日本人研究者として初受賞、高度な下排水処理における先駆的なソリューションで、権威あるLee Kuan Yew Water Prize 2020を
~ 山本和夫教授が世界で初めて実用化した浸漬型膜分離活性汚泥法(MBR)は、世界の多くの人々に恩恵をもたらした ~
シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィーク(SIWW)は、東京大学の山本和夫教授が、世界で初めて実用化された浸漬型MBR(メンブレン・バイオリアクター)の試作開発により、日本人研究者として初となる「Lee Kuan Yew Water Prize(リー・クアンユー水賞 )」を受賞したことを発表しました。
1980年代半ば、山本和夫教授が下排水処理の効率と品質を向上させるために膜を下排水に浸すというアイデアを初めて発表したとき、膜業界からは、当時の従来の科学的考え方に反するとして多くの懐疑的な声が上がりました。多くの人がこのコンセプトをばかばかしいと思い、「クレイジーなアイデア」として否定しました。
負けず嫌いの山本教授は、信念を持って粘り強く研究を続け、1988年に世界で初めて実用化された浸漬型MBRの試作に成功しました。この先駆的な発明は、その後、世界中の何百万人もの人々の公衆衛生と水の安全保障の向上に貢献したため、67歳の山本和夫教授は、2020年のLee Kuan Yew Water Prizeを受賞しました。Lee Kuan Yew Water Prizeはテマセク財団の支援を受けており、受賞者には賞金30万シンガポールドル(約2,600万円)、賞状、金メダルが贈られます。
Lee Kuan Yew Water Prize の9人目の受賞者となった山本教授は次のように述べています。「このたびは、Lee Kuan Yew Water Prizeを受賞し、大変光栄に思います。この賞は、次世代を担う水のリーダーたちが、衛生と水の再利用の分野で世界中のコミュニティに貢献するという目的を粘り強く継続するために必要な、先鋭的な精神と革新的な展望を育むものです。」現在、山本教授は東京大学名誉教授、環境・建設コンサルタント会社いであ株式会社(本社:東京)の監査役を務めています。
■水の持続可能性を強化するための課題の克服
山本教授のプロトタイプ以前にも、下排水処理用のMBRは存在しましたが、膨大なエネルギーを必要とし、膜が汚れやすいという理由で、大規模な導入には至りませんでした。そこで山本教授は、生物処理槽に中空糸膜を間欠的に浸漬して運転する「間欠ろ過」を考案し、従来のMBRに見られたエネルギー消費の大きい再循環ループと膜の目詰まりの問題を回避しました。これは、下排水処理と水の再利用の分野での飛躍的進歩となりました。
1988年に開催された国際水質学会(※1)(当時)で初めて水中MBRの概念を発表しましたが、山本教授は特許権を主張しないことを選択しました。この決断により、研究開発と実用化が進められ、水中MBR技術の下排水処理への導入が加速され、水分野と人類全体に恩恵をもたらすことになったのです。山本教授はさらに研究を進め、国内外の膜関連企業との緊密な連携を通じて技術の発展に貢献し、この技術の世界的な商業化・実用化を促進しました。
今日、水中MBR技術は、水の再利用に有益な排水品質基準を達成し、下排水の排出による環境負荷を低減する有効な技術として専門家に広く認知されています。この技術は、世界中の政府や水ソリューションプロバイダーが、より高い水準の公衆衛生を整備するための道を切り開きました。また、飲料水として再利用可能な高品質排水のおかげで、排水パイプラインの短縮により、下排水の環境への影響を軽減し、インフラコストの削減が可能になりました。また、既存の工場に後付けで据え付けられるため、急速に発展する地域社会にとって持続可能な処理方法となっています。
■より大きな効果をもたらす広範な応用
この数十年の間に、山本教授の設計に基づく自治体の下排水処理用MBRプラントの数と規模が飛躍的に増加しました。2010年以降、MBRシステムの総容量は約410万立方メートル/日から2014年には830万立方メートル/日以上へと2倍以上に増加しています。2000年代前半以降、MBRは3次処理システムとほぼ同等になり、世界の大規模下排水設備の約45%がMBRシステムとなっています。これは、これまでニッチな分野で小規模な設備に適用されてきたMBRが、特に地方自治体における大規模なプロジェクト(※2)に移行しつつあることを示すものです。
シンガポールでは、2006年から下排水処理工程にMBR技術を採用し、現在チャンギ、ウルパンダン、ジュロンの3つの水再生プラント(WRP)に導入しています。MBR技術は、設置面積が小さいため、国土の狭いシンガポールにとって大きなメリットをもたらしています。より質の高い排水が得られるため、水の再利用やNEWater(再生水)の製造が容易になり、これはシンガポールの水の持続可能性戦略の重要な柱となっています。現在建設中のトゥアスWRPも同様にMBR技術を採用し、下排水を処理する予定です。
