介護の現場をスマートに。そして誰もが「食」を味わい楽しめる時代へ。『SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT』スタート 世界初の分子調理メソッドによる介護食『にぎらな寿司』を開発
高齢者に好まれる「寿司」をおいしい介護食に。嚥下障害患者個人の嚥下レベルと嗜好性に応じて、寿司ネタが選べる。URL:https://sawarabigroup.jp/happyfood/
医療法人さわらび会/社会福祉法人さわらび会(本社:愛知県豊橋市)は 、「超高齢社会を、超“幸”齢社会に」を目指し、高齢の嚥下障害者が食を楽しめるように介護食を改善する『SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT』をスタートしました。
第一弾として、分子調理メソッドを取り入れた記念日用介護食『にぎらな寿司』を開発いたしました。
第一弾として、分子調理メソッドを取り入れた記念日用介護食『にぎらな寿司』を開発いたしました。
プロジェクト概要
日本は高齢化率27.3%(2017年)となり、世界一の高齢社会を迎えています。国立長寿医療研究センターの調査*1によると、摂食・嚥下障害者の割合は、医療療養、介護療養、老健、特養で 4 割を超えています。また、厚生労働省の調査*2では、嚥下障害者に限らず、入院患者の満足度を項目別に聞くと、「食事の内容」に満足していると答えた割合が、全項目の中で最も少ないという結果になりました。
この問題を解決し、個々のおいしさに向き合った介護食の提供を目指すプロジェクトが『SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT』です。
第一弾として、「料理は科学である」と位置づけ、おいしさの再現性を保つ“分子調理”メソッドを取り入れたレシピを開発しました。高齢者に好まれる寿司を、嚥下障害者でも食べられるように調理した記念日用介護食『にぎらな寿司』です。
ふんわりととろけるような食感の寿司ネタ、ジュレにすることにより口の中でゆっくりと溶ける醤油、香りの残存時間を強調したガリや海苔などは、分子調理メソッドを用い、食材の物性変化を計算して、正確な温度と時間を守って調理されています。日本食の特徴のひとつである“口中調味”(白いご飯とおかずを一緒に食べ、口の中で味付けするなどの食べ方。味の不均一性が食べ飽きないおいしさにつながる)を活かすことで、均一になりがちな通常の介護食とは異なる、より食の喜びを感じられるようになっています。
今後も『SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT』では、「栄養価の高さ」や「食べやすさ」を追い求めるだけではなく、ひとりひとりの「食べたい」という気持ちに向き合い、その人に合わせたおいしい介護食をつくり上げていきます。また、食事を満足して十分に召し上がっていただくことは、適正な栄養摂取することに繋がります。昨今の高齢者の栄養不足ないしは過剰摂取の問題を改善し、予防医療としての価値も期待することができます。
まずは『にぎらな寿司』の知見を活かしながら、通常食の改善を目指します。最終的には『おいしくてパーソナルな介護食』の実現を目標に、高齢者のみなさまに喜んでいただける取り組みを進めてまいります。
*1 出典:独立行政法人国立長寿医療研究センター「摂食嚥下障害に係る調査研究事業報告書 」より
*2 出典:厚生労働省 平成26年受療行動調査 「項目別にみた入院患者の満足度」より
『にぎらな寿司』について
プロジェクトは2017年6月からスタート。そして、11月24日(金)、および3月1日(木)に、高齢者に好まれる寿司をアレンジした『にぎらな寿司』の試食会を開催しました。
レシピは、さわらびグループの統括本部長・山本左近と調理師、介護士などの現場スタッフを中心に、クリニカルフードプロデューサーの多田鐸介氏が開発。分子調理学専門家である宮城大学・石川伸一教授と東北生活文化大学・濟渡久美講師のアドバイスを加えて作成しています。
3月1日(木)につくられた『にぎらな寿司』は、3種類の鮨飯、9種類のネタ、3種類の調味料と薬味が、それぞれやわらかなムース状になっており、スプーンに盛り付けた“にぎらない寿司”であることが特徴です。「ネタの種類」、「量」、「味付け」、「やわらかさ」、「加熱・非加熱」を高齢者の状況に合わせて選択することが可能です。
