小川洋子(小説家)×加藤拓也(劇作・演出家)『博士の愛した数式』小説から演劇へ 創造の秘密を巡るクリエイターの対話
まつもと市民芸術館が、お客様に観劇をより楽しく深掘りしていただくための「レクチャーシリーズ」。その第31弾として、2 月 11 日(土)に初日の幕を開ける『博士の愛した数式』の原作者である小川洋子さんと、同作の演出家・加藤拓也さんを迎えた講座を行った。松本の町とのご縁から始まり、舞台『博士の愛した数式』創作の様子、創作上大切にしていることなど、ここでしか聞けない話題満載の90分。その濃縮版をお届けします。
この日のレクチャーは小ホールで開催。ほぼ満員の客席には、舞台芸術に関心を持つ方だけでなく、小説家・小川洋子のファンも多いだろうことを感じさせる熱気が満ちている。
登壇したお二人はまず、松本とのご縁で話の口火を切った。
加藤拓也さんは松本で行ったワークショップや、遡ってまつもと市民芸術館総監督の串田和美さんを俳優として迎えた創作についてのエピソードを披露。一方の小川さんは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のツアー最終公演を当館で観劇するために21年秋に訪れたのが初の松本来訪とのこと。加藤さんは現在、松本に滞在しつつ『博士~』の稽古をしており、その疲れを癒すスーパー銭湯のサウナの魅力を熱弁して小川さんと客席の笑いを引き出し、小川さんは今回の訪問で歩いた町の、あちこちに『博士~』のポスターが貼ってあることの嬉しさも語った。
続けて「演劇との出会い」について。
小川さんは「仕事と子育てに追われる日々に一区切りついた最近、演劇に出会い直し劇場通いが始まった」という。そこで出会ったミュージカルの魅力、俳優の生身が目の前で躍動し、その磨き上げられた声と歌に高揚することで「生きている実感」を取り戻せるのだ、と明かした。執筆中、自身の思考と心に深く向き合う孤独な作業をしていても、登場人物たちの語る「声」を脳内でイメージし、それに耳を傾け導かれるように筆を動かすというエピソードも披露。また“推し”俳優の魅力についてアツくプレゼンする一方、演劇を観る機会が増えて以来、「(自身の)小説の中で、登場人物の声や喋り方についてより詳しく書くようになった」とも語った。
加藤さんは「10代後半、イタリアで映像を学んで帰国した後に知り合った仲間たちに演劇関係者が多く、自然と演劇が身近になった」とのこと。「映像と演劇。創作の比重に大きな違いは感じておらず、それぞれの表現に向いていると思う題材や、アイデアによってどちらかを選んでいます」と続けた。
自身の小説が舞台や映画など、他のメディアに生まれ変わることについて小川さんは、「ありがたいの一言に尽きる。わが子が、親の思いも寄らない世界に飛び込んで色々な波に揉まれ、成長していく感覚で、自分の手の届かないところまで旅しているよう」と喜ぶ。過去にそうした作品を観た際には、「舞台化と映像化のどちらも、作家が小説には書かないところ、登場人物の着ている服や使っている食器や小物、住んでいる部屋の間取りなど、全て目に見えるようにしてしまう。小説を上演台本やシナリオにするということは、作家以上にその小説に深く潜り、いろいろなものを拾って来ないとできない作業だと感じた」と続けた。
加藤さんは2015年、自身の劇団た組公演と今回とで、『博士~』の舞台化に回を重ねて取り組んでいる。小説との出会いは「知人の制作の方に勧められ、小川さんの小説で初めて手にしたのが『博士~』だった。小川さんが今仰った、作家が“書いていることと敢えて書かないこと”のバランスや、そのための言葉のチョイスがすごく素敵だし、美しいものと同じくらい、その(美しいものと)対岸にあるものを作中で肯定していると感じた。演劇でも映画でもどんな表現の作品においても、“存在を肯定する”というのが僕にとって非常に大切なことで、小川さんの小説にはそんな“肯定”が多く散りばめられている。小説と演劇で、その“肯定”が共振するような舞台にしたい」と語った。
対話は互いの創作についての裏話や、実は二人が共に深い関りを持つ「野球」の話題など多岐に亘って広がり、90分はあっという間に過ぎていった。中盤以降には、佳境を迎えた稽古の様子や、加藤さんが感じる作中の博士と演じる串田さんに重なるもの、『博士~』が小川さんにもたらした不思議な出会いと巡り合わせ、今回上演のための演出意図などについても触れ、時には「ここだけの話にしてください」と参加者に求めるほどの蔵出しエピソードが続出。『博士~』に限らず、今後の小川、加藤両氏の作品を、さらに深く楽しめるようになるキーワードを参加者に贈るレクチャーとなった。
Text:尾上そら
<公演概要>
『博士の愛した数式』
原作:小川洋子『博士の愛した数式』(新潮文庫刊)
脚本・演出:加藤拓也
音楽・演奏:谷川正憲(UNCHAIN)
出演:串田和美 安藤聖 井上小百合 近藤隼 草光純太 増子倭文江
【松本】
日程:2023年2月11日(土)~16日(木)
場所:まつもと市民芸術館小ホール
【東京】
日程:2023年2月19日(日)~26日(日)
場所:東京芸術劇場シアターウエスト
※松本、東京共に当日券若干枚数あり。
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団
後援:松本市、松本市教育委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場(東京公演のみ)
