圧倒的な鮮明度で溶接部の可視化を実現

~溶接部可視化技術の開発と次世代3D溶接マスクの構築~

川田テクノロジーズ

川田テクノロジーズ株式会社
川田工業株式会社

■ポイント

l   川田テクノロジーズ(KTI)と川田工業は、SRI International(以下、SRI)と共同で、画像処理により溶接部を可視化するXDR※1溶接部可視化技術(以下、本技術)の開発に成功した。さらに本技術を用い、カメラを使った新しいコンセプトの次世代3D溶接マスク(以下、本装置)を構築。フィルタや液晶により遮光する従来の溶接保護面に比べて圧倒的に広い視野を視認しながら溶接できると同時に、溶接作業者の目線での可視化映像のデータ化を可能にした。

l   この技術では、独自の光学設計による小型カメラユニットが捉えた映像を、GPUでリアルタイム処理してXDR合成映像を生成し、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に表示する。小型化を実現し、かつバッテリで動作するため外部電源が供給できない屋外や狭隘な場所でも利用可能である。本装置を装着することで従来の溶接保護面では視認することが難しかった「生成したビード形状」「部材形状」「作業環境」などを、アーク近傍と同時に、3D映像として明瞭に可視化できる。

l   KTI川田グループは、川田工業が建設・橋梁業界での強みを持つ鋼製厚板部材の独自製作技術を合理的かつ持続可能な形で継承することを目的に本開発プロジェクトを発足、SRIの協力を受けて本技術の開発に至った。今回の開発成果により新規就労者の溶接技能習得期間の大幅な短縮を見込むとともに、溶接技能の継承が効果的に行えることを目指している。また本装置で取得したデータの分析を行い、溶接品質および溶接効率の向上を目指した様々な検証にも取り組んでいく。

l   次世代3D溶接マスクについては今後約1年を目途に実用化に向けた改良を行い、その後川田工業内での溶接の技能ノウハウに関する教育に活用する。KTI川田グループ全体としては、開発の過程で得られる知見や要素技術を、新たな技術開発および製品展開に応用していく。



■SRI International President Manish Kothari氏より寄せられたコメント

“SRIは、革新的なテクノロジーを市場にもたらしてきた長い歴史があります。KTI川田グループの溶接に関する深い洞察を基にして、溶接技術を強化する最先端のシステムを共に開発できることを非常に喜ばしく思っています。私たちの次世代の溶接マスクは、画像処理によってリアルタイムで溶接作業者の視界をより鮮明にし、さらに、新規就業者に対しては長年の経験と同等の支援をもたらします。”

 

開発した次世代3D溶接マスク(マスク部のみ)開発した次世代3D溶接マスク(マスク部のみ)

 

 

XDR溶接部可視化技術による溶接作業の撮影画像XDR溶接部可視化技術による溶接作業の撮影画像

 

※1: eXtreme Dynamic Range の略。取り扱うことのできる明るさの範囲が極めて広いことを意味する。


■概要

川田テクノロジーズ(東証一部3443、本社:富山県南砺市、代表取締役社長 川田 忠裕)と川田工業(本社:富山県南砺市、代表取締役社長 川田 忠裕)は、SRI International(本社:アメリカ合衆国カリフォルニア州メンローパーク市、 CEO William Jeffrey)と共同で、アーク発光中の溶接部を可視化するXDR溶接部可視化技術(本技術)の開発に成功しました。一般的な小型カメラモジュールを使って、アークによる強い閃光を伴う溶接部と、それに比較して非常に暗い周辺部とを、すべて白トビ※2なく同時に捉えることができます。

さらに、本技術を用い、カメラを使った新しいコンセプトの次世代3D溶接マスク(本装置)を構築しました。圧倒的に広い視野で立体的に周囲の状況を確認できることで、確実な溶接作業が行えるだけでなく、技能の早期向上が期待されます。

今後は川田工業内での現場実証を進め、溶接の技能ノウハウに関する教育に活用するとともに、開発の過程で得られる知見や要素技術のフィードバックを行い、品質向上や新たな技術開発および製品展開に応用してまいります。

 

■背景・目的

川田工業が建設・橋梁業界で強みを持つ鋼製厚板部材の製作技術は、様々な熟練技能者の手により支えられています。中でも重要な工程である溶接工程には、経験に基づいたノウハウや高度な技能が作業者に求められます。

