薬剤耐性ベンチマーク2020報告書:スーパー耐性菌対策には一定の進展が見られるものの、必要とされる対策規模には達していないことが明らかに

~30の製薬会社の薬剤耐性(AMR)対策を評価~


【アムステルダム】 オランダを拠点とする独立非営利研究財団、医薬品アクセス財団が本日発表した「薬剤耐性ベンチマーク2020」報告書では、製薬会社の中核グループにおいて、薬剤耐性菌の拡散を防ぐための取り組みに進展が確認されたことが明らかになりました。しかしながら、複数の製薬会社は取り組みを拡大しているものの、薬剤耐性がもたらす脅威に根本的な影響をもたらすほどの規模には至っていません。

本日発表された、薬剤耐性ベンチマーク2020報告書によると、より多くの企業が、医者や医療従事者に対する抗生物質や抗真菌薬の過剰な売り込みを自粛する動きに出ていることが判明しました。製薬会社の大半は、工場廃液に放出される抗生物質の残留を防ぐための対策にも取り組んでいます。さらに、製薬会社は薬剤耐性菌が発生している地域に関するデータの共有も拡充しています。

2018年と比較すると、優先度の高い重要病原体を標的とする抗生物質のパイプラインは依然少なく、後期の臨床開発段階にある新薬候補は僅か51品目しかありません。その内、上市後のアクセスと適正使用に関する計画が整っているのはごく僅かです。また、多くの低・中所得国では、薬事登録の申請や供給戦略等を通じた、有効で適切な抗生物質のアクセスも提供されていません。

「薬剤耐性ベンチマーク」報告書を発行している医薬品アクセス財団(Access to Medicine Foundation)でエグゼキュティブ・ディレクターを務めるジェイアスリー・K・アイヤーは次のように述べています。「低・中所得国においては、旧来の抗生物質でさえ入手が困難な状況にあることを考慮すると、新たに開発された抗生物質がそれらを必要としている人々に行き渡る保証はどこにもありません。このような『入手機会の格差』は、抗生物質の乱用に繋がる可能性があります。製薬会社は、自社の薬剤の有効性を保護するためにも、これらのアクセス問題に対処する必要があります」

30社で1,521品目、パイプラインの4割をカバー
薬剤耐性ベンチマークは、2年に一度発行される独立した報告書で、医薬品業界の代表的な企業が薬剤耐性菌の脅威にどのように対応しているかを比較します。塩野義製薬を含むグローバル製薬会社、バイオテクノロジー企業、ジェネリック医薬品企業など、依然として抗菌性物質の製造開発を積極的に行っている30社を対象としています。これらの30社は合計で最低でも1,521種類の抗菌薬または抗真菌薬を上市しており、また、開発過程にある抗生物質の約4割を手掛けています。

薬剤耐性菌の増加が確認されている
抗生物質の収益性の低さから、抗生物質の製造開発を手掛ける医薬品企業はごく僅かです。2018年に薬剤耐性ベンチマークを発表して以降、ノバルティスとサノフィが新規の抗生物質の研究開発から撤退した他、アカオジェンが破産を申請しました。

最新の統計は問題の深刻度を如実に表しています。抗生物質や抗真菌薬の耐性菌により、米国だけでも年間35,900人が死亡していると推計されています。欧州連合(EU)・欧州経済地域(EEA)では、感染症の少なくとも17%が耐性菌を原因としており、耐性菌により年間33,000人が命を落としています。インドでは、蔓延する細菌の7割超が薬剤に対する耐性を持っています。

あまり知られていないことですが、耐性菌が原因で死亡する人よりも、薬剤を入手できないことを理由に死亡する人のほうが多いのも事実です。このことは、有効性を失っていない薬剤へのアクセスを提供することの重要性と共に、賢明な薬剤の使用を通じて可能な限り有効性を持続させることが必要であることを示しています。

2018年以降の薬剤耐性への各社の取り組みを評価
2020年の報告書では、GSK、エンタシスおよびシプラの3社がリーダーとして上位にランクインし、そのすぐ下に高得点を得た数社が続いています。GSKはパイプライン上に最も多くの抗菌薬を持っていることに加えて、新型ワクチン開発の大部分を担っています。しかしながら、評価が引き上げられた企業がある中、GSKの評価は一部の分野において引き下げられています。スチュワードシップ対策においては、ファイザーが最も高く評価されており、同社は製薬会社として初めて、サーベイランスに関する生データを公開しています。ジョンソン・エンド・ジョンソンも前回に続きトップにランクインしており、主に結核治療薬へのアクセスを改善するための対策が評価されました。

エンタシスは、肺炎や敗血症、髄膜炎など重篤な耐性菌感染をもたらす「アシネトバクター・バウマニ」など、深刻な脅威となる細菌に特化した研究開発に注力しています。シプラは2020年の報告書において、抗生物質の販売数量と報酬を完全に切り離し、営業担当者による抗生物質の過剰な売り込みを抑制する重要な対策を講じた3社の内の1社として挙げられています。

ジェネリック医薬品企業もイノベーションおよびアクセスに参画するようになってきました。マイランは大塚製薬より、南アフリカやインドなど結核蔓延国での多剤耐性結核治療薬「ダラマニド」の販売に向けたライセンス契約を結びました。シプラはアカオジェンより抗生物質の「プラゾマイシン」を買収し、テバは価格設定およびアクセスを確保するための戦略を発表しました。

