「PEPジャーナリズム大賞2021」受賞記事を発表
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(所在地:東京都港区、理事長:船橋洋一)は、本日、PEPジャーナリズム大賞2021の受賞記事を発表しました。
PEPジャーナリズム大賞とは、インターネット上に掲載された報道記事・コラム等のうち、特に優れたものを表彰するものです。第1回目となる今回は、2020年4月1日から2021年3月31日までの間に、インターネット上に公表された日本語の記事(同じテーマの企画・連載は1つとみなす)を選考の対象としました。
(募集の詳細はこちら:https://apinitiative.org/2021/02/22/16753/)
受賞記事の選定にあたっては、応募・推薦のあった73記事の中から、選考委員会が厳正に審査を行い、PEPジャーナリズム大賞、「現場」部門、「オピニオン」部門、ならびに、特別賞について、それぞれの受賞記事を決定しました。受賞記事は以下の通りです。
なお、授賞理由や受賞者略歴、授賞式の模様は、PEPジャーナリズム大賞2021特設ウェブサイトでご覧いただけます。
URL:https://peplatform.org/jaward/2021/
【受賞記事】
1. PEPジャーナリズム大賞 (賞金:150万円)
『「自粛警察」の正体──小市民が弾圧者に変わるとき』
受賞者氏名:石戸諭
発表媒体名:文藝春秋digital
受賞者コメント:
私が「川を渡る」と密かに名付けている仕事があります。受賞作もその一つです。多くの問題で意見が異なり、少なくとも私が暮らしている限りにおいてはおそらく接点が生まれそうにない人々に川を渡って会いにいき、彼らの「側」から見える社会を取材し、描きたい……。インターネットの世界はしばしば、二極化します。しかし、現実の世界は二つの極で描けるような単純なものではありません。複雑な事象を複雑なまま描き、しかも雑誌を手に取り、インターネットの世界にいる広範な読者に届けるためにどうしたらいいか。私の試行錯誤を評価していただいたことを喜びたいと思います。ありがとうございました。
2. 「現場」部門(賞金:30万円)
『その8年間は毎日不安だった ――「無国籍児」だった娘と、フィリピン人母の思い』
受賞者氏名:藤井誠二
発表媒体名:Yahoo! ニュース
受賞者コメント:
今回はたいへん名誉ある賞をいただき、ありがとうございました。私がいちばん感謝しなくてはならないのは、この記事の主人公の三木幸美さんやお母さま、コメントやサゼッションをいただいた皆様です。今回の取材は「取材対象者」がいちばん驚いたのではないかと思います。本人は子ども期の一定時期「無国籍」状態にあったと思い込んで生きてきたのに、たまたま取材によって、じつは本人には内緒で母親が外国で国籍を取得していたということがわかったからです。取材行為は「生き物」だと思います。想定外の転がり方や展開をします。それがノンフィクションの取材の醍醐味であり、それに身をまかせて取材者も学んでいくのだと思います。
3. 「オピニオン」 部門(賞金:30万円)
『流産あるあるすごく言いたい』
受賞者氏名:吉川トリコ
発表媒体名:考える人
受賞者コメント:
ジャーナリズムという言葉の意味さえよくわかっていない私のような人間のもとに受賞の報せが舞い込んできて、率直に驚きました。ごく個人的な体験を綴った「軽い読みもの」にも、ジャーナリズムの力が宿るのだと認められたような気がしています。インターネットメディアの危険性や質の低さなど問題点ばかり取り沙汰されておりますが、インターネット上にもすぐれた媒体や素晴らしい書き手が多数存在すること――中でも「軽い読みもの」とされるものに光をあて、正当に評価するこのような賞の設立を心から嬉しく思います。
4. 特別賞(2記事、賞金:各20万円)
キッズライン事件を巡る一連の報道
受賞者氏名:中野円佳
発表媒体名:Business Insider Japan他
受賞者コメント:
今回の報道は被害者や元関係者らの告発があってこそのもので、勇気を出して連絡してきてくださった方々に改めて御礼申し上げます。当初マスコミが注目しない中でSNS等で発せられた声を遠隔で取材した結果、当該企業の改善を促しただけではなく、国の専門会議が立ち上がり制度を動かすまでに至りました。直接企業に訴えて取り合ってもらえなくても、このようにジャーナリズムを通じて企業や国、社会が動くということを読者の方々に実感してもらえていたら光栄です。日本の保育政策やサービスには依然として課題が残りますが、政策や企業活動を監視することもジャーナリズムの重要な役割。そのような観点を評価していただけたのであれば嬉しいです。
後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道
受賞者氏名:奥山俊宏
発表媒体名:朝日新聞digital、論座
受賞者コメント:
事件・事故など同時代のできごとの証拠や証言を整理し、文書化して束ねたのが訴訟記録です。裁判の素材となるだけでなく、それは様々な人や組織の営み、時代や世相を映し、貴重な史料になりえます。しかし従来その多くが廃棄されていました。
