シリコンフォトニクス波長可変レーザ、光領域デジタルアナログ変換器・合分波器を実現

-異種材料集積技術と光電協調設計技術で10テラビット/秒級・低消費電力光トランシーバ実現を加速-

 今回、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、InP系利得領域をシリコン光回路上に接合集積可能とする異種材料集積技術を導入することで、狭スペクトル線幅かつ広波長可変域で動作する波長可変レーザ、光電協調設計技術を活用し光領域でデジタルアナログ変換を行うことで、低消費電力化を実現する光DAC送信器、シリコン光回路の製造誤差を自律補正することで、高品質なフィルタ特性を実現するシリコン光合波器を試作し、その性能を実証しました。

PETRAは、10テラビット/秒級・低消費電力光トランシーバの実現に向けて、シリコンフォトニクスプラットフォーム上にIII-V族半導体(InP)素子を多機能集積するため、InP小片/シリコン基板接合を用いた異種材料集積技術の検討を行ってきました。また、光電協調設計の考え方を利用し、光回路と電子回路の役割分担を見直すことで、トランシーバの大容量・低消費電力化を実現する新しいトランシーバアーキテクチャを提案し、大容量伝送化と低消費電力化の両立を目指してきました。

 PETRAは3月30日から4月3日に米国カルフォルニア州・サンフランシスコで開催される世界最大級の光通信技術の展示会「OFC(Optical Fiber Communication and Exposition)2025にて、これらの動態展示を行います。

1. 背景

モバイル通信技術や人口知能(AI)技術の発展に伴い、通信量が増大しており、 2030年代には一つの光トランシーバに要求されるデータレートが10 テラビット/秒※1を超えると予想されています。一方、 光通信システムを支えてきたInPやシリコンフォトニクス※2を用いた単一材料光デバイスにおいては、10 テラビット/秒のデータ伝送に向けた広帯域化と低消費電力化の両立に限界が見え始めており、技術的なブレークスルーが求められています。その中で、InPとシリコンフォトニクスのそれぞれの利点を組み合わせた異種材料集積光デバイスは、その有望なアプローチの一つとして期待されています。また、光トランシーバにおいては、収容する伝送装置の要件から、伝送容量あたりの消費電力を現行の1/5に低減する必要があると考えられており、デジタル信号処理回路(DSP)を含む電子回路の消費電力を抜本的に低減可能な新しいアーキテクチャ技術が求められています。

2. 今回の成果

① 異種材料集積波長可変レーザ※3
 デジタルコヒーレント伝送※4向け波長可変レーザは、広い波長可変域で位相雑音を抑制するため、狭発振スペクトル線幅が求められます。図1に示すUVオゾン親水化によるInP小片/シリコン基板接合と、図2に示すInP系二段テーパ導波路とシリコン導波路から成る光結合部を用いて、InP系利得領域とシリコン光回路をモノリシック集積した構成により、従来のInP系集積レーザでは実現が困難であったフルCバンド(波長: 1530 nm – 1565 nm)を超える広い波長可変域において、単一モード・狭スペクトル線幅を実現しました(図2)。

      図1 InP 小片/シリコン基板接合
       図2 異種材料集積波長可変レーザ


② 光DAC送信器

 デジタルコヒーレント伝送向けの光トランシーバでは、DSPで処理したデジタル信号をアナログ信号に変換するデジタルアナログ変換器(DAC)が必要です。この変換処理は現在電気回路で実現していますが、近年の大容量・高速化に伴い、その消費電力が課題となっていました。これを解決するため、図3に示す構成で光電協調設計技術※6を活用してDAC処理を光回路にオフロードする光DAC送信器を開発しました。提案する送信器では電気DAC回路と線形増幅器が不要になるため、大幅な低消費電力化が可能になります。今回の試作機では高品質な50 Gbaud※7 16QAM※8信号を生成し、その消費電力が従来方式の約50%であることを実証しました。