その一方で、抗菌薬の研究開発に対する資金供与を受け、研究開発に特化した中小企業やバイオテクノロジー企業も抗菌薬開発分野に参入してきました。サミットの「クロストリジウム・ディフィシル」を標的とする「リジニラゾール」など、これらの企業は最も革新的な新薬の開発に取り組んでいます。しかしこれらの企業は通常、早期段階の開発しか手掛けることができず、候補薬の開発を進展させるための投資を実行する体力がなく、プロジェクトは行き詰まりとなり、上市されない傾向にあります。

アイヤーは次のようにも述べています。「第2回のベンチマーク報告書は、業界を取り巻く実情を浮き彫りにしています。抗生物質を取り巻く状況においては、様々な進展が確認されているにも関わらず、これらの課題に取り組んでいる企業の数が限られていることから、人々の間では十分に認識されていません。これら企業の取り組みを当然のことと思ってはいけません。抗生物質やワクチンの世界的なアクセスが修復不能なまでのダメージを受けるのを防ぐことはまだ可能です」

日本とAMR
塩野義製薬の評価は2018年の報告書より上がっており、研究開発分野における強力な企業として台頭しつつあります。同社はスーパー耐性菌の「クロストリジウム・ディフィシル」を含む、最も危険な薬物耐性菌を標的とする薬剤を開発しており、研究開発への投資が医薬品関連収入に占める割合は、他の評価対象企業を上回っています。スチュワードシップにおいても、抗生物質の販売数量と報酬を完全に切り離し、営業担当者による抗生物質の過剰な売り込みの防止策を実施している数少ない企業の1社です。

大塚製薬は重要な抗結核薬を上市および開発しています。これには同社が世界30カ国で販売している、多剤耐性肺結核を標的とする薬剤、「デレティバ(Deltyba™)」も含まれます。大塚製薬はマイランとの「デラマニド」のライセンス契約を通じて、アクセスの更なる拡大にも取り組んでいます。また、大塚製薬は最も強力な薬剤耐性を示す結核菌への効果も期待される新規の結核治療薬に加えて、クロストリジウム・ディシルや緑膿菌向けの抗生物質も開発しています。

薬剤耐性ベンチマークの主な結果
  • 低・中所得国では、薬事登録の申請や供給戦略等を通じた有効で適切な抗生物質のアクセスが提供されていない。特許期間中の抗生物質に関しては、より有効なアクセスが必要とされている102カ国の内、10カ国以上で薬事登録が申請されていたのは、13品目の内わずか3品目であった。特許切れだが依然として有効な抗生物質を見た場合、低所得国へ供給されているこれらの「忘れられた」抗生物質は、30品目の内僅か14品目のみである。
  • 評価対象企業の内10社が、抗生物質の販売数量と報酬を切り離す、あるいは抗生物質の営業担当者の配置を廃止するなどの手段を講じている。これは2018年の5社から大幅に増加している。テバにおいては、抗生物質や抗真菌薬の営業担当者を設けないという、ベストプラクティスを導入している。販売数量と賞与の切り離しや営業担当者を設けないことにより、企業は抗生物質の過剰な売り込みを防ぎ、耐性を加速させてしまうリスクを低減することができる。
  • 耐性拡散の情報共有に関しても新たな基準が定められ、ファイザーはオープンアクセスでオンライン登録するサーベイランスプログラムにて、生データを初めて共有した。医療機関や政府はどこで耐性が拡散しているのかに関する情報を入手することにより、適切な治療ガイドラインを適応することが可能になる。
  • 2018年以降、上市後のアクセスと適正使用に関する計画が整っている臨床段階の候補薬剤の数は増加しており、(2018年:28品目の内2品目、2020年:32品目の内8品目)全体に占める割合も7%から25%へ拡大した。しかしながら、これらの計画の進展は依然断片的である。研究開発プロジェクトが臨床段階にある時から予め計画を立てておくことが、アクセスおよびスチュワードシップを促進させ、上市後の候補薬剤の成功に結び付く。
  • 薬剤耐性リスクを低減するための製造過程における環境リスク管理戦略は、2018年よりも包括的な内容に強化されていた。大半の企業は、比較対象基準を満たすために、外部のサプライヤーを利用している。環境に放出される工場排水は薬剤耐性菌の出現に寄与する。水や土壌に生息する細菌を抗生物質の成分に露出することにより、耐性遺伝子の出現または選択を引き起こしてしまう可能性がある。

薬剤耐性ベンチマークについて
薬剤耐性ベンチマークを発表した医薬品アクセス財団(Access to Medicine Foundation)は、オランダを拠点とする独立非営利研究財団です。低・中所得の医薬品へのアクセス向上を目指し、医薬品を手にすることができない人々のために行動を起こすよう、世界の製薬業界を促しガイダンスを提供しています。「薬剤耐性ベンチマーク2020」は、研究開発・責任製薬・適切なアクセス&スチュワードシップという3つの分野にわたる19の項目により企業を評価しています。薬剤耐性ベンチマークの評価手法は、国際的な組織、政府、非政府組織、研究所やその他薬剤耐性拡大の抑制に取り組んでいる様々なステークホルダーの協力に基づき策定されました。薬剤耐性ベンチマークは英国国際開発省およびオランダ健康・福祉・スポーツ省より資金提供を受けています。
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