スプーンに盛り付けることで、箸が持ちにくい方でも食べやすく、口中調味で寿司をしっかり味わっていただけます。また、酢飯やネタの粘度コントロールにより、嚥下障害の度合いに関わらず、幅広い方に召し上がっていただけます。
分子調理メソッドにより、温度や時間などの調理プロセスが綿密に設計されているため、どの調理師でも同様のものをつくり出すことができます。
■2018年3月1日(木)に完成した『にぎらな寿司』
(左上より)ウニと海苔のムース、サーモンムース、ガリのジュレ、イカと海苔のムース、スモークサーモンのムース、マグロのムース
(左下より)かんぴょうと海苔ムース、カニムース、白身魚のムース、シイタケと海苔のムース、マグロと海苔のムース
※わさびムース付き
■2017年11月24日(木)に試作した初期の『にぎらな寿司』
高齢者の試食により、この後に酢飯やネタを、スプーンにのせた形へ変更。
(内容)鮨飯ムース、マグロペースト、ホタテ貝ムース、白身魚のムース、サーモンのムース、甘エビのムース、海老のムース、焼き穴子のムース、玉子焼きのムース、ガリのジュレ、山葵のジュレ、醤油のジュレ、穴子のツメ
『にぎらな寿司』の6つの特徴
1.白麹清酒によるマスキング効果(分子調理メソッド)
魚介類は素材をすりつぶすことで表面積が増え、「生ぐささ」などのイヤな匂いも多くなります。そこで、白麹由来の有機酸を含有する白麹清酒を使用。魚の生ぐささの原因であるトリメチルアミンを中和し、「生ぐささ」を抑制します。
2.酵素によるおかゆの喉越しを改善(分子調理メソッド)
介護食用におかゆを攪拌して固めると、でんぷんの糊化により、べたついた喉越しになります。そのため、攪拌前にでんぷん分解酵素(αアミラーゼ)を含む酵素タブレットを使用することで、おかゆをさらさらのまま固めます。べたつかずにさらりとした食感を実現します。
3.真空調理による調理(分子調理メソッド)
素材を真空状態で調理することで、浸透圧を高め、少ない調味料で均一に味をつけることができます。また、TT管理(正確な温度と時間)が可能なスチームコンベクションオーブンにより、でき上がりを平準化することが可能です。
4.スプーン×口中調味でおいしく食べてもらう工夫
通常の介護食といえば、でき上がった料理をミキサーにかけるミキサー食あるいは刻み食が主流ですが、素材をそれぞれ調理し、スプーンに盛り合わせることで、日本食の特徴でもある口中調味が実現し、よりおいしく食べていただくことができます。
5.香りのものを使うことで食欲を増進させる
わさび、ガリ、海苔などの香りのある素材をポイントとして使用することで、食欲を刺激して、よりおいしく食べていただけるようになります。また、ジュレにすることで、口中で香りの広がり方に時間差をもたらし、より深い「おいしさ」を感じられます。
6.レシピの平準化により、再現性を高める(分子調理メソッド)
生の食材を攪拌する場合、表面温度を測り、10度以下を保つことや、攪拌時間を正確に測る、などレシピを詳細にし、平準化することで、安定した「おいしい料理」を提供することが可能になります。
『分子調理』とは
「料理は科学である」と位置づけ、「おいしい料理を分子レベルで調べる」分子調理学と「分子レベルで調べた原理を応用しておいしい料理をつくる」分子調理法を合わせたものと定義しています。
分子調理の考えを組み入れた開発レシピでは、調理プロセスにおいて温度と時間まで詳細に規定するため、属人的な調理技術に頼ることなく、安定した「おいしい介護食」の提供が可能になります。
実証実験試作レシピ開発メンバー
山本 左近(やまもと さこん)プロジェクトリーダー
医療法人さわらび会/社会福祉法人さわらび会 統括本部長
幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1 パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少 F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。 2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また学校法人さわらび学園を取得し専門学校教育事業を通じて未来の福祉人材の育成をする。