                        図3 光DAC送信器

③ シリコン光合波器※9
 10テラビット/秒級の光トランシーバでは、トランシーバ内部に複数の送信器・受信器を並列集積し、波長多重した大容量信号を送受信するアーキテクチャが有望です。そのキーデバイスである光合波器を小型なシリコンフォトニクス光回路で実現しました。シリコンフォトニクス光回路は小型で高集積が可能である反面、その製造ばらつきが光回路性能に影響を及ぼしやすく、高品質な光フィルタを実現することが困難でした。今回、図4に示す独自の光回路・モニタ構成を用いて、製造ばらつきを自律補正する光合波器を開発しました。デジタルコヒーレント光通信用信号に求められる高平坦かつ高コントラストなフィルタ形状を実現しています。

                        図4 シリコン光合波器


3. 今後の予定
 今回開発した異種材料集積光デバイス技術、光トランシーバアーキテクチャを適用した光トランシーバプロトタイプを開発し、2025年度に分散コンピューティング技術実証システムに組み込んだ動作デモンストレーションを行います。また、各技術の製品適用に向けて、デバイス製造技術やトランシーバ実装技術の開発を進め、2030年以降に大容量・低消費電力トランシーバの製品化を目指します。本技術は、分散コンピューティングのみならず、IOWNを含め様々な通信アプリケーションに適用可能です。

謝辞:今回の成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(JPNP16007)の結果得られたものです。

[注釈]

※1 テラビット/秒

通信回線などのデータ伝送速度の単位で、1秒間に1テラ(1x1012)ビットのデータを伝送する速度。

※2 シリコンフォトニクス

シリコン基板上に光素子を形成する技術。シリコンを用いることにより光回路を小型化でき、大規模集積が可能になる。また、光回路と電子回路の一体形成や製造コストの低減が可能になるなどの特長を持つ。

※3 波長可変レーザ

異なるピーク間隔を有する二つの共振スペクトルが一致した波長で、干渉により強め合う効果(バーニア効果)を利用し、かつこれらの共振スペクトルを屈折率変化によりシフトさせることで、波長可変動作を行う半導体レーザ。

※4 デジタルコヒーレント伝送

光の電磁波としての性質を利用し、信号光の強度と位相両方にデータを重畳する光通信方式。光信号が送信器、受信器、伝送媒体(光ファイバなど)で受ける信号品質劣化をデジタル信号処理回路で補償し、誤りのないデータを復号することを特徴とする。従来の直接変調・直接検波方式と比較してより大容量のデータを長距離で伝送できることがメリット。

※5 SOIウェハ

Silicon On Insulatorの略で、シリコンと絶縁膜(SiO2)から成る半導体基板。

※6 光電協調設計技術

従来個別に回路設計していた電気回路と光回路について、電気信号・光信号を一括で回路モデルとシミュレーション手法を活用することで、全体性能が最大化するように協調設計する技術。

※7 Gbaud

データ伝送において1秒間でやりとりする符号(シンボル)の数を示す単位。 1秒間に1ギガ(1x109)のシンボルを送受信することに対応する。これに1シンボル当たりが持つ情報量を掛け合わせることでデータ伝送速度になる。

※8 16QAM (Quadrature Amplitude Modulation)

コヒーレント伝送でやり取りするシンボルのフォーマット。強度と位相の変調を組み合わせて16通り(4ビット)の情報をやり取りする。

※9 光合波器

個別の送信器で生成された異なる波長を持つ複数の光信号を共通の光導波路やファイバに合流させる光回路。合流時に光信号の損失が無いことを特徴とする。

4. 問い合わせ先

(本ニュースリリース内容についての問い合わせ先)

 技術研究組合光電子融合基盤技術研究所 TEL:03-5225-2362 

                    E-Mail:petros@petra-jp.org

                    URL:https://www.petra-jp.org/

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会社概要

URL
https://www.petra-jp.org/
業種
情報通信
本社所在地
東京都文京区関口1-20-10 住友江戸川橋駅前ビル7階
電話番号
03-5225-6434
代表者名
齋藤達男
上場
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資本金
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設立
2009年08月