日本人の⼦どもの12.7%が貧血疑いであることが明らかに。子どもへの鉄分補給対策を行う母親は4割にとどまる。発達への影響も。【一般社団法人ラブテリ】
第81回日本公衆衛生学会総会にて「日本人小児における血中ヘモグロビン値と関連因子」研究結果を発表
⼀般社団法⼈ラブテリ(中央区⽇本橋 代表:細川モモ、以下ラブテリ)は、聖路加国際大学大学院・大田えりか教授と共同で、まだ⽇本での研究が少ない「⼩児期の鉄⽋乏性貧血(以下貧⾎)とその後の発育との関係性」を明らかにするため、第一弾の研究・調査として、新たに開発された⾮侵襲的⾎中ヘモグロビン値※1測定機器「Rad-67」(Masimo社)を⽤いて、⽇本⼈⼩児とその⺟親、計220組の⾎中ヘモグロビン値を測定し、実態の把握と関連要因の検討を⾏いました。研究結果の一部は、10月8日~10日に山梨県およびオンラインにて開催された第81回⽇本公衆衛⽣学会総会にて、ポスター発表を行いました。
※1 ヘモグロビンは、血液中の赤血球に含まれるタンパク質であり、全身に酸素を運ぶ役割を担う。鉄分不足などでヘモグロビン濃度が低くなると、貧血症状につながる。
※1 ヘモグロビンは、血液中の赤血球に含まれるタンパク質であり、全身に酸素を運ぶ役割を担う。鉄分不足などでヘモグロビン濃度が低くなると、貧血症状につながる。
ポイント① 食事以外で子どもに鉄分を補給している母親は4割にとどまる
調査票では、子どもに食事以外で鉄分補給を実施している母親は、全体の38.2%であることがわかり、内容としては、「鉄分強化したお菓子や食品」(全体の19.1%)、次いで「フォローアップミルクの摂取」(全体の13.2%)が多く挙がりました。
ポイント② 子どもの10人に1人以上が貧血の可能性。その割合は離乳後、年齢とともに増加傾向
実際に機器を用いたヘモグロビン測定の結果では、全体の12.7%の子どもで、貧血の指標であるヘモグロビン値が基準値未満であることがわかりました。またその割合は、1歳半から5歳にかけて増加する傾向が見られました。
ポイント③ フォローアップミルクの摂取有無や家庭での食事が子どものヘモグロビン値と関係している可能性も
子どものヘモグロビン値と関連する因子としては、子どもの性別(女児でヘモグロビン濃度が低い)、喘息症状の有無、フォローアップミルクの摂取習慣の有無を確認しました。また、1歳半以上の子どもとその母親に限定した解析では、母子のヘモグロビン値に相関が見られ(子どものヘモグロビン値が高いと、母親のヘモグロビン値も高い)、家庭での食事が子どものヘモグロビン値に影響を与えている可能性も考えられます。
本研究結果などからラブテリでは、日本人の子どもにおいて貧血が重要な健康上の課題であると捉え、子どもの貧血予防・改善を目的とした非侵襲でのヘモグロビン濃度の測定機会や、家庭での食事やフォローアップミルクなど鉄分補給対策の重要性に関する情報の提供に、企業や自治体と連携して今後積極的に取り組みます。
【研究背景】
私たちラブテリは、⼦どもたちの未来の健康とよりよい社会の実現のために、日本においても早期からの栄養介入を進めていくことが重要であると考えています。⼼⾝の成⻑著しい幼児期の⼦どもたちにおける貧⾎の実態とその要因を把握し、定期的な貧⾎スクリーニングや具体的な貧⾎予防対策を社会実装していく必要性があると考え、そのもととなるデータの収集・解析に取り組みました。
貧血は乳児期から⼩児期の⾎液疾患の中で最も頻度が高く、特に離乳期に鉄分が不⾜すると、その後の脳や⾝体の発達に⻑期にわたり影響を及ぼす可能性があることが明らかになっています。この時期の栄養失調の影響は、その後どんなに栄養状態の改善を⾏っても挽回できないケースもあることも明らかになっており、子どもの将来の経済格差にも影響を与えることも報告されています(<参考>を参照)。
そのためアメリカの複数の州では、1~5歳の乳幼児健診で⾎液検査を⾏い、貧⾎のスクリーニングが実施されています。また、スーパーなどで購⼊できる⾷品に鉄を添加したり、WIC(Woman,Infants,and Children)という「妊婦と⾚ちゃんへの⾷糧⽀援プログラム」を提供するなど、貧⾎に対する取り組みが進んでいます。
