人文・社会科学領域の研究者を支援するアカデミックインキュベーター「デサイロ(De-Silo)」が一般社団法人化
(助成)財団、出版、コミュニティという3つの機能を通じて、研究資金の提供や、その知を社会に届けるための支援を本格化。代表理事に岡田弘太郎、理事に久能祐子、磯野真穂が就任。
人文・社会科学領域の研究者を支援するアカデミックインキュベーターとして、「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を研究者とともに探り、研究のなかで立ち現れるアイデアや概念の社会化に引き続き取り組んでいきます。
- デサイロ(De-Silo)の3つの機能
1.財団機能
財団機能では、研究資金の提供や編集者の視点からの研究への伴走により「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を研究者の皆さんと探求し、研究のなかで立ち現れるアイデアや概念の社会化を行います。
第一期のプログラムでは、4人の研究者とアーティストの協働により、その知を論文や書籍以外のオルタナティブな回路で社会に届けるサポートをします。また、今後は助成金プログラム「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」の設立や、DeSci(分散型サイエンス)の仕組みを活用した資金調達方法の構築を目指します。
研究者とアーティストの協働による「概念の社会化」
第一期のプログラムでは、人文・社会科学領域の4名の研究者の方(磯野真穂さん、柳澤田実さん、山田陽子さん、和田夏実さん)とともに、それぞれの研究テーマに基づいて「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を探求し、そのなかで出てきた知をアーティストの方とのコラボレーションによって、社会に届けていきます。
第一期に参加する4名の研究者
研究テーマ:21世紀の理想の身体
磯野真穂(いその・まほ)
人類学者。専門は文化人類学・医療人類学。博士(文学)。早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て2020年より独立。身体と社会の繋がりを考えるメディア「からだのシューレ」にてワークショップ、読書会、新しい学びの可能性を探るメディア「FILTR」にて人類学のオンライン講座を開講。著書に『他者と生きるーリスク・病い・死をめぐる人類学』(集英社新書)『なぜふつうに食べられないのか――拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界――「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、『ダイエット幻想――やせること、愛されること』(ちくまプリマ―新書)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)などがある。(オフィシャルサイト:www.mahoisono.com )
関連記事:https://desilo.substack.com/p/maho-isono-interview
研究テーマ:「私たち性 we-ness」の不在とその希求
柳澤田実(やなぎさわ・たみ)
1973年ニューヨーク生まれ。専門は哲学・キリスト教思想。関西学院大学神学部准教授。東京大学21世紀COE研究員、南山大学人文学部准教授を経て、現職。編著書に『ディスポジション──哲学、倫理、生態心理学からアート、建築まで、領域横断的に世界を捉える方法の創出に向けて』(現代企画室、2008)、2017年にThe New School for Social Researchの心理学研究室に留学し、以降Moral Foundation Theoryに基づく質問紙調査を日米で行いながら、宗教などの文化的背景とマインドセットとの関係について、何かを神聖視する心理に注目しながら研究している。
関連記事:https://desilo.substack.com/p/tami-yanagisawa-interview
研究テーマ:ポスト・ヒューマン時代の感情資本(山田陽子)
山田陽子(やまだ・ようこ)
社会学者。大阪大学大学院人間科学研究科准教授。博士(学術)。単著に『働く人のための感情資本論―パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』(青土社,2019年)、『「心」をめぐる知のグローバル化と自律的個人像―「心」の聖化とマネジメント』(学文社,2007年)、編著に『社会学の基本-デュルケームの論点』(学文社,2021年)など。社会学史学会奨励賞受賞(2007年)。社会学理論や学説を丹念に読み込みながら、フィールドワークやインタビュー調査を通して人々の生の声を聴き、近代資本主義社会と感情、自殺について研究している。