鋼材同士を溶接する際には、目に有害な影響を与えるUV光を含む極めてエネルギーの高い閃光(アーク)が生じるため、通常は遮光フィルタを用いた溶接保護面で作業者の目をアークから保護します。この遮光フィルタは可視光をほとんど通さないため作業者の視界は暗く、視認できるのはアーク近傍のごく狭い範囲に限られます。溶接技能者が技術を習得するのに多大な年月を要する理由の一つには、このような溶接作業の特性があります。

KTI川田グループは、将来にわたって安定して溶接技能者を育成するために、技術を合理的にかつ持続可能な形で継承すること、および溶接技術を早期習得することを目的に、画像処理技術開発において世界最高水準の技術を有するSRIの協力を得て、XDR技術を用いた次世代の溶接マスクの開発を進めました。

 

■開発した技術の概要

≪従来技術とその課題≫

溶接はアークによる強力な閃光を伴うため、周囲との間に大きな明暗差が生じます。カメラで撮影する場合、一般的なイメージセンサが撮像できる光の明るさの範囲を大きく超えてしまうため、たとえばアーク近傍に露出を合わせると周辺は真っ暗になり、反対に周辺部に露出を合わせるとアーク近傍は真っ白に映ってしまいます。従来、このような特性を持つ溶接部を可視化するには、取り扱える明るさの範囲(ダイナミックレンジ)の広い特殊なカメラを使用するか、レーザー照明等を使った大掛かりな装置が必要でした。

溶接作業の様子(一般的なカメラを使用して撮影)溶接作業の様子(一般的なカメラを使用して撮影)

 


また、従来方法においては、リアルタイムで溶接作業者の目線の映像を取得することはできませんでした。

 ≪開発した技術≫
「XDR溶接部可視化技術」
※2:イメージセンサが取り扱うことのできる最大量の電気信号量を超える明るさを撮像したときに、その部分が白くなって何も映らない現象

 

本開発プロジェクトでは特殊なイメージセンサではなく、一般的なイメージセンサを使って溶接部の可視化を実現し、小型・低廉化することを目指しました。屋内照明からアーク近傍まで極めて広い明るさの範囲を扱う必要があるため、1つのカメラユニットにつき複数のイメージセンサを用いて可視化を図っています。具体的には、
今回新たに考案した光学機構を用い、さらに1/1000秒単位で撮影タイミングとシャッタースピードをコントロールして、異なる露出条件を持つ同一画角の映像を複数のイメージセンサで取得します。取得した露出条件の異なる複数のフレームを、GPUで画像処理演算し、リアルタイムに合成して1つのフレームを生成します。これにより、一般的なイメージセンサであっても、ダイナミックレンジを大幅に拡張することが可能になったことから、カメラユニットの小型・低廉化が実現しました。
 

 

出力される画像出力される画像

 


 
 「次世代3D溶接マスク」

さらに本技術を搭載して構築した次世代の3D溶接マスクは、左右2つのカメラユニットから取得し合成した映像を、3次元のステレオ映像としてHMDに遅延なく表示します。外部電源のない環境に対応するため、バッテリで動作します。この次世代3D溶接マスクを使うことにより、従来の溶接保護面では視認することが難しかった「生成したビード形状」「部材形状」「作業環境」などを含めて、溶接状況を広い視野で立体的に視認しながら確実な溶接作業が行えます。また、溶接に関する各種パラメータの表示・保存機能により、特に実務経験の少ない溶接作業者にとっては溶接品質を確保するうえで有用な情報を、容易に収集・確認することができ、技能の早期向上が期待されます。また、装置を介して間接的に視認することになるため、アークから目を完全に保護することもできます。
 

次世代3D溶接マスクを装着した溶接次世代3D溶接マスクを装着した溶接

 

 

取得されるステレオ映像取得されるステレオ映像


 
■今後の予定

今後は、実用化に向けて現場実証を重ねながら次世代3D溶接マスクの開発を進め、本格的な利用を目指します。そして、溶接の技能ノウハウに関する教育に活用するとともに、開発の過程で得られる知見や要素技術を、新たな技術開発および製品展開に応用してまいります。

同時に、可視化に伴って取得が可能になった溶接データについて、詳細な分析を行い、生産性向上やノウハウのデータ化、溶接方法の革新の可能性に至るまで幅広く検証し、今後の事業展開に活用してまいります。



 

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会社概要

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業種
建設業
本社所在地
東京都北区滝野川1-3-11  
電話番号
03-3915-7722
代表者名
川田 忠裕
上場
東証プライム
資本金
-
設立
2009年02月