微生物間の会話をコントロールして害虫防除

― クオラムセンシングを活用した害虫死亡率増加剤を発見 ―

国立大学法人 静岡大学

 静岡大学農学部の田上陽介准教授の研究グループは、微生物間のコミュニケーションを利用した新しい農業害虫防除法の開発に成功しました。
 本研究は、害虫の防除において昆虫の約半数に感染しているボルバキアという細胞内共生微生物に目を付け、ボルバキア間のコミュニケーションを増強させることで、化学交信を攪乱させ、ボルバキアの密度を増加させることにより害虫死亡率を増加させることに成功しました。
 本研究で得られた研究成果は、特に害虫防除法の一つである不妊虫放飼法の際に有効であると考えています。また、ボルバキアは他の昆虫へ移植可能であり、他の様々な農業害虫、衛生害虫に対しても同様の効果が期待されます。
 なお、本研究成果は、2022年1月24日に、アメリカ昆虫学会の発行する国際雑誌「Journal of Insect Science」に掲載されました。
【研究のポイント】
●昆虫の約40%はボルバキア(図1)と呼ばれる微生物に感染しており、農業害虫のマメハモグリバエ(図2)にも感染しています
●ボルバキアを含む微生物は化学物質でコミュニケーションを行います(クオラムセンシング)
●マメハモグリバエの中のボルバキア間のクオラムセンシングをコントロールする物質(3O-C12-HSL:N-(3-オキソドデカノイル)-L- ホモセリンラクトン)を植物に散布することで、マメハモグリバエの死亡率を増加させることができました
●この物質を用いてマメハモグリバエの効率的防除が可能となります
●この手法は世界で初めて開発した画期的害虫防除法です
 


【研究概要】
農業の重要害虫であるマメハモグリバエに対して様々な化学農薬が市販されていますが、安全性の面等で懸念があります。本研究ではマメハモグリバエの細胞内共生微生物であるボルバキアに目を付けました。ボルバキアには宿主に対して様々な操作を行っていることが知られています。その中に感染オスと非感染メスとの交配でのみ子孫を残せなくする細胞質不和合という現象があります。今回の研究では微生物間のコミュニケーション(クオラムセンシング)を抑制、促進する物質を用いて細胞質不和合という現象が増強、減少するかを、マメハモグリバエが寄主とする植物に散布することで調査しました。その結果、毒性のある化学物質ではない(3O-C12-HSL:N-(3-オキソドデカノイル)-L- ホモセリンラクトン)というクオラムセンシング誘導剤の散布において死亡率を高めることができました。
 

 


【研究背景】
マメハモグリバエは世界的な農業害虫であり、様々な化学農薬が使われています。しかし、農薬の安全性、生態系への影響や害虫が農薬に抵抗性を持つなど多くの問題が指摘されています。多くの昆虫には細胞内に微生物が感染していることが知られており、特にボルバキアはほぼ半数の昆虫種に感染しているといわれています。マメハモグリバエはボルバキアに感染しており、ボルバキアに感染したオスのマメハモグリバエと感染していないメスのマメハモグリバエが交配すると子供ができにくくなります(細胞質不和合:図3)。

クオラムセンシングはいわゆる化学物質を介した微生物間のコミュニケーション手段であり、すでに様々な物質が誘導・抑制物質が明らかとなっています。しかし、これまで昆虫の細胞内共生微生物ではクオラムセンシングの誘導、抑制剤の影響は調べられていませんでした。

 

【研究の成果】
クオラムセンシングの増強・抑制剤を野外を模してマメハモグリバエの寄主植物に散布し(図4)、影響を調べました。その結果3O-C12-HSLという物質を散布することでボルバキアの相対密度が劇的に増加し(図5)、感染オスと非感染メスの交配ではマメハモグリをほぼ死滅することに成功しました(図6)。

 

 


【今後の展望と波及効果】
他の農業害虫、衛生害虫にボルバキアを移植し、クオラムセンシング誘導剤を用いて同様の効果が得られることが期待される。

 

【論文情報】
掲載誌名: Journal of Insect Science
論文タイトル:Effect of Quorum Sensing Inducers and Inhibittors on Cytoplasmic Incompatibility Induced by Wolbachia (Rickettsiales: Anaplasmataceae) in American Serpentine Leafminer(Diptera: Agromyzidae): Potential Tool for the Incompatible Insect Technique

著者:
Ardhiani Kurnia Hidayanti, Achmad Gazali, and Yohsuke Tagami
DOI: https://doi.org/10.1093/jisesa/ieab106

【研究助成】
科学研究費助成事業 19K06069

【用語説明】
マメハモグリバエ :野菜や花きの重要害虫
ボルバキア    :昆虫を中心に様々な生物の細胞内に感染している微生物
クオラムセンシング:微生物間の化学物質を介したやりとり
3O-C12-HSL   :N-(3-オキソドデカノイル)-L- ホモセリンラクトン。クオラムセンシングの誘導剤


【研究者コメント】
静岡大学農学部 准教授・田上陽介(たがみようすけ)
 昆虫と微生物間の相互作用について研究を始めてから、クオラムセンシングについては非常に興味を持っていたものの研究に着手できていませんでした。今回基礎的な研究とはなりますが重要な発見が得られ、今後はクオラムセンシング(コミュニケーション)に用いている分子や伝達経路を解明し、より効率の高い安心・安全な害虫防除法を作ることを目標としています。

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URL
https://www.shizuoka.ac.jp
業種
教育・学習支援業
本社所在地
静岡県静岡市駿河区大谷836
電話番号
054-237-1111
代表者名
日詰 一幸
上場
未上場
資本金
-
設立
2004年04月