【フォーラム開催レポート】「小児患者体験調査報告書」から考えるハウスの役割
病気の子どもと家族のトータルケア
病気の子どもと家族のための滞在施設を運営している認定特定非営利活動法人ファミリーハウス(東京都千代田区、理事長:江口八千代、以下「NPOファミリーハウス」)は2021年11月20日、昨年に続きオンラインでフォーラムを開催しました。
石丸紗恵先生(国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 外来研究員、Princess Máxima Center for pediatric oncology, Trial and Data Center, Clinical research fellow)のご講演と、NPOファミリーハウスの専門スタッフによる、近年のハウスの使われ方の実態報告を行い、いま私たちが果たすべき役割をあらためて確認する機会になりました。
石丸紗恵先生(国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 外来研究員、Princess Máxima Center for pediatric oncology, Trial and Data Center, Clinical research fellow)のご講演と、NPOファミリーハウスの専門スタッフによる、近年のハウスの使われ方の実態報告を行い、いま私たちが果たすべき役割をあらためて確認する機会になりました。
2022年1月31日
【フォーラム開催レポート】
「小児患者体験調査報告書」から考えるハウスの役割
~病気の子どもと家族のトータルケア~
病気の子どもと家族のための滞在施設を運営している認定特定非営利活動法人ファミリーハウス(東京都千代田区、理事長:江口八千代、以下「NPOファミリーハウス」)は2021年11月20日、昨年に続きオンラインでフォーラムを開催しました。
石丸紗恵先生(国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 外来研究員、Princess Máxima Center for pediatric oncology, Trial and Data Center, Clinical research fellow)のご講演と、NPOファミリーハウスの専門スタッフによる、近年のハウスの使われ方の実態報告を行い、いま私たちが果たすべき役割をあらためて確認する機会になりました。
石丸紗恵先生には、「『小児患者体験調査報告書』から見える患者家族ニーズ」をテーマに、小児がんとその治療の現状や、全国調査から見えてきた医療に対する評価、求められる支援などを中心にご講演いただきました。「小児患者体験調査の結果を踏まえ、教育や家族ケアを含めて、今後さらに小児がん医療の充実が図られることが期待される」ことや、「患者やそのご家族のニーズは、それぞれの地域・疾患・病状に応じて多種多様であり、いろいろな選択肢ができることがそれぞれの希望によりそうことにつながると考えられる」というお話がありました。子どもの病気の状態のみならず、年代や居住地域など、さまざまな状況に応じた患者と家族への個別のトータルケアの必要性を、あらためて浮彫りにしていただきました。
後半は、ソーシャルワーカーと看護師という専門職でもあるファミリーハウスのスタッフから、ハウスを利用した方の事例を通じ、現在のハウスの使われ方を紹介。より重篤な症状の子どもが医療ケアを受けながら家族と過ごせる「理想の家」の必要性を伝え、最後に、医療従事者からの応援メッセージも配信しました。
1.【基調講演】「小児患者体験調査報告書」から見える患者家族ニーズ
国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 外来研究員
Princess Máxima Center for pediatric oncology, Trial and Data Center, Clinical research fellow
石丸紗恵先生
小児がんとは?
初めに、小児がんについての基礎知識を大人のがんと比較しながらご説明くださいました。第一の特徴として、大人のがんが日本人の2人に1人が一生のうちに診断される病気であるのに対し、小児がん(0~14歳)は10万人あたり12.3人(2009-2011年データ)と、罹患率の低い病気であることが挙げられます。また、内訳として最も多いのが、白血病、リンパ腫といった、いわゆる血液のがんと呼ばれるものであることも、大腸がんや胃がんが上位にくる大人のがんとは大きく異なっています。世界を見ると、WHOが、世界の小児がんの生存率を引き上げる目標を掲げて活動しており、また、5年生存率が80%を超える日本においても、厚生労働省の「第3期がん対策推進基本計画」で、小児がん医療の充実が重要な施策のひとつとされていると紹介してくださいました。
小児患者体験調査