法曹界の誰もが知る著名な訴訟の記録、後世に引き継ぐべき重大事件の記録も、廃棄された中に含まれていました。未来の日本人にとって歴史をたどる最良の手がかりが失われつつあったのです。
この取材を始めたのは、弁護士、研究者、報道実務家の皆様との研究会での議論によって問題意識を触発されたからです。このような地味なテーマの報道を見い出してくださった選考委員の先生方とともに感謝を捧げます。
【選考委員長 林香里・東京大学大学院情報学環教授のコメント】
PEPジャーナリズム大賞は、インターネット空間において、多様にして包容力と活力のある自由主義と民主主義を育てるジャーナリズムの醸成を目的として創設されました。今年ははじめての試みで、しかもコロナ禍という行動を制限された環境でしたが、応募作はいずれもジャーナリズムの高みを競う力作揃いでした。ファイナリストも含め、選ばれた受賞作は、私たちが知っているつもりになっていたことを問いただし、日常の風景を見直し、社会変革を駆動するきっかけをつくってくれる、まさに創設の趣旨を反映する作品です。選考委員会は、PEPジャーナリズム大賞を通して、社会に新たな風を呼び込む高い能力をもったジャーナリストたちの作品を広く世の中に知ってもらうとともに、ジャーナリズムの力、およびその未来のあり方を考えていきたいと思います。受賞されたみなさん、おめでとうございます。そして応募してくださったみなさん、ありがとうございました。
【主催者 船橋洋一・一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長のコメント】
市民が公共に参画する上で欠かせない政策起業力を発揮するために、メディアの力は決定的に重要です。多角的な視点を提供するジャーナリズムを、特に次世代を担うインターネットメディアという場所で応援していきたい。そのような想いから「PEPジャーナリズム大賞」を創設しました。初年度は、自薦他薦合わせて73件もの記事について応募を頂き、6月1日に選考委員会を開催致しました。厳正な選考の結果、大賞、現場部門、オピニオン部門に加えて、特別賞2件の5名の受賞者の方々を決定しました。多くのご応募を頂きましたこと、御礼申し上げます。現場を歩き、多くの声をすくい上げ、研究し、そして鋭い考察を様々な手段で発信する。応募作品を通じて、そのような力強いジャーナリズムの担い手が多くいらっしゃることに勇気をもらいました。今後も、私どもの財団のミッションである自由主義、そして政策起業力の探求のため、インターネット上でのジャーナリズムを担う方々を応援して参ります。最後に、本賞は政策起業家プラットフォームPEPプロジェクトの一環として運営しております。PEPにご支援を頂いておりますスポンサーの皆様に感謝を申し上げます。
【選考委員】
林香里 (委員長)東京大学大学院情報学環教授
治部れんげ ジャーナリスト/東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
竹中治堅 政策研究大学院大学教授
西田亮介 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
山脇岳志 スマートニュース メディア研究所 研究主幹
船橋洋一 一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長
【PEPジャーナリズム大賞について】
「PEPジャーナリズム大賞」はインターネット上に掲載された報道記事・コラム等のうち、特に優れたものを表彰するため、2021年に、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが創設しました。
自由で開かれた社会において、市民が公共の事柄に関心を持ち、それに参画するには、確かな情報を伝え、判断材料を提供し、またアジェンダを形成するジャーナリズムの力が決定的に重要です。経済も社会も教育も生活も、そして行政も、デジタル・トランスフォーメーションが進む中、声高な時勢に呑み込まれず、アルゴリズムの専制を許さず、フェイクをはじき返し、当事者への綿密な取材に基づき、的確なデータを踏まえて調査、報道を行い、多角的な視点を提供するジャーナリズムの力がこれまで以上に求められています。インターネット空間の力強いジャーナリズムが、多様にして包容力と活力のある自由主義と民主主義を育てる上で重要な役割を果たすと、私達は信じています。
【PEPについて】
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブは、2019年10月、日本初の政策起業家コミュニティである「PEP(政策起業家プラットフォーム:Policy Entrepreneur’s Platform)」を立ち上げました。公のための課題意識のもと、専門性・現場知・新しい視点を持って課題の政策アジェンダ化に尽力し、その政策の実装に影響力を与える「政策起業家」を支援し、公共政策のプロセスへの国民一人一人の参画を促し、より政策本位の政治熟議を生み出すことを目指しています。
URL: https://peplatform.org/
本件の問い合わせ先:PEP事務局 policy.entrep21@apinitiative.org
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