資生堂、美白有効成分4MSKの皮ふ浸透性を高める「4MSK/フリュイド浸透促進技術」を開発
資生堂は、独自開発の美白有効成分4MSK(4-メトキシサリチル酸カリウム塩)※1 の皮ふ浸透性を高める「4MSK/フリュイド浸透促進技術」を開発しました。この技術は、常温で固体の4MSKを他の成分と組み合わせることで液体化し、肌に塗布した後も液体(フリュイド)状態を持続させる画期的な技術です(図1)。この技術により4MSKの皮ふへの浸透量が増加し、美白効果が高まることを確認しています。なお、本研究の成果の一部は「第32回国際化粧品技術者会連盟(IFSCC※2)ロンドン大会」(2022/9/19-22)にて発表、その後IFSCCマガジン(2023)へ寄稿した論文※3 は、若手研究員に贈られる Henry Maso Award for 2024を受賞しました。今後は今回開発した新たな浸透促進技術を応用し、浸透性に優れ、高機能で安全・安心なスキンケア製品を開発していきます。
※1 メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ効能効果を持つ医薬部外品の有効成分として2003年に厚生労働省(当時)から許可された成分
※2 IFSCC; The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists
※3 A. Okishima, T. Okamoto et. al.,IFSCC Magazine, 26 (1)71-75 (2023) IFSCC
《研究背景》
当社は、生活者の「明るい肌」への憧れに向き合うべく、1990年代より美白有効成分を次々と開発し、配合した製品を数多く世に送り出してきました。しかし近年、美容医療市場が拡大するなど、明るい肌を叶える手段が多様化する中、安全でさらに効果の高い美白化粧品、医薬部外品の開発のためには美白有効成分の浸透を高める技術の強化が課題であると考えました。
《「イオン液体」に着想 》
この課題に取り組むべく、近年化学の分野で注目される「イオン液体」に着目しました。イオン液体は融点(固体が融解し液体になるときの温度)の高いイオン性の物質同士を組み合わせることで、元の物質の融点より低い温度で液体になる新しいタイプの液体です(図2)。私たちは、常温で固体の4MSKを他の物質と組み合わせイオン液体化ができれば、肌上でも液体の性質を持続させることが可能になると考えました。そこで、4MSKと組み合わせることで液体化する物質の探索を進めることにしました。
《トリメチルグリシンと組み合わせることで実現した「4MSK/フリュイド浸透促進技術」》
4MSKと組み合わせる物質やその組成の検証を100通り以上で行いました。その結果、保湿成分トリメチルグリシンを最適な配合比率で組み合わせることで4MSKが液体化することを見出しました(図3)。この配合比率で2つの成分を基剤に配合すると、4MSK単独で基剤に配合する場合と比べ、4MSKが皮ふへ約2倍浸透することを確認しました(図4)。基剤中の4MSKが液体状態を保った結果だと言えます。私たちは4MSKの皮ふ浸透性を高めるこの技術を「4MSK/フリュイド浸透促進技術」と名付けました。
《メラニン生成抑制に高い効果》
「4MSK/フリュイド浸透促進技術」の効果を3次元培養皮ふモデルで検証した結果、4MSKのメラニン生成抑制効果を高める効果があることが分かりました(図5)。また4MSKにはメラニンが蓄積した角層の剥離を促進する効果がありますが、この技術を用いることで、その効果を高める可能性があることも示唆されました。
<参考情報:4MSK/フリュイド浸透促進技術を搭載したプロトタイプ基剤の人の肌での検証結果>
《シミや肌の明るさに顕著な改善効果 》
「4MSK/フリュイド浸透促進技術」を搭載した新プロトタイプ基剤では、従来どおり4MSKを配合したプロトタイプ基剤と比較し、シミの数が12週で1.8倍減少しました(図6)。肌の明るさも12週で1.9倍改善しました(図7)。
R&D戦略について:
本研究はR&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、高い効果をもたらす薬剤開発を担うライフサイエンス領域と、製品の使用性や使いやすさなどお客さまの付加価値向上を目指すマテリアルサイエンスを融合し、機能性と安全・安心を高いレベルで追及しながら研究が進められました。
・2023 年統合レポート(ビューティーイノベーション)
https://corp.shiseido.com/report/jp/2023/message/cmio/?rt_pr=trr96
・キーワード
Skin Beauty INNOVATION、スキンケア、浸透
《参照》
ニュースリリース
(1)資生堂、薬剤の皮膚浸透を劇的に向上する新規導入促進成分を開発(2022)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003496&rt_pr=trr96
《研究員たちの挑戦》
有効成分の中には、優れた効果を期待できるにも関わらず、皮ふへの浸透が困難なものが存在します。これまで私たちはそれらの浸透性を向上させるため、様々なアプローチをしてきました。
しかし、それらには有効成分本来の機能を損なうリスクや、肌のバリア機能への影響などの懸念があり、満足できるアプローチ方法ではありませんでした。 今回、当社は元々ある物質を精密に組み合わせることにより、その分子構造を変えず、かつ肌のバリア機能を維持しながら、より効率的に肌に浸透させる革新的な技術を確立することができました。
この発見は、有効成分の構造安定性と肌への浸透の両立という観点からも、今後の化粧品開発に新たな可能性を広げる重要な進展です。これからも、安全性と有効性を両立させ、生活者の期待を超える技術開発にチャレンジしていきます。
▼ ニュースリリース
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003957&rt_pr=trr96
▼ 資生堂 企業情報
すべての画像