山村地域、半島、離島などに関する地理空間データを用いて、Rによる地理空間解析を行いました(図1)。
これにより、認知症疾患医療センターの配置と、地域の地理的・気候的条件との関係を全国規模で分析しました。
2.自動車による30km到達圏を分析
認知症疾患医療センターを起点として、自動車で10km・30km以内に到達できる地域(到達圏域分析3)を図示しました(図2)。到達圏域作成にはオープンストリートマップのデータを使用し、地図の作成にはフリー統計ソフトウェアRを使用しました。
単純な距離だけではなく、道路を利用した実際の移動可能性を考慮することで、認知症疾患医療センターへのアクセスが困難となる地域を検討しました。
3.認知症疾患医療センターがない地域の支援体制を調査
認知症疾患医療センターが整備されていない地域について、各自治体の認知症ケアパスを調査しました。
これにより、認知症疾患医療センターがない地域において、地域の医療機関や介護・福祉サービスなどがどのような役割を担っているのかを確認しました。
4.オープンソースと再現可能性を重視した研究
本研究では、オープンソースの統計解析環境であるRを用いて、地理空間解析から到達圏分析までをコード化しました。
解析に使用したコードはGitHub上で公開しており、研究成果だけでなく、どのような手順で解析を行ったのかを第三者が確認・再現できる形で公開しています。また、解析結果をオンラインで確認できる地図も公開しています。
研究コード:https://github.com/babayoshihiko/MCD_2026/
オンライン地図:https://babayoshihiko.github.io/MCD_2026/
オンライン公開している研究成果の地図


【研究成果の意義】
認知症疾患医療センターは全国的に整備が進んでいますが、施設数や二次医療圏単位での整備状況だけでは、地域住民が実際にどの程度アクセスできるのかを十分に評価することはできません。
本研究は、地理的・気候的条件や道路交通によるアクセスを考慮することで、認知症医療へのアクセスに地域差が存在することを示しました。
特に、豪雪地帯、半島、離島などでは、医療機関を配置するだけでなく、遠隔支援などのICTを活用した支援方法を組み合わせることが、地域の認知症医療体制を考える上で重要になると考えられます。
今後は、こうした地理的条件を考慮した認知症医療・介護体制のあり方について、さらに検討を進めることが期待されます。
【用語解説】
1 認知症疾患医療センターとは:認知症疾患医療センターは、認知症に関する専門的な診断や治療、相談などを行う医療機関です。地域の医療機関や介護サービス事業者などと連携し、認知症の人やその家族を支援する役割を担っています。
2 認知症ケアパスとは:認知症ケアパスは、認知症の人が住み慣れた地域で生活を続けられるよう、認知症の状態に応じて、どのような医療・介護・福祉サービスを利用できるのかを示した地域の支援情報です。
3 到達圏域分析:到達圏域分析(アイソクロン分析 / Isochrone analysis)とは、特定の出発地から道路網や交通機関を利用して、「一定の時間内などで到達できる範囲」を計算し、地図上に等時線(ポリゴン)として可視化する手法です。直線距離(半径)とは異なり、実際の道路や交通の状況を反映できるのが特徴です。
【研究者のコメント】
◆社会福祉学科・馬場美彦准教授
本研究は、これまで認知症疾患医療センターの整備について研究を行ってきた東京都健康長寿医療センターと、地理情報システムを専門とする本学研究者による共同研究となりました。研究にあたり、認知症の人と家族の会の和田誠共同代表から、貴重なコメントをいただきました。
【原論文情報】
Geographical and climatic factors driving regional variation in medical centres for dementia in Japan: a nationwide geocomputational analysis
BMJ Open 2026;16:e117407.
DOI 10.1136/bmjopen-2026-117407
URL https://bmjopen.bmj.com/content/16/8/e117407
【研究者情報】
新潟医療福祉大学 社会福祉学科
准教授 馬場美彦
【新潟医療福祉大学】 https://www.nuhw.ac.jp/
全国でも数少ない、看護・医療・リハビリ・栄養・スポーツ・福祉・医療ITを学ぶ6学部16学科の医療系総合大学です。この医療系総合大学というメリットを最大限に活かし、本学では、医療の現場で必要とされている「チーム医療」を実践的に学ぶことができます。また、全学を挙げた組織的な資格取得支援体制と就職支援体制を構築し、全国トップクラスの国家試験合格率や高い就職実績を実現しています。さらに、スポーツ系学科を有する本学ならではの環境を活かし、「スポーツ」×「医療」「リハビリ」「栄養」など、スポーツと融合した学びを展開しています。
〈NSGグループについて〉
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