今、落語が熱い! 落語界を題材にしたアニメ「あかね噺」が話題を集め、国民的人気番組「笑点」が放送60周年を迎えた。そんな中、「落語の殿堂」新宿末広亭に1年間通い詰めた演芸評論家、渾身の記録。

株式会社朝日新聞出版

長井好弘著『新宿末広亭 令和の定点観測―全七十三興行通い詰め』が、2026年6月19日(金)、朝日新聞出版より発売されました。江戸以来の演芸の伝統を伝える末広亭は、10日ごとにプログラムが替わります。昼の部と夜の部があるから1か月で6番組。1月の最初の10日だけは3部構成なので、合計すれば1年間で73番組。高座の数にして1232本。本書は、これらを2024年10月から25年9月にかけて見続けた、演芸評論家・長井好弘氏の記録です。快挙なのか、暴挙なのか? 全部見たからわかるディープな楽しみ方と、通い詰めたから目撃できた珍プレー・好プレーが満載です。さらに、初心者も安心な、末広亭のことがよくわかるコラム、マニア垂涎の貴重な写真も掲載しています。超初心者もマニアも楽しめる、寄席通いガイドブックです。

大ネタ「文七元結」、今一番しっくりくるのは春風亭一之輔

1232高座の中でも特に印象的だった落語の一つが、2024年10月28日夜の部に聞いた、春風亭一之輔師匠「文七元結」。以下は、その時の記録です。

主任の一之輔は、いつものようにやる気があるのだか、ないのだか。客席からその表情を読み取るのは至難の業だ。

「私でおしまい。あと何もありません。今日は流れ解散で、明日また同じ時刻に集合ということで」

こんなことを言いながら、我々観客をいきなり本所達磨横丁の裏長屋に呼び込んだ。そして「文七元結(ぶんしちもっとい)」が始まった。数ある落語の中でも屈指の大ネタと言われるが、一之輔は特段に気負いも力みも見せず、いつもの柔らかな口調で淡々と語り出す。主人公の左官の長兵衛親方も構えず、気取らず、自然な言葉で話している。

「私もおとっつぁんの塗った壁、大好きよ。待ってます」と泣くのは、借金のかたに吉原に置かれる娘のお久。

「てめぇ! 死んだらブッ殺す!」と、頑なに死ぬことばかり考える文七を怒鳴り、諭す長兵衛。

「生きてたか。よかったー。心配してたんだァ!」と翌朝の無事の再会を心の底から喜ぶ長兵衛。

印象に残る、というか、心に直接響いてくるセリフがいくつもある。

どこか他所にも同じことを書いたが、今の時点で僕が最もしっくりくる「文七」がこの一之輔版なのだと、再確認した。

寄席のアーチスト育さんに、一之輔の「文七」を描いてほしいなと思いながら、帰途についた。

客席を巻き込んだ「べ瓶(べ)騒動」とは?

寄席は毎日開催している、いわば「生もの」。それだけに、想像もつかない事態に遭遇することもあります。2025年7月2日の夜の部では、笑福亭べ瓶(べ)師匠が遅刻してしまうという珍事に遭遇しました。その時の様子を見てみましょう。

次の出番は、あれれ、上方落語のべ瓶ではなく、講談の阿久鯉が出てきた。

「私、(この出番は)違うでしょ。10分前に楽屋に入ったら、(本来の出番の)べ瓶さんが来てないんです。前座さんが『阿久鯉先生、お願いします』と。私、早く来てよかったです。実は、途中で伊勢丹に寄る予定だったのに、誰かが呼んでるような気がして、寄らずに楽屋へ来たんですよ。実はたった今、べ瓶さんが来たんですけど、汗だくで、とても皆さんの前に出られる状態じゃないんです」

阿久鯉によると、講談師の収入は、NHKの大河ドラマが何を取り上げるかで大きく違うらしい。「鎌倉殿の13人」「どうする家康」の時は良かったけど、「光る君へ」で枯渇した。平安時代の講談って、ないんですよ。今年は「蔦重」。江戸時代だから大丈夫と。

「来年は秀吉の弟が主役という珍しい設定ですが、戦国時代ですからね、任せなさい!」ということで、軽やかに「太閤記」を読む阿久鯉。藤吉郎時代の秀吉は滑稽みが強いのだが、阿久鯉は結構、二の線で読んでいた。

できたくんが発泡スチロールを切りながら、〝べ瓶事件〞のその後を話し始めた。

「べ瓶さん、またどこかへ行きました。『阿久鯉先生に何か(お礼を)あげないと』って。まだ帰ってきません」

「ねづっちの後に出るのは嫌ですね。ねづっちの謎かけと同じ注文が来るんです。だから今日も、べ瓶、伯山、彰義隊まで練習したのに、そういうリクエストが来ない〜」

「発泡スチロールで作るメガネのキットを200作ったら、完売しました。僕の夢は、その発泡スチロール製メガネをつけた人が寄席に見にきてくれて、そういう人で会場いっぱいにすることなんですが、(会場を見渡し)どこかにいるかなと思ったら、2列目に、お一人いましたー!」 

できたくんと同じメガネをかけた女性が、立っておじぎする。客席はもちろん拍手喝采だ。

円馬の「壺算」にも、べ瓶の話題が登場した。

「水瓶を買って帰っていくお客さんの後ろ姿を見ても、『商売をしたなあ』という満足感が得られない。寄席にべ瓶を見に行ったのに、なかなか出てこないような(場内爆笑)」

阿久鯉、できたくん、円馬と、立て続けにいじられた後だったので、べ瓶が高座に現れるや、ものすごい拍手と笑い声が場内に響き渡った。

「伊勢丹で(阿久鯉のために)ハーブティー買ってきました(爆笑)。家で子供を抱っこしながら『イカゲーム3』を見てたんですよ。そしたら前座さんから電話かかってきて『師匠、今どこにいらっしゃるんですか』『家にいるけど』『5時15分上がりですよ!』『うわあ、間に合わない!』って。これ、言わなきゃわからないですけど、(襟を広げて)長襦袢、忘れたんです。これは肌襦袢ですよ!」

失敗を取り返そうというのか、べ瓶は「当社比200%」ぐらいのハイテンションで「読書の時間」を演じ切った。もちろん、大ウケである。

『新宿末広亭 令和の定点観測』

著者:長井好弘

定価:3300円(本体3000円+税10%)

発売日:2026年6月19日(金曜日)

体裁:424ページ、四六判

https://www.amazon.co.jp/dp/4022521430

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業種
情報通信
本社所在地
東京都中央区築地5-3-2
電話番号
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代表者名
圓満 亮太
上場
未上場
資本金
8000万円
設立
2008年04月