次に紹介くださったのは、患者と家族の体験したがん医療の実情を把握し、がん対策推進基本計画の評価のために実施された小児患者体験調査です。小児がん患者を対象にした初めての全国調査であり、回答者や調査項目は慎重な検討を踏まえて決定されました。調査結果は、国立がん研究センター がん対策情報センターのWebサイトにて公開されていますが(参照:https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/health_s/project/pediatric/ped1.html)、ご講演の中では、小児がんにおける、検査から、診断、治療とその後にいたるまで、患者と家族が直面するさまざまな不安や疑問と、患者が社会生活を両立するために必要な支援などについて重点的に触れられました(図1)。就学状況を見たとき、治療中に利用した就学支援制度について、高校生の回答では、「利用したものはない」が61.1%にのぼり、休学・退学率も高いことが示されました。また、患者の家族が悩みを相談する場所やサービス、社会的な理解、そして経済的支援が十分でないことも同様に、今後の課題として挙げられました。
出典:石丸紗恵先生講演資料より
具体的な患者・ご家族のニーズ:国立がん研究センター中央病院の場合
最後は、石丸紗恵先生が所属される国立がん研究センター中央病院のケースを参照しながらのお話でした。当該病院では、網膜芽細胞腫や骨軟部腫瘍、AYA世代(adolescent and young adult; 思春期と若年成人)の患者が多いという特徴があり、また治験への参加を目的にする再発・難治の患者の割合が高い傾向にあります。これらの患者は、住まいが遠方である場合も多く、経済的負担が大きかったり、家族と過ごす場を持てなかったりと、難しさを抱えやすくなります。また、AYA世代に関しては、自分の時間の確保が求められていることにも触れられました。
医療費以外に負担の大きかったもの
出典:「小児患者体験調査報告書」(国立がん研究センターがん対策情報センター)より
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【講師プロフィール】石丸 紗恵(いしまる さえ) 先生
国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 外来研究員
Princess Máxima Center for pediatric oncology, Trial and Data Center, Clinical research fellow
2006年信州大学医学部卒業。2008年から東京都立清瀬小児病院、東京都立小児総合医療センター総合診療科、血液・腫瘍科勤務。2017年から国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科、2019年から臨床研究支援部門に勤務。
既存の治療では治らない患者さんに接するうちに治療開発に関わりたいと思い、特に日本における小児薬剤開発推進のためには国際共同試験への参画や欧米における薬剤開発戦略の工夫を取り入れることが必要であると考え、2020年8月よりオランダ、ユトレヒトのプリンセスマキシマセンターに留学中。2014年より日本小児がんグループ(JCCG)急性リンパ性白血病委員会委員として活動中。
2.ファミリーハウスの新しい役割〜「理想の家プロジェクト」の必要性〜
ここでは、私たちファミリーハウスが、病院から歩いて行ける場所に、重篤な患者を受け入れる設備と体制の整ったハウスが必要であると考えるに至った経験を、現場のスタッフが二つの事例として紹介しました。
※事例はいずれも、ファミリーハウスが経験してきた複数のケースを集約したもので、特定の実例を個別にご紹介するものではありません。
事例A:地方在住の小学校高学年の子どもと家族
「はじめて子どもががんになり、進行がすすんでいて、完治できない家族」
【発表者】植田桃子 ソーシャルワーカー(社会福祉士)/ファミリーハウス ハウスマネージャ
はじめに、発熱したので地元の大学病院を受診したところ、そこでの検査でがんと判明した患児のエピソードを紹介します。かなり進行しており、医師に「ここではできる治療がない」と告げられました。東京の病院でなら治験を受けられるかもしれないとのことで、急遽、きょうだいを祖父母にあずけて両親が上京、ハウスの利用が始まりました。
初めての入院に不安がるお子さんにお母さんが付き添い、最初にハウスにお迎えしたのはお父さんでした。利用の仕方を案内していると、堰を切ったように話し始め、「正直、どうなっているのかよくわからない。夢を見ているような気持から抜け出せない。医師の説明をきいても本当はわからない、でも、質問することもできない。だけれど東京に来なければ命がないのだということはわかる。どうしてうちの子だけこんなことになったのか」と、ひどく混乱していらっしゃいました。
お父さんが仕事で地元に戻った後も、お母さんは毎日、ハウスから病院へ通います。一日二往復して、お子さんに付き添いました。このような中、不慣れな東京の交通機関を利用することなく、徒歩で病院と行き来できるハウスの存在は、わずかでも不安の軽減に役立ったと思います。