⼀⽅、⽇本で子どもの貧血に関する研究は少なく、特に離乳期以降の⼦どもに関するデータは不足しています。貧⾎のチェック体制や、鉄分をはじめとした乳幼児期の栄養摂取⽀援も欧⽶に⽐べて遅れています(文献1)。その理由としては、病気のない健康な⼦どもに採⾎をして検査をするため、⼦どもへの負担が⼤きいことや、⽇本の保険制度では補えない範疇であること、マンパワーの不⾜などが挙げられています。しかし根本的には、子どもの貧血の実態やその成長への影響などに関するデータが不足しており、子どもの貧血が重要な健康上の課題であるという認識が不足しているためと考えられます。
(表)⽇本⼈乳幼児の貧⾎を調べた研究の一例
そこでラブテリでは2019年から、米国のMasimo社によって開発された、⾮侵襲的(採⾎など、痛みがあったり⼈体を傷つけたりしない⽅法)に⾎中ヘモグロビン濃度を測定できる機械を⽤いて、⽣後6ヶ⽉以降の乳幼児のヘモグロビン値チェックを開始しました。Masimo社の測定機器「Rad-67」では、体重3kg以上の⾚ちゃんから使⽤することができ※2、Rad-67による測定結果と採⾎による測定結果が子どもでも相関するという研究結果が報告されています(文献5)。本研究でもこの測定方法を用いて、母子の⾎中ヘモグロビン濃度を測定しました。
※2 ※今回研究で測定しているヘモグロビン値(SpHb)は、メーカー推奨は10kg以上の⼩児
非侵襲的ヘモグロビン測定機器「Rad-67」(Masimo社)
<参考>
■コスタリカの乳幼児を対象にした研究:1歳時点で重篤な鉄⽋乏性貧⾎であった⼦どもたちが、鉄剤の投与などにより貧⾎を改善させたにも関わらず、約10年後の検査で、算数や筆記、運動、その他認知能⼒が低かった。(文献6)
■グアテマラでの研究:(鉄分限定ではないが)2歳までに栄養改善を⾏った男性の群では、栄養改善がされなかった群に⽐べて、⼤⼈になったときの賃⾦が46%多かった。(文献7)
【研究概要】
2020年10⽉に東京都⽂京区と神奈川県川崎市、2021年12⽉に東京都豊島区と⼤阪府⼤阪市において、0歳6カ⽉以上6歳未満の⼩児とその⺟親220組を対象に研究を実施しました。母子については、身長、体重、Rad-67を用いて貧血の基準となる⾎中ヘモグロビン濃度を測定したほか、食事や睡眠などの生活習慣や健康状態、子どもの出生時の状況などを、調査票を用いて調査しました。本研究は、母子保健のスペシャリストである聖路加国際大学大学院の大田えりか教授と共同で行いました。
【研究結果】
ポイント① 食事以外で子どもに鉄分を補給している母親は4割にとどまる
調査票では、子どもに食事以外で鉄分補給を実施している母親は全体の38.2%であることがわかり、内容としては、「鉄分強化したお菓子や食品」(全体の19.1%)、次いで「フォローアップミルクの摂取」(全体の13.2%)が多く挙がりました。
ポイント② 子どもの10人に1人以上が貧血の可能性。その割合は離乳後、年齢とともに増加傾向
子どものヘモグロビン濃度の中央値は12.5g/dLであり、WHO(世界保健機構)の貧⾎判定基準(4歳以下 11.0g/dL、5歳以上 11.5g/dL)よりもヘモグロビン濃度が低かった子どもは、全体の12.7%に上りました。基準値未満のヘモグロビン濃度の⼦どもの割合は、1歳後半にかけて減少し、5歳にかけて増加する傾向でした。
ポイント③ フォローアップミルクの摂取有無や家庭での食事が子どものヘモグロビン値と関係している可能性も
多変量解析の結果、⼦どもの⾎中ヘモグロビン濃度と関連のあった因⼦として、⼦どもの性別(⼥児でヘモグロビン濃度が低い)、喘息症状の有無、フォローアップミルクの摂取習慣の有無を確認しました(図にはフォローアップミルク摂取有無によるヘモグロビン値の違いを示しました)。