日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。
「『もしかしたら、これが最期の食事になるかもしれない。高齢者の方に、もっとおいしい食事を提供したい』。私には、常にそんな思いがありました。食事は、生きる喜びや幸せに繋がるもの。毎日おいしい食事を召し上がっていただき、幸福な時間を過ごしてほしい。その実現を目指して、このプロジェクトをはじめました」
多田 鐸介(ただ たくすけ) クリニカルフードプロデューサー
1968年生まれ。18歳で渡仏し、「ル・コルドン・ブルー・パリ」で学んだ後、パリのミシュラン星つきのレストランで修行。「ル・コルドン・ブルー・東京」開校とともに帰国、講師に就任。その後、タイユバン・ロブション、パークハイアット東京などを経て、ドイツの厨房機器メーカーにてフードアドバイザーとして7年間勤務。その間、病院食、介護食のコンサルタントとなる。自らのフランス料理店経営を経て、アンチエイジングメニューの開発、病院食、介護食など、アンチエイジングを含む食の総合コンサルタントとして活動。病院や老人ホームの食のコンサルタントとして、高齢者の食べる喜びと健康に大きく貢献している。著書に『新・介護食レシピ』など。
「お年寄りの人が多くなっている昨今。人間は高齢になると、食べたいものが食べられなくなってしまいがちです。特に、嚥下障害になってしまうと尚更です。たとえば、海老フライ、和牛ステーキ、そして今回の寿司。これらを介護食として、おいしく食べられるようにしたいと思います」
石川 伸一(いしかわ しんいち) 分子調理学者・宮城大学 食産業学群 教授
1973年福島県生まれ。東北大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、宮城大学准教授などを経て、現職。博士(農学)。
専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の機能性に関する研究。 著書に、『必ず来る! 大震災を生き抜くための食事学』(主婦の友社)、『料理と科学のおいしい出会い 分子調理が食の常識を変える』(化学同人)、『「もしも」に備える食災害時でも、いつもの食事を』(清流出版)など。
「分子料理・分子調理ラボ」https://www.molecular-cooking-lab.net
「分子調理研究会」副代表 https://www.molcookingsoc.org
「おいしさを最も必要としている分野のひとつは、『介護食』だと思っています。おいしいと唾液が出て、誤嚥の可能性を低くします。よりおいしい料理、より新しい料理に「分子調理」のサイエンス&テクノロジーが活かせればと思います」
濟渡 久美 (さいと くみ)管理栄養士・東北生活文化大学短期大学部 生活文化学科 講師
専門は調理学、栄養教育。「嚥下困難者に適した食事の物性検討」「離乳食の物性検討」などの研究分野で活躍。
「毎日繰り返される栄養補給の手段である「口から食べること」は、QOL(quality of life:生活の質)のより高い生活を送るために重要な要素です。「安全」で「おいしい」食事を「安心」して召し上がっていただくために取り組んでいます」
さわらびグループとは
「さわらびグループ」は、「みんなの力で、みんなの幸せを」を基本理念として活動しています。1962年、現医療法人・社会福祉法人さわらび会理事長の山本孝之が脳卒中患者のリハビリ病院として「山本病院」を開業。その後、日本でいち早く認知症ケアもはじめました。現在は高齢者、身体障がい者、知的障がい者のための施設などを敷地内に創設し、患者さまや利用者さまが自立を目指してリハビリや訓練を受けながら、お互いに助け合って暮らしていく「福祉村」を運営。今後、ますます加速する高齢化を前に、“超幸齢社会”をデザインすることを目指しています。
ウェブサイト:http://www.sawarabi.or.jp/
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