QuEra Computing、ハーバード大学、MITの研究チームが中性原子量子コンピュータ上で論理レベルの魔法状態蒸留を実証

QuEra Computing、ハーバード大学、MITの研究チームが中性原子量子コンピュータ上で論理レベルの魔法状態蒸留を実証 ― ユニバーサルかつ誤り耐性のある量子計算に不可欠な基盤技術を確立 ―

米国マサチューセッツ州ボストン — 2025年7月14日

量子コンピュータベンチャーのQuEra Computing(本社:米国マサチューセッツ州ボストン)と米国ハーバード大学、同マサチューセッツ工科大学(MIT) の研究者から成るチームは、論理量子ビットのみを用いた魔法状態蒸留の実験的実証に世界で初めて成功しました。本研究成果をまとめた論文「Experimental Demonstration of Logical Magic State Distillation」はNature誌の Accelerated Article Preview として公開されています: https://www.nature.com/articles/s41586-025-09367-3

背景

量子コンピュータは量子ビットと量子論理演算によって、情報を処理しアルゴリズムを実行します。実用的な大規模アルゴリズムを実現するには、極めて低い誤り率で量子論理演算を実行することが不可欠です。その鍵を握るのが誤り訂正符号で保護された論理量子ビットですが、多くの量子誤り訂正符号で直接実装できるのはCliffordゲートと呼ばれる基本的な論理演算に限られます。

Clifford ゲートは多くの量子回路の基盤を成しますが、これだけではユニバーサル量子計算(量子モデルで理論上可能な任意の計算を実行すること)を達成できません。実際、Clifford ゲートだけを用いる量子コンピュータは古典コンピュータ上で容易にシミュレーション可能です。

量子コンピュータの可能性を最大限に引き出すためには、魔法状態(マジックステート) と呼ばれる高品質なリソース状態を生成し、利用する必要があります。論理量子ビットを用いて(論理レベルで)低誤り率で魔法状態を生成することができれば、それらは誤り耐性のあるユニバーサルな量子計算にとって最も重要な要素となり得ます。しかしながら、このような魔法状態は、いわゆる「魔法状態工場」の中で魔法状態蒸留のような高度なプロトコルを利用して生成する必要があるため、非常に多くのリソースを要します。このような魔法状態生成の高いコストと複雑さが、誤り耐性システムを拡張する上での大きな障壁となってきました。

魔法状態蒸留は、原油を精製して航空燃料を作る工程に似ています。現在の量子システムで得られる壊れやすくノイズの多い「原油」を、あらゆる量子アルゴリズムを安定して走らせる「高オクタン燃料」へと精製するのです。元のままの魔法状態は不完全であるため、同じものを複数束ね、それらを“蒸留”してよりクリーンな1個にするわけです。

本研究では、魔法状態蒸留の全工程を論理層の内部で完結させられることを実証しました。その結果として得られる貴重な魔法状態は、ハードウェアの欠陥から守られた状態に保たれ、論理量子ビットを用いたあらゆる計算に利用できます。誤り訂正されたレイヤー内で高品質な魔法状態を生成できれば、保護された論理空間内のみで量子プログラム全体を実行する可能性が開かれ、実用規模へのスケールアップにつながります。

QuEraのチームは当社のGemini中性原子量子コンピュータ 上で複数個の原子をまとめ、誤りから保護された論理量子ビットを構成しました。その際、異なる二つの大きさのまとまり(符号距離3 と 符号距離5 の色符号論理量子ビット)を作成し、不完全な魔法状態5個から1個の高忠実度魔法状態を得る 5→1蒸留プロトコルを実行しました。結果として、出力された魔法状態の忠実度は入力されたいずれの状態よりも高くなり、誤り耐性のある魔法状態蒸留が理論に留まらず実際に機能することを示しました。

コメント

Sergio Cantu(論文責任著者/QuEra Computing社 Quantum Systems部門Vice President)

「論理魔法状態蒸留は長年にわたり、ユニバーサル量子計算に向けてマイルストーンとして位置づけられてきました。本成果は、中性原子量子プロセッサ上で実現した、論理レベルでの魔法状態蒸留の最初の実験実証であり、これは、スケーラブルで誤り耐性のある量子計算へ向けた重要な一歩です。」

