日米合作ブロードウェイミュージカル『RENT』開幕。初日カーテンコールにはオリジナル版演出のマイケル・グライフが駆けつけ祝福。
山本耕史、クリスタル ケイ、そしてブロードウェイで活躍するキャストたちが送る日米合作『RENT』。8月21日の初日を観た(東急シアターオーブ)。今回は、マイケル・グライフの初演版演出に基づき、ブロードウェイ公演でマークを演じたこともあるトレイ・エレットが演出を担当している。
主人公の一人、映像作家志望のマーク役に扮するのは山本耕史。1998年の日本初演でも同じ役を演じているが、今回は全編英語での上演に挑戦。この青春群像劇の物語をナレーター的存在として少し俯瞰して見ているところのあるマーク役として、マークを演じた若き日の自分をも俯瞰して見ているような、奥行きの深い演技を見せる。デュエットにおいて共に歌う相手のエネルギーを引き出し、自分のエネルギーと巧みにブレンドさせるところが心地よく、序盤の表題曲「RENT」でのロジャー役のアレックス・ボニエロの掛け合いからまずはスパーク。自分の彼女モーリーン(クリスタル ケイ)を奪った相手であるジョアン(リアン・アントニオ)と歌い踊る「Tango: Maureen」では、身のこなしも軽やかに、軽妙なユーモアセンスを発揮。「What You Own」でも、ロジャー役のボニエロと二人、今を生きる者の魂の叫びを炸裂させた。
元人気ロックバンドのヴォーカルであるロジャー役のアレックス・ボニエロは、ブロードウェイの『ディア・エヴァン・ハンセン』でコナー役を800回近く演じたという経験があり、ソングライターとしても活躍している。甘くさわやかな歌声の持ち主で、「One Song Glory」での、自身で作った繭にこもり、その中の壁に対して声を発し返ってくる木霊を虚しく聞いているような孤独、そして、それでも世界に向かって心を解き放ちたい自分との間で揺れる葛藤の表現がすばらしい。ミミ(チャベリー・ポンセ)との愛のデュエットも実にロマンティックで、原作であるオペラ『ラ・ボエーム』の世界につながる作品の楽曲の魅力を大いに聴かせた。
パフォーミング・アーティストのモーリーンを演じるのはクリスタル ケイ。「Over The Moon」でのおもしろパフォーマンスには身のこなしから素っ頓狂なユーモアがにじみ、笑いを誘う。モーリーンとその恋人ジョアンが痴話げんかのようにデュエットする「Take Me Or Leave Me」では、アントニオと二人、さわやかに艶めかしい色気を見せた。
ロジャーと恋に落ちるミミ役のチャベリー・ポンセはとてもキュート。「Out Tonight」の歌とダンスでは、飼い慣らされていないオオカミが月に向かって吠えるかのような野性味、そして作品の書かれたころに活躍していた女性ロックンローラーたちに通じる魅力を発揮する。ロジャーに体当たりで命をぶつける熱演ぶりだった。
エンジェル役のジョーダン・ドブソンは、エンジェルという名で慈愛にあふれたこのキャラクターの、それでも人間としてもつのであろうさまざまな葛藤にも目を向けて演じようとする姿が印象的。「Today 4 U」での軽やかな跳躍や色っぽさ、エンジェルの個性的なファッションを次々と着こなして登場する姿もインパクト大。エンジェルの恋人トム・コリンズ役のアーロン・アーネル・ハリントンは、エンジェルの死の後の「I’ll Cover You(Reprise)」で、聴く者すべてを抱きしめるような深い歌声を聴かせてくれた。主人公たちのかつてのルームメイトで、今は彼らの大家となり、対立関係にあるベニー役を演じるアーロン・ジェームズ・マッケンジーは、悪役的存在にも見えるこの役柄が物語の進行上もつ重要性をきっちりと踏まえた役作りで魅了した。アンサンブルも高い歌唱力の持ち主揃いであることも非常に魅力的。
『RENT』が初演されたのは1996年。それから30年近く時が流れたが、作品のテーマがいまだ色あせず、楽曲の力も非常にパワフルであることを感じさせるプロダクションとなっている。作詞・作曲・脚本を手がけたジョナサン・ラーソンが、シンプルな言葉と音の響きを巧みに駆使し、「今この時を生きよう」と呼びかけてくる声、そして、彼がこの物語の中に見事に描き出した、同時代を共に生きた人々の声があざやかに聞こえてくるかのようだ。名曲として名高い「Seasons Of Love」では、キャストたちの思いのこもった歌唱もあり、作者自身の魂を近くに感じるような思いがした。
キャストが舞台に登場した瞬間から「待ってました!」という感じに起こった拍手が鳴り止まず、なかなかセリフが始められないほど、客席の期待も高まっていた初日の舞台。ナンバーごとに熱い拍手と声援が送られる。カーテンコールでは、演出のトレイ・エレット、ブロードウェイ初演にも参加している衣裳デザインのアンジェラ・ウェント、そしてブロードウェイ初演の演出家であるマイケル・グライフがサプライズで登場。グライフが一人一人とハグを交わす姿が印象に残った。最後はステージ上、そして客席全員で手拍子しながら「Seasons Of Love」を歌う、感動的な夜となった。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
撮影=宮川舞子
日米合作 ブロードウェイミュージカル『RENT』
脚本・作曲・作詞:ジョナサン・ラーソン
演出:トレイ・エレット 初演版演出:マイケル・グライフ
振付:ミリ・パーク 初演版振付:マーリス・ヤービィ 音楽監督:キャサリン・A・ウォーカー
出演:山本耕史、Alex Boniello、Crystal Kay、Chabely Ponce、Jordan Dobson、Aaron A. Harrington、Leanne Antonio、Aaron James McKenzie ほか
※全編英語上演(日本語字幕あり)
<東京公演>
2024年8月21日(水)〜9月8日(日)合計23公演
会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11F) https://theatre-orb.com
<大阪公演>
2024年9月11日(水)〜9月15日(日)合計7公演
会場:SkyシアターMBS (JPタワー大阪6F) https://stm-mle.jp
【チケット料金(税込・全席指定)】
S席16,500円、A席12,500円、B席9,500円、エンジェルシート8,000円
*エンジェルシート販売方法は公式ホームページをご確認ください。
*注意事項は公式HPをご確認ください。
公式HP=https://rent2024.jp
【お問い合わせ】
<東京公演>キョードー東京 0570-550-799(平日11:00-18:00/土日祝10:00-18:00)
<大阪公演>梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00~18:00)
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