関連記事:https://desilo.substack.com/p/yoko-yamada-interview
研究テーマ:「生きているという実感」が灯る瞬間の探求(和田夏実)
和田夏実(わだ・なつみ)
インタープリター。ろう者の両親のもとで手話を第一言語として育ち、視覚身体言語の研究、様々な身体性の人たちとの協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。LOUD AIRと共同で感覚を探るカードゲーム《Qualia》や、たばたはやと+magnetとして触手話をもとにした繋がるゲーム《LINKAGE》など、言葉と感覚の翻訳方法を探るゲームやプロジェクトを展開。東京大学大学院 先端表現情報学 博士課程在籍。同大学 総合文化研究科 研究員。2016年手話通訳士取得。《an image of…》《visual creole》 "traNslatioNs - Understanding Misunderstanding", 21_21 DESIGN SIGHT, 2020
関連記事:https://desilo.substack.com/p/natsumi-wada-interview
4名の研究者による研究成果の発表及びアーティストによる作品の公開は、2023年秋〜冬頃を予定しています。後述の情報発信プラットフォームにてその経過報告をしていきます。ご関心のある方はぜひフォローしてください。
アカデミックインキュベーター・プログラムによる研究者への支援
4名の研究者だけではなく、より幅広い研究者の方を支援するための助成金プログラム「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」の運営に取り組みます。編集者のサポートによる知のアウトリーチや出版の支援、他領域の研究者・クリエイターとの対話機会の提供、また研究者のアウトプットに対して適切な経済的報酬が付与される新しい経済循環の構築を試みていきます。
DeSciの仕組みを応用した資金調達の実験
持続的な研究活動のためには「資金調達」やファンドレイズは欠かせません。助成金も含めてさまざまな取り組みが行われてきましたが、デサイロではWeb3のテクノロジーやブロックチェーンを用いて現代科学が抱える諸問題を解決しようとする「DeSci(分散型サイエンス)」の仕組みを応用した資金調達にも取り組みます。現在はアドバイザーである濱田太陽さんとともに、その可能性について、探索しています。
関連記事:https://desilo.substack.com/p/alternative-research-funding-vol1
2.出版機能
出版機能では、ニュースレターの発行や書籍の出版、イベントの開催等を通じて、研究者の知を社会に届けていきます。
ニュースレターでの知の発信
ニュースレタープラットフォームSubstackやSNSを利用した情報発信に取り組んでいます。研究者の皆さんの研究を「いま私たちはどんな時代を生きているのか」というデサイロの独自の視点や編集的観点から読み解き、社会へと届けていきます。
■Substack
https://desilo.substack.com
https://twitter.com/desilo_jp
https://www.instagram.com/desilo_jp/
De-Silo Publishingの運営
編集者のサポートによるアカデミアの知のアウトリーチの一環として、アカデミックインキュベーター・プログラムの採択研究者による研究成果を一般書にまとめる出版部門「De-Silo Publishing」を立ち上げる予定です。
3.コミュニティ機能
オンライン/オフラインの交流の場をつくることで、学際的な知が結集するコミュニティをつくります。
オンラインコミュニティの運営
Discordを用いて、人文・社会科学領域の研究者の方を対象としたコミュニティを運営しています。助成金プログラムや、現行のアカデミアの仕組みの外側で研究する方々の実践などについて、コミュニティ内で情報を提供していきます。また、それぞれの研究領域の垣根を超えたネットワークの場や、分野横断的にアカデミアの未来について議論する場としても運用していきます。
■Discord
https://discord.gg/ebvYmtcm5P
知が蓄積されていく新しい拠点づくり
都内のオフィスなどを利用した、学際的な知が蓄積されていく新しい拠点づくりに取り組んでいきます。オフィスでは、デサイロに参画いただいている研究者の方による研究会やワークショップの開催。セミオープンのブックライブラリーを併設する予定です。