北川 拓也 (QuEra Computing社 President)

「ユニバーサル量子計算におけるスケーラブルな誤り耐性は量子情報科学の中心的な課題です。QuEraのGeminiプラットフォームにおける論理魔法状態工場の実証は、中性原子の柔軟性と、我々のロードマップ上の誤り訂正されたアプリケーション向けマシンの実現可能性を改めて示すものです。」

Mikhail Lukin教授(ハーバード大学/QuEra Computing共同創業者・Chief Scientist)

「この実験では、動的な再配列と任意ビット間エンタングルメントが可能であるという中性原子アレイ特有の強みを生かし、量子誤り訂正で最も要求の厳しいサブルーチンの一つを実装しました。これは実用的なユニバーサル量子プロセッサに向けた非常に重要なステップです。」

本成果の重要性

論理量子ビットの普遍性を解放:魔法状態は非Cliffordゲートを実現するためのリソースとなることで、これまでCliffordゲートしか存在しなかったゲートセットを完全なものにし、古典計算機では実現できない完全にユニバーサルな量子ゲートセットを論理量子ビットに対して提供します。Gottesman-Knillの定理によれば、非Cliffordゲートを用いない量子回路はノートパソコン上で容易にシミュレーションすることができるため、量子計算による高速化は見込めません。

論理レベルでの誤り抑制:物理量子ビットではなく誤り訂正された論理量子ビット上で蒸留を行うことで、最終的な論理誤り率を抑制するという、誤り耐性のある深い回路の前提条件を満たします。

高度な並列性を実証:Geminiは、ハーバード大学とMITによる論理量子プロセッサーの実証という画期的な先行研究を基盤としており、光学制御により多数の原子に同時にアクセスし移動させることができるため、複数の論理量子ビットを並列に時間発展させることができます。これにより回路深さを短縮したり、アイドル時の誤りを軽減したりすることで、大規模な量子アルゴリズムを実行するために「魔法状態工場」を高速化することができます。

QuEraアーキテクチャの拡張性を提示:実験では5つの符号距離5の論理量子ビットを操作し回路の途中で再配置しました。これは、将来的に数百論理量子ビットへ拡張できる道筋を示すものです。

実験のポイント

並列論理エンコーディング:符号距離3の魔法状態工場を並列に実行

5-to-1魔法状態蒸留:トランスバーサルなCliffordゲートと原子輸送を組み合わせた蒸留回路を実装し、論理シンドローム量子ビットで成功を検証

動的再構成:再構成可能なアーキテクチャを活用することにより、回路全体で必要とされる複雑な接続性を柔軟に実装

ウェビナーのご案内

本論文の著者数名が登壇する公開ウェビナー(Science with QuEraシリーズ)が2025年8月6日(水)午前11時(米東部時間)(日本時間の8月7日(木)午前0時)に開催されます。参加を希望される方はこちらからご登録ください:https://quera.link/magic

資金提供・謝辞

本研究は IARPA、米陸軍研究局(ARO)、DARPA ONISQ及びMeasQuITプログラム、米国科学財団(NSF)、MIT-Harvard Center for Ultracold Atoms からの支援を受けて実施されました。

QuEra Computing について

QuEra Computing は、極めて有望な量子計算プラットフォームとして広く認知されてい る中性原子方式の量子コンピュータの開発と製品化をリードするベンチャー企業です。ハーバード大学とMITの先駆的研究を基盤とし、ボストンに本社を置くQuEraは、世界最大の一般利用が可能な量子コンピュータを主要クラウド経由およびオンプレミスで提供しています。QuEraは、古典的な計算では解決不可能な課題の解決を目指して、実用的でスケーラブル、かつ誤り耐性のある量子コンピュータを開発しており、量子分野のパートナーとして選ばれています。詳細については quera.com をご覧いただき、X(旧Twitter)およびLinkedInでQuEraのフォローをお願いします。

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会社概要

URL
-
業種
製造業
本社所在地
東京都中央区日本橋3-9-1 日本橋三丁目スクエア11階
電話番号
080-5497-8282
代表者名
北川 拓也
上場
未上場
資本金
-
設立
2024年11月