治療の効果が出て、お母さんと一緒にハウスに行くことがお子さんの入院生活での目標になりました。病室の窓から、「あの建物、きれいな大きなお部屋だよ。2部屋あるからお父さんと弟と4人で一緒に泊れるね」とお母さんが話しました。
思いつめたお母さんの表情が少しだけゆるみ、食材をどこで買えるか尋ねるようになりました。お子さんが食べられそうなものを作り、病院に持参しているようです。作ってから30分以内のものでないと持ち込めないため、病院のそばで調理する必要があります。
医師が教えてくれた外泊ができそうな時期に合わせ、家族が上京することになりました。ただ、外出か外泊かは、当日の検査結果次第です。治ったわけではないため、体調によってはすぐに病院に戻れる場所でなくてはなりません。
ハウスには感染予防のマニュアルがあり、また、治療の影響で免疫が下がっているお子さんの外泊が安全に行われるよう、病棟とファミリーハウスの看護師が予測される体調の変化を事前に共有します。ご家族とは、体調が悪化した際の手順をはじめ、車いすの貸し出し、お風呂の椅子の高さ、ベッドの配置など、詳細に打ち合わせます。ご家族にとっては、すべて初めての介護経験だからです。
治療が進み体調が安定して、幾度かハウスに外泊。地方の自宅まで帰ることが目標になりました。このころはお母さんと近くのショッピングモールまで車いすで移動できるように。楽しみを持つことは、治療の励みにもなります。しかし、地元から戻ってしばらくすると急激に体調が悪化。入院期間が長くなり、ハウスにも外泊できず外出で戻るのがやっとの状況に。病院にいるのを嫌がり、なんとか外出してきますが、緊急の呼び出しも増え、お母さんの行ったり来たりも増えました。近くなければ交通費だけでも相当の負担になっていたと、お母さんは後に感謝を述べられていました。それからほどなく、治療を打ち切り、自宅で在宅看護を選択されて戻られました。
事例B:都下在住のティーンエイジャーと家族
「6年の治療の後、自分の意思で転院してきたティーンエイジャーの患者さん」
【発表者】赤池 文子 看護師/ファミリーハウス 相談員
歩くのが難しい状態で、自宅に帰ることができず、転院前の病院でも長期の入院生活を送ってきたという患児とご家族の事例をご紹介します。長い治療期間を経て、本人もご家族も、病気のこと、余命のことは十分に受け入れられていました。ただ、このまま死ぬのを待つのは嫌だという本人の強い意志で最後まで積極的治療を望み、自分で調べて転院されました。
急変の恐れもあったため、本人も家族も転院後の環境の変化が不安でした。けれど、「病室の生活から解放されて自分の時間を持ちたい。好きにDVDを観て、普通の食器でご飯を食べたい」。病院から歩いて行けるハウスには、患者さんの希望を叶える可能性がありました。
治療の合間を見計らい、体調を整え、外出から1泊の外泊と練習を重ねて、数日間ハウスに泊まれるようになりました。ハウスに来ると気持ちも明るくなり、食べられなかったご飯も食べられるようになりました。お母さんのできたての料理をなによりも喜びました。お正月はハウスに家族全員が集まり、何年かぶりの家族だんらんを過ごすこともできました。
治療はうまくいきませんでした。しかし、自宅での介護が不安だった家族も本人も、ハウスで生活したことが自信になり、自宅に帰る選択をすることができました。最後は緊急搬送されて自宅近くの病院で亡くなりましたが、念願の自分の家に戻ることが、3日だけでしたができました。介護するご家族にとっても、ハウスでの介護の体験が自宅に戻るという選択肢を増やしたと、後にお話しくださいました。
***
ご紹介したようなケースでの経験を通じ、ファミリーハウスでは、重篤な状態の子どもが家族と一緒に過ごすことができ、通院治療はもとより看取りにも対応できる、「理想の家」の実現を目指すに至りました。
「理想の家」は、病院の至近に位置し、専用に設計された施設で、専門性のあるスタッフが常駐、さらに、病院の訪問看護や医師の往診を受けられる体制づくりを進めます。同時に、私たちが常に目指してきた“日常性の再構築”を見据え、一般の人たちの参画を促します。また、地域に対しては、共生社会への意識醸成のため、学校や企業との連携を進めることを視野に入れています。「理想の家」が他地域のモデルとなるよう取り組んでまいります。
以上
【実施概要】
イベント名:ファミリーハウス・フォーラム2021 病気の子どもと家族のトータルケア
~「小児患者体験調査報告書」から考えるハウスの役割~
開催日時:2021年11月20日(土)14:00~15:30
方法:オンライン形式・参加費無料
主催:認定非営利活動法人ファミリーハウス(2021年度競輪補助事業)
後援名義:
– 厚生労働省 – 国立研究開発法人国立がん研究センター – 東京都 – 中央区 – 公益社団法人日本小児科学会 – 公益社団法人日本看護協会 – 一般社団法人日本小児血液・がん学会 – 一般社団法人日本小児看護学会 – 特定非営利活動法人日本小児がん看護学会 – 全国病弱教育研究会
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