また、1歳半以上の子どもとその母親に限定した解析では、母子のヘモグロビン値に相関が見られました(子どものヘモグロビン値が高いと、母親のヘモグロビン値も高い)。
【今後の展望】
本研究結果などから、10人に1人以上の子どもで貧血が疑われるという、日本人の子どもの貧血実態の一端が明らかになりました。私たちラブテリは、子どもの貧血を日本社会における重要な課題であると捉え、子どもの貧血予防・改善を目的とした非侵襲でのヘモグロビン濃度の測定機会や、家庭での食事やフォローアップミルクなど鉄分補給対策の重要性に関する情報の提供に、今後、企業や自治体と連携して積極的に取り組みます。
■参考文献
- 加藤陽子.小児と思春期の鉄欠乏性貧血.日本内科学会雑誌 99(6), 1201-1206, 2010-06-10
- 渡邊ら.乳幼児における鉄欠乏性貧血の有病率.日本公衆衛生雑誌.2002 年 49 巻 4 号 p. 344-351
- Amano and Murakami. Prevalence of infant and maternal anemia during the lactation period in Japan. Pediatr Int. 2019 May;61(5):495-503.
- Kimura et al. High prevalence of anemia in 10-month-old breast-fed Japanese infants. Pediatr Int. 2018 Jul;60(7):651-655.
- Arai Y, Shoji H, Awata K, Inage E, Ikuse T, Shimizu T. Evaluation of the use of non-invasive hemoglobin measurement in early childhood. Pediatr Res. 2022 Jul 29. doi: 10.1038/s41390-022-02204-7. Epub ahead of print. PMID: 35906313.
- Lozoff et al. Poorer behavioral and developmental outcome more than 10 years after treatment for iron deficiency in infancy. Pediatrics. 2000 Apr;105(4):E51.
- Hoddinott et al. Effect of a nutrition intervention during early childhood on economic productivity in Guatemalan adults. Lancet. 2008 Feb 2;371(9610):411-6.
■Luvtelli Tokyo&NewYorkとは 2009年の春に、予防医療・栄養コンサルタントの細川モモの呼びかけにより発⾜した⺟⼦健康推進のためのプロフェッショナルチーム。13種の医療専⾨家•博⼠が所属し、複数の⼤学や企業の共同研究• ⼤規模リサーチを⾏なっている。14年に三菱地所と⽴ち上げた「まるのうち保健室」から「働き⼥⼦ 1,000名⽩書」を発表。翌年より保健室を全国で開催し、各エリアの健康状態をまとめた⽩書を発表( https://www.luvtelli.com/よりダウンロード可能)。⼥⼦栄養⼤学との「妊婦栄養共同研究」、聖路加国際⼤学との「こども貧⾎共同研究」他、各種研究成果を精⼒的に学会•論⽂発表している。21年には6年間の調査•開発協⼒を経て⽣理⽤品No,1ブランドの「ソフィ」(ユニ・チャーム株式会社)の⽣理管理アプリを発表。ユーザーデータのビックデータ解析を通じて、⼥性のQOL向上に努めている。18年に⼈気育児雑誌が選ぶ“⼦育てによいコト”部⾨で『ペアレンティング•アワード2018』、19年に⽇本栄養⼠会より「84selection」受賞。 |
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