シンガポール公共事業庁(PUB)の最高責任者であるNg Joo Hee氏は次のように述べています。「私たちシンガポールは、山本教授の研究から多大な恩恵を受けています。彼のおかげで、非常にコンパクトな水再生プラントを建設することができ、他の用途に土地を解放することができるのです。現在建設中のトゥアスWRPは、2026年の稼働開始時には世界最大のMBRプラントとなりますが、彼の発明により、その設置面積は通常の半分で済むようになりました。山本教授が初めて発明した水中MBRにより、トゥアスから排出される排水の質は高く、NEWaterの生産を強化し、シンガポールの水経済の循環をさらに促進します。」
山本教授は、発明以外にも、サウジアラビアにおける工業下排水再利用のための低エネルギーデモ下排水処理施設(WWTP)やミャンマー初のMBRを用いたWWTPなど、2007年から世界各国の国家レベルの下排水処理プロジェクトに助言を行っています。2011年には「膜技術に関する下水道技術会議」の座長を務め、下水道への膜技術導入のためのガイドライン(※3)を策定しました。
シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィーク(SIWW)の最高責任者であるRyan Yuenは次のように述べています。「Lee Kuan Yew Water Prizeは、世界の水問題の解決に貢献し、その活動が世界の数百万、数十億という人々に役立つ優れた個人または団体を表彰するものです。私たちは、山本教授がこの著名な受賞者の仲間入りをしたことを誇りに思います。4月に開催される2022年シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィーク(SIWW)に、山本教授をはじめとする世界の水問題における先駆者たちをお迎えし、新たな都市の水問題の解決に向けた革新的なソリューションを共有・交換できることを楽しみにしています。」
山本教授は、第9回SIWW期間中の2022年4月18日(月)に挙行される授賞式で、シンガポール共和国大統領Halimah Yacob女史からLee Kuan Yew Water Prize 2020のメダルを授与される予定です。2022年4月17日(日)~21日(木)に開催される本イベントでは、世界の水産業のオピニオンリーダーや関係者がベストプラクティスやソリューションを共有し、ビジネスチャンスを生かし、革新的な水ソリューションを共創するための「水リーダーズサミット」、「水コンベンション」、「水エキスポ」などのさまざまな主要プログラムが予定されています。
※1 現在の国際水協会(IWA)
※2 グローバル・ウォーター・インテリジェンス、2014年
※3 下水道における膜技術導入のためのガイドライン: 第2版
【Lee Kuan Yew Water Prizeについて】
Lee Kuan Yew Water Prizeは、革新的な技術の開発や応用、人類に利益をもたらす政策やプログラムの実施により、世界の水問題の解決に貢献した個人または組織を称えるために2008年に創設され、シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィーク(SIWW)のハイライトとなっています。シンガポールの初代首相Lee Kuan Yewにちなんで名づけられたこの賞の受賞者には、SIWW期間中の授賞式において、30万シンガポールドル、賞状、金メダルが授与されます。この賞はテマセク財団による支援を受けています。
【シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィーク(SIWW)について】
シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィーク(SIWW)は、革新的な水ソリューションを共有し、共同創造するためのグローバルなプラットフォームです。Lee Kuan Yew Water Prize、水リーダーズサミット、水会議、若手水リーダープログラム、水エキスポ、テーマ別・ビジネスフォーラム、技術視察、技術交流からなるSIWWは、水に関する世界のバリューチェーンを結集し、ビジネスや技術革新、水に関する政策展開の最新情報を共有する、さまざまな主要プログラムやプラットフォームを提供するものです。第9回シンガポール・インターナショナル・ウォーター・ウィークは、CleanEnviro Summit Singapore(CESG)とともに、2022年4月17日(日)から21日(木)まで開催される予定です。
【SIWW関連サイト】
- Website: https://www.siww.com.sg
- LinkedIn: https://www.linkedin.com/company/siww
- Twitter: https://twitter.com/WaterWeekSG
- Facebook: https://www.facebook.com/siww.com.sg
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザーログイン既に登録済みの方はこちら
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
- 種類
- 人物
- ビジネスカテゴリ
- 環境・エコ・リサイクル化学
- ダウンロード