企画制作:まつもと市民芸術館
公式サイト:https://www.mpac.jp/event/38370/
お問い合わせ :
まつもと市民芸術館チケットセンター(10:00~18:00)
TEL:0263-33-2200 FAX:0263-33-3830 https://www.mpac.jp/
登壇したお二人はまず、松本とのご縁で話の口火を切った。
加藤拓也さんは松本で行ったワークショップや、遡ってまつもと市民芸術館総監督の串田和美さんを俳優として迎えた創作についてのエピソードを披露。一方の小川さんは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のツアー最終公演を当館で観劇するために21年秋に訪れたのが初の松本来訪とのこと。加藤さんは現在、松本に滞在しつつ『博士~』の稽古をしており、その疲れを癒すスーパー銭湯のサウナの魅力を熱弁して小川さんと客席の笑いを引き出し、小川さんは今回の訪問で歩いた町の、あちこちに『博士~』のポスターが貼ってあることの嬉しさも語った。
続けて「演劇との出会い」について。
小川さんは「仕事と子育てに追われる日々に一区切りついた最近、演劇に出会い直し劇場通いが始まった」という。そこで出会ったミュージカルの魅力、俳優の生身が目の前で躍動し、その磨き上げられた声と歌に高揚することで「生きている実感」を取り戻せるのだ、と明かした。執筆中、自身の思考と心に深く向き合う孤独な作業をしていても、登場人物たちの語る「声」を脳内でイメージし、それに耳を傾け導かれるように筆を動かすというエピソードも披露。また“推し”俳優の魅力についてアツくプレゼンする一方、演劇を観る機会が増えて以来、「(自身の)小説の中で、登場人物の声や喋り方についてより詳しく書くようになった」とも語った。
加藤さんは「10代後半、イタリアで映像を学んで帰国した後に知り合った仲間たちに演劇関係者が多く、自然と演劇が身近になった」とのこと。「映像と演劇。創作の比重に大きな違いは感じておらず、それぞれの表現に向いていると思う題材や、アイデアによってどちらかを選んでいます」と続けた。
自身の小説が舞台や映画など、他のメディアに生まれ変わることについて小川さんは、「ありがたいの一言に尽きる。わが子が、親の思いも寄らない世界に飛び込んで色々な波に揉まれ、成長していく感覚で、自分の手の届かないところまで旅しているよう」と喜ぶ。過去にそうした作品を観た際には、「舞台化と映像化のどちらも、作家が小説には書かないところ、登場人物の着ている服や使っている食器や小物、住んでいる部屋の間取りなど、全て目に見えるようにしてしまう。小説を上演台本やシナリオにするということは、作家以上にその小説に深く潜り、いろいろなものを拾って来ないとできない作業だと感じた」と続けた。
加藤さんは2015年、自身の劇団た組公演と今回とで、『博士~』の舞台化に回を重ねて取り組んでいる。小説との出会いは「知人の制作の方に勧められ、小川さんの小説で初めて手にしたのが『博士~』だった。小川さんが今仰った、作家が“書いていることと敢えて書かないこと”のバランスや、そのための言葉のチョイスがすごく素敵だし、美しいものと同じくらい、その(美しいものと)対岸にあるものを作中で肯定していると感じた。演劇でも映画でもどんな表現の作品においても、“存在を肯定する”というのが僕にとって非常に大切なことで、小川さんの小説にはそんな“肯定”が多く散りばめられている。小説と演劇で、その“肯定”が共振するような舞台にしたい」と語った。
対話は互いの創作についての裏話や、実は二人が共に深い関りを持つ「野球」の話題など多岐に亘って広がり、90分はあっという間に過ぎていった。中盤以降には、佳境を迎えた稽古の様子や、加藤さんが感じる作中の博士と演じる串田さんに重なるもの、『博士~』が小川さんにもたらした不思議な出会いと巡り合わせ、今回上演のための演出意図などについても触れ、時には「ここだけの話にしてください」と参加者に求めるほどの蔵出しエピソードが続出。『博士~』に限らず、今後の小川、加藤両氏の作品を、さらに深く楽しめるようになるキーワードを参加者に贈るレクチャーとなった。
Text:尾上そら
<公演概要>
『博士の愛した数式』
原作:小川洋子『博士の愛した数式』(新潮文庫刊)
脚本・演出:加藤拓也
音楽・演奏:谷川正憲(UNCHAIN)
出演:串田和美 安藤聖 井上小百合 近藤隼 草光純太 増子倭文江
【松本】
日程:2023年2月11日(土)~16日(木)
場所:まつもと市民芸術館小ホール
【東京】
日程:2023年2月19日(日)~26日(日)
場所:東京芸術劇場シアターウエスト
※松本、東京共に当日券若干枚数あり。
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団
後援:松本市、松本市教育委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場(東京公演のみ)
企画制作:まつもと市民芸術館
公式サイト:https://www.mpac.jp/event/38370/
お問い合わせ :
まつもと市民芸術館チケットセンター(10:00~18:00)
TEL:0263-33-2200 FAX:0263-33-3830 https://www.mpac.jp/
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