インド:後発薬製造で初の強制実施権を発効 -大幅な薬価引き下げに-
プレスリリース
2012年3月14日
2012年3月12日、インド特許庁は同国で初となる強制実施権を発動した。これにより、インドの後発医薬品(ジェネリック薬)製造会社であるナトコは、トシル酸ソラフェニブ製剤による腎臓・肝臓がん治療薬を製造できるようになった。ジェネリック薬の製造条件として、ナトコはドイツの製薬企業バイエルに対し、同薬の特許保護期間が継続する2020年までの8年間、定率6%の特許権使用料を支払う*。
今回のインド政府による決定は、特許権を付与された薬の価格が高額である場合に、ジェネリック版の製造を可能にする強制実施権の発動が認められた初のケースとなった。特許庁は、バイエルが適正で手ごろな水準の薬価設定を怠り、インド国内で持続的に十分な量の薬を供給していないことを判定の理由としている。ジェネリック薬による価格競争で、インド国内のトシル酸ソラフェニブの価格は、月間5500米ドル(約45万円)から、およそ97%減の175米ドル(約1万4500円)近くまで、劇的に低下することが予想される。
国境なき医師団(MSF)必須医薬品キャンペーンの ディレクター、ティド・フォン・シェーン・アンゲラー医師は述べる。
「今回の成り行きを、MSFは注視してきました。インドでは、この薬だけではなく、比較的新しいHIV/エイズ治療薬も特許で保護されており、手の届かない価格になっているからです。今回の判定は希望につながります。特許をもつ企業に特許権の使用料を払えば、ジェネリック薬メーカーも新薬を廉価で製造できるようになったのです。競合により、薬価が低下する条件が整う一方で、特許使用料により、特許保有者の減収も埋め合わされます」
世界貿易機関(WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」では、公衆衛生の保護、特に医薬品の普及を促進させることを目的とした強制実施権の発動を認めている。今回のインド政府による決定は、米国を含む複数の国々での強制実施権の発動に続くものである。
2011年2月、米国特許商標庁は、移植用皮膚片に使用される医療機器のジェネリック版の販売を認め、ジェネリックメーカーが特許権を所有する製造元へ特許使用料を払うとする判決を下した。
MSFの必須医薬品キャンペーン政策責任者、ミシェル・チャイルズは言う。
「今回の判定は一種の警告です。不当な価格で薬の流通や購入を制限する製薬会社は、制裁を受けるということです。特許庁には、国民が重要な薬を入手できるよう、製薬会社の独占的な権力をけん制できる権限があります。この判定が前例となり、ほかの医薬品や輸出品への適用が認められれば、ジェネリック薬治療に頼っているMSFの患者や途上国の人びとにとって、大きな後押しとなります」
現行の医薬品の特許制度では、新薬に特許権が付与された後、製薬会社が自社の保有する特許権を保護し、市場を独占する状態が続いている。別のケースでは、ノバルティス社が、インドで自社の医薬品に対する特許申請が却下されたことを不服として異議を申し立てているが、結局、犠牲になるのは高額な医薬品に手の届かない途上国の患者である。このような現在の制度に代わって、新薬の製造をジェネリックメーカーにも認め、各業者が特許権を所有する製造元企業に特許使用料を支払うことで、製薬会社は薬の開発コストを回収し、同時に途上国の患者にも安価な医薬品を普及させることが可能になるはずである。
シェーン・アンゲラー医師は、こう結んでいる。
「HIV/エイズ治療薬などについて、特許権保有者から使用の権利が得られない場合、自発的に強制実施権を申請するジェネリック薬メーカーが増えるよう願っています」
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*強制実施権の行使命令原文:
http://www.ipindia.nic.in/ipoNew/compulsory_License_12032012.pdf
MSFは、HIVの治療活動を行っている19ヵ国で合計17万人の80%以上を、「途上国の薬局」とも呼ばれるインド産の高品質で手ごろな価格のジェネリック薬を頼りに治療している。インドのジェネリック薬メーカー間の競合で、HIV/エイズ治療薬の価格は、2000年の1人当たり年間1万米ドル(約82万円)から、現在までに約99%減のおよそ150米ドル(約1万2000円)まで引き下げられた。しかし、2005年の新しい特許法が導入されて以来、インドでも新薬に特許が付与される例が増えており、価格が高止まりしている。