※活動拠点となるオフィスについては現在準備を進めております。
- 一般社団法人デサイロのミッション
この問いを研究者の皆さんと考えていくために、デサイロは始まりました。人文や社会科学の領域における研究のなかには、いまの社会から一定の距離を置き、社会を相対化しながらも真理を探ろうとする営為があります。研究を通じてでしか気づくことができない現代社会における諸問題や、時代を読み解くための補助線となるアイデアや概念が存在するはず──。こうした課題意識のもとで、研究者の方々とともに時代を読み解くための新しい「言葉」と「コンセプト」を探して社会へと届けていくこと(=概念の社会化)が、デサイロのミッションです。「概念の社会化」に向け、デサイロでは次の2点を重視しています。
1.「自前の思想」を立ち上げる
「概念の社会化」に向けたアプローチとして、現場(=フィールドの知)を研究者の方が思想として編み上げ、社会に介入していく「自前の思想」を重要視したいと考えています。「自前の思想」とは、関西大学特任教授の清水展さんと九州大学准教授の飯嶋秀治さんが編者を務めた『自前の思想: 時代と社会に応答するフィールドワーク』にて語られた概念です。人々の生活の場に身を置き、彼/彼女らが生きる社会文化や政治経済の文脈を理解した上で、ときには現場に介入していく──。デサイロでは「自前の思想」を編みあげつつ、その知を頼りに現場や社会に介入していった偉大な先人たちの実践を踏まえながら、独自の思想を編もうとする研究者をサポートします。
2.学際的な知が生まれる場づくり
学際的な視点をもつ研究者の皆さんが集い、議論することで自らの思想を深めていく場をオーガナイズすることも重視しています。「ised」や「東京財団仮想制度研究所」といった00年代から10年代にかけての偉大な取り組みをモデルケースに、研究者の皆さんが集い、議論することで自らの思想を深めていく場をつくるだけではなく、そこから立ち現れていく概念や時代を捉えるキーワードを皆さんに届けていくパートまで伴走していきます。
関連記事:https://desilo.substack.com/p/outlook-for-2023
- 理事からのメッセージ
デサイロ代表理事 岡田弘太郎からのコメント
昨年10月に立ち上げた「デサイロ」の一般社団法人としての登記が完了しました。デサイロでは、財団機能を通じて、人文・社会科学領域の研究者の方々に資金を提供し、研究を通じて立ち現れた「自前の思想」を出版機能を通じて社会に届け、その過程でデサイロの周辺に集まってくれた人たちとのコミュニティを組成し、そのコミュニティに属する研究者を財団機能を用いて支援する……財団、出版、コミュニティの3つの機能を用いて、そんな生態系をつくりたいと考えています。
研究と社会の間に立ち、「生産的相互作用」を生むこと。そして、研究者による持続可能な研究活動のためのシステムやプラットフォームをつくること──。こうしたミッションの実現に向けて活動を本格化していきます。2023年には、研究者の持続的な研究活動を支援する助成金プログラム「デサイロ アカデミックインキュベータープログラム 2023」のリリースや、第1期プログラムの成果発表などを予定しています。ぜひご期待ください。
関連記事:「研究」と「社会」をつなぐ“編集者”という触媒──一般社団法人デサイロ設立に寄せて
https://desilo.substack.com/p/established-general-incorporated-association
デサイロ理事 久能祐子からのコメント
今回スタートする「デサイロ」プロジェクトは「アカデミアが社会に果たす役割とはなにか」「なぜアカデミアを社会が支えなければならないのか」を一から考え直すことを目指しています。
アカデミアの衰退や行き過ぎた専門化は社会にとってマイナスになるだけでなく、そこに人生をささげ孤独な闘いを続けている若手・気鋭の研究者のエネルギーを奪っているのではないかとすら感じます。論文数や経済的リターンにだけ評価を求めるのではなく、そもそもアカデミアでなければ気づかない問題や新しいアイデア・発見を「時代」として切り取り、社会と共有することによって個・社会・世界(地球)のトリレンマへ挑戦する勇気と希望を創り出すことを期待しています。
個人のアイデアやテクノロジーからスタートする起業や起業家が、イノベーションを加速することは既に多くの人が認識するところです。その成長を支える仕組みであるインキュベーターも多くの成功例を出しています。アカデミアにおいても、特に人文・社会系研究者が「デサイロ」を通してまるで起業家がスタートアップを作るように、気鋭の研究者が独自のアイデアや概念を披露し、セレンディピティを触媒する場、如いてはその実践の仕組みをつくるプラットフォームとなることを期待します。
誰も予