『アムネスティ・レポート2012』発表:いつの時代も、専制と不正義は崩れ去る
国際人権NGOアムネスティ・インターナショナル(http://www.amnesty.or.jp/)は5月24日、世界157ヵ国における人権状況を網羅した、年次報告書を発表した。
本報告書でアムネスティは、本来は人権を守るべきはずである指導者の怠慢を、鋭く指摘している。人権の危機に際しての、国連安保理をはじめとする国際社会の対応は、しばしば不安定で、釈明めいており、偽善に満ちていた。
■アラブの春から世界へと広がった市民の声
2011年、チュニジアとエジプトにおける蜂起の成功が口火となって、抗議の輪が近隣地域へ、そして世界各地へと広がっていった。それはヨーロッパのモスクワ、ロンドン、アテネへ、アフリカのダカールとカンパラへ、アメリカ大陸のニューヨーク、ラパス、クエルナバカへ、さらにアジアのプノンペン、東京へと広がった。
中東と北アフリカでは、若い世代の積もり積もった不満と要求が街頭で爆発して、数十年にわたり武力で支配を続け、磐石と思われた独裁政治を打倒し、また脅かしている。
これらの行動に勇気づけられて、アフリカの人びともまた、報復の危険をかえりみず、絶望的な社会的・経済的状況に対して抗議し、政治的な自由を求める声をあげた。
ヨーロッパ、中央アジアおよびアジア太平洋地域では、人びとはくりかえし正義を求めて立ちあがり、人権侵害に抗議した。政府が抑圧的な措置を高めることで反撃に出た地域もあった。旧ソ連に属した国々では、独裁体制が権力を強化して抗議行動を弾圧し、反体制派指導者を逮捕し、異議を唱える声を封じたこともあった。
アメリカ大陸では、人権についての要求が街頭、法廷、そして米州機構の間で高まってきた。個人、市民団体、先住民からの正義を求める声は力を増し、人びとと経済的・政治的勢力との間に、正面からの対決が頻繁に起きた。
これらの多くの紛争の原因となっているのは、経済成長政策である。それは多くの人びとの、とくに貧しい人びとや社会の底辺に生きる人びとの苦境を、さらに悪化させてきた。さまざまな形の差別もまた不正への疑惑を育んで、世界中で抗議の波を引き起こした。
■組織より民衆を、利益より権利を
国連安全保障理事会が、ますますその本来の役割を果たせなくなっているように見える中、強力な武器貿易条約(ATT)が求められる。
「過去1年、世界中の抗議者らが勇気を発揮したのに対し、国側はその指導力の不全を露呈しました。その結果、安保理は消耗し、理事国の足並みは乱れ、その本来の目的を果たせなくなっているようです」と、アムネスティの事務総長サリル・シェティは述べる。
アムネスティは、実効性のある武器貿易条約(ATT)の年内の締結を求めている。
「昨年、指導力の機能不全は世界に広がっていきました。政治家は抗議行動に対し、残虐なあるいは無関心な態度をとりました」
「政権は本来、弱者を守り、強者を取り締まることによって、本当の指導力を発揮し、不正義を排除するべきです。組織より民衆を、利益より権利を優先させる時代の到来です」
■ないがしろにされる『人権』と、国連安保理の機能不全
2011年が始まってから数ヵ月の間、世界の、あるいは各地の多くの人びとが声を上げ、熱狂的な抗議運動を巻き起こした。しかし、結果には結びつかなかった。エジプトの人びとが新大統領の選挙に足を運んでいるとき、抗議者が起こした変化の芽は、しぼむばかりだったかのように見える。
「昨年、大国が中東や北アフリカでの覇権を争いながら、日和見的協定や経済的な利害関係を結ぶとき、常套的に『人権』を切り札に使うことが明らかになりました。『人権』という言葉は、政治や集団の利益に資するときは利用され、不都合や不利益になるときは、ないがしろにされたのです」とサリル・シェティは述べた。
安保理は、スリランカへの介入に失敗し、ロシアのおもな武器輸出国であるシリアの非人道的犯罪に対処しなかったため、その世界平和の守護神としての役割は色あせてしまったように見える。インド、ブラジル、南アフリカの新興する強国は、沈黙することで加担してきた。
シリアの事態に関し、安保理がその非人道的な犯罪の捜査を国際刑事裁判所(ICC)に付託しなかったことは、議論の余地がない、明らかな例である。「何としてもシリアを擁護しようとする安保理数ヵ国の決定は、これらの犯罪の説明責任をうやむやにする、シリア国民への裏切りです」
■公正、自由、平等を保障する制度と構造の構築を
2012年度のアムネスティ・レポートは、多くはデモ参加者に対し、少なくとも93ヵ国で表現の自由を具体的に制限し、少なくとも101ヵ国で拷問や虐待があったことを報告している。
「どれほど独裁的でも、その指導者を排除することだけでは、長期的な変化を起こすには不十分です。各政府は、国内外の表現の自由を支持し、国際的な責任をしっかり果たし、法の下での公正、自由、平等を保障する制度と構造の構築に取り組まなければなりません」
7月に開催される武器貿易条約に合意を目指す国連の交渉会議は、政治家が自己の関心や利益より人権を優先させることができるか、その踏絵となるだろう。
強力な条約でなければ、常任理事国は世界の武器輸出大国であるにもかかわらず、いかなる決議に対しても拒否権を行使することになる。その結果、世界平和と安全の守護神としての安保理は、破たんする運命となるであろう。
「抗議者たちは、国は変えられるということを示しました。『政治は、公正、平等、尊厳を守れ』と要求する挑戦状を突き付けました。その期待に応えられない指導者は、退場するしかないことを見せつけたのです。不吉な出来事で始まった2012年ですが、今年を『行動の年』にしなければなりません」とサリル・シェティは述べた。
※本報告書の日本語版は、8月発売予定です。
▼動画『アムネスティ・レポート2012』:いつの時代も、専制と不正義は崩れ去
る(英語)
http://www.youtube.com/watch?v=BIdXzyMsGuM
▼『アムネスティ・レポート2012』(英語)
http://www.amnesty.org/en/annual-report/2012
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アムネスティ・インターナショナルは、世界最大の国際人権NGOです。1977年にノーベル平和賞を受賞し、現在は全世界に300万人以上のサポーターがいます。
http://www.amnesty.or.jp/
本報告書でアムネスティは、本来は人権を守るべきはずである指導者の怠慢を、鋭く指摘している。人権の危機に際しての、国連安保理をはじめとする国際社会の対応は、しばしば不安定で、釈明めいており、偽善に満ちていた。
■アラブの春から世界へと広がった市民の声
2011年、チュニジアとエジプトにおける蜂起の成功が口火となって、抗議の輪が近隣地域へ、そして世界各地へと広がっていった。それはヨーロッパのモスクワ、ロンドン、アテネへ、アフリカのダカールとカンパラへ、アメリカ大陸のニューヨーク、ラパス、クエルナバカへ、さらにアジアのプノンペン、東京へと広がった。
中東と北アフリカでは、若い世代の積もり積もった不満と要求が街頭で爆発して、数十年にわたり武力で支配を続け、磐石と思われた独裁政治を打倒し、また脅かしている。
これらの行動に勇気づけられて、アフリカの人びともまた、報復の危険をかえりみず、絶望的な社会的・経済的状況に対して抗議し、政治的な自由を求める声をあげた。
ヨーロッパ、中央アジアおよびアジア太平洋地域では、人びとはくりかえし正義を求めて立ちあがり、人権侵害に抗議した。政府が抑圧的な措置を高めることで反撃に出た地域もあった。旧ソ連に属した国々では、独裁体制が権力を強化して抗議行動を弾圧し、反体制派指導者を逮捕し、異議を唱える声を封じたこともあった。
アメリカ大陸では、人権についての要求が街頭、法廷、そして米州機構の間で高まってきた。個人、市民団体、先住民からの正義を求める声は力を増し、人びとと経済的・政治的勢力との間に、正面からの対決が頻繁に起きた。
これらの多くの紛争の原因となっているのは、経済成長政策である。それは多くの人びとの、とくに貧しい人びとや社会の底辺に生きる人びとの苦境を、さらに悪化させてきた。さまざまな形の差別もまた不正への疑惑を育んで、世界中で抗議の波を引き起こした。
■組織より民衆を、利益より権利を
国連安全保障理事会が、ますますその本来の役割を果たせなくなっているように見える中、強力な武器貿易条約(ATT)が求められる。
「過去1年、世界中の抗議者らが勇気を発揮したのに対し、国側はその指導力の不全を露呈しました。その結果、安保理は消耗し、理事国の足並みは乱れ、その本来の目的を果たせなくなっているようです」と、アムネスティの事務総長サリル・シェティは述べる。
アムネスティは、実効性のある武器貿易条約(ATT)の年内の締結を求めている。
「昨年、指導力の機能不全は世界に広がっていきました。政治家は抗議行動に対し、残虐なあるいは無関心な態度をとりました」
「政権は本来、弱者を守り、強者を取り締まることによって、本当の指導力を発揮し、不正義を排除するべきです。組織より民衆を、利益より権利を優先させる時代の到来です」
■ないがしろにされる『人権』と、国連安保理の機能不全
2011年が始まってから数ヵ月の間、世界の、あるいは各地の多くの人びとが声を上げ、熱狂的な抗議運動を巻き起こした。しかし、結果には結びつかなかった。エジプトの人びとが新大統領の選挙に足を運んでいるとき、抗議者が起こした変化の芽は、しぼむばかりだったかのように見える。
「昨年、大国が中東や北アフリカでの覇権を争いながら、日和見的協定や経済的な利害関係を結ぶとき、常套的に『人権』を切り札に使うことが明らかになりました。『人権』という言葉は、政治や集団の利益に資するときは利用され、不都合や不利益になるときは、ないがしろにされたのです」とサリル・シェティは述べた。
安保理は、スリランカへの介入に失敗し、ロシアのおもな武器輸出国であるシリアの非人道的犯罪に対処しなかったため、その世界平和の守護神としての役割は色あせてしまったように見える。インド、ブラジル、南アフリカの新興する強国は、沈黙することで加担してきた。
シリアの事態に関し、安保理がその非人道的な犯罪の捜査を国際刑事裁判所(ICC)に付託しなかったことは、議論の余地がない、明らかな例である。「何としてもシリアを擁護しようとする安保理数ヵ国の決定は、これらの犯罪の説明責任をうやむやにする、シリア国民への裏切りです」
■公正、自由、平等を保障する制度と構造の構築を
2012年度のアムネスティ・レポートは、多くはデモ参加者に対し、少なくとも93ヵ国で表現の自由を具体的に制限し、少なくとも101ヵ国で拷問や虐待があったことを報告している。
「どれほど独裁的でも、その指導者を排除することだけでは、長期的な変化を起こすには不十分です。各政府は、国内外の表現の自由を支持し、国際的な責任をしっかり果たし、法の下での公正、自由、平等を保障する制度と構造の構築に取り組まなければなりません」
7月に開催される武器貿易条約に合意を目指す国連の交渉会議は、政治家が自己の関心や利益より人権を優先させることができるか、その踏絵となるだろう。
強力な条約でなければ、常任理事国は世界の武器輸出大国であるにもかかわらず、いかなる決議に対しても拒否権を行使することになる。その結果、世界平和と安全の守護神としての安保理は、破たんする運命となるであろう。
「抗議者たちは、国は変えられるということを示しました。『政治は、公正、平等、尊厳を守れ』と要求する挑戦状を突き付けました。その期待に応えられない指導者は、退場するしかないことを見せつけたのです。不吉な出来事で始まった2012年ですが、今年を『行動の年』にしなければなりません」とサリル・シェティは述べた。
※本報告書の日本語版は、8月発売予定です。
▼動画『アムネスティ・レポート2012』:いつの時代も、専制と不正義は崩れ去
る(英語)
http://www.youtube.com/watch?v=BIdXzyMsGuM
▼『アムネスティ・レポート2012』(英語)
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アムネスティ・インターナショナルは、世界最大の国際人権NGOです。1977年にノーベル平和賞を受賞し、現在は全世界に300万人以上のサポーターがいます。
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