2012年3月14日
2012年3月12日、インド特許庁は同国で初となる強制実施権を発動した。これにより、インドの後発医薬品(ジェネリック薬)製造会社であるナトコは、トシル酸ソラフェニブ製剤による腎臓・肝臓がん治療薬を製造できるようになった。ジェネリック薬の製造条件として、ナトコはドイツの製薬企業バイエルに対し、同薬の特許保護期間が継続する2020年までの8年間、定率6%の特許権使用料を支払う*。
今回のインド政府による決定は、特許権を付与された薬の価格が高額である場合に、ジェネリック版の製造を可能にする強制実施権の発動が認められた初のケースとなった。特許庁は、バイエルが適正で手ごろな水準の薬価設定を怠り、インド国内で持続的に十分な量の薬を供給していないことを判定の理由としている。ジェネリック薬による価格競争で、インド国内のトシル酸ソラフェニブの価格は、月間5500米ドル(約45万円)から、およそ97%減の175米ドル(約1万4500円)近くまで、劇的に低下することが予想される。
国境なき医師団(MSF)必須医薬品キャンペーンの ディレクター、ティド・フォン・シェーン・アンゲラー医師は述べる。
「今回の成り行きを、MSFは注視してきました。インドでは、この薬だけではなく、比較的新しいHIV/エイズ治療薬も特許で保護されており、手の届かない価格になっているからです。今回の判定は希望につながります。特許をもつ企業に特許権の使用料を払えば、ジェネリック薬メーカーも新薬を廉価で製造できるようになったのです。競合により、薬価が低下する条件が整う一方で、特許使用料により、特許保有者の減収も埋め合わされます」
世界貿易機関(WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」では、公衆衛生の保護、特に医薬品の普及を促進させることを目的とした強制実施権の発動を認めている。今回のインド政府による決定は、米国を含む複数の国々での強制実施権の発動に続くものである。
2011年2月、米国特許商標庁は、移植用皮膚片に使用される医療機器のジェネリック版の販売を認め、ジェネリックメーカーが特許権を所有する製造元へ特許使用料を払うとする判決を下した。
MSFの必須医薬品キャンペーン政策責任者、ミシェル・チャイルズは言う。
「今回の判定は一種の警告です。不当な価格で薬の流通や購入を制限する製薬会社は、制裁を受けるということです。特許庁には、国民が重要な薬を入手できるよう、製薬会社の独占的な権力をけん制できる権限があります。この判定が前例となり、ほかの医薬品や輸出品への適用が認められれば、ジェネリック薬治療に頼っているMSFの患者や途上国の人びとにとって、大きな後押しとなります」
現行の医薬品の特許制度では、新薬に特許権が付与された後、製薬会社が自社の保有する特許権を保護し、市場を独占する状態が続いている。別のケースでは、ノバルティス社が、インドで自社の医薬品に対する特許申請が却下されたことを不服として異議を申し立てているが、結局、犠牲になるのは高額な医薬品に手の届かない途上国の患者である。このような現在の制度に代わって、新薬の製造をジェネリックメーカーにも認め、各業者が特許権を所有する製造元企業に特許使用料を支払うことで、製薬会社は薬の開発コストを回収し、同時に途上国の患者にも安価な医薬品を普及させることが可能になるはずである。
シェーン・アンゲラー医師は、こう結んでいる。
「HIV/エイズ治療薬などについて、特許権保有者から使用の権利が得られない場合、自発的に強制実施権を申請するジェネリック薬メーカーが増えるよう願っています」
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*強制実施権の行使命令原文:
http://www.ipindia.nic.in/ipoNew/compulsory_License_12032012.pdf
MSFは、HIVの治療活動を行っている19ヵ国で合計17万人の80%以上を、「途上国の薬局」とも呼ばれるインド産の高品質で手ごろな価格のジェネリック薬を頼りに治療している。インドのジェネリック薬メーカー間の競合で、HIV/エイズ治療薬の価格は、2000年の1人当たり年間1万米ドル(約82万円)から、現在までに約99%減のおよそ150米ドル(約1万2000円)まで引き下げられた。しかし、2005年の新しい特許法が導入されて以来、インドでも新薬に特許が付与される例が増えており、価格が高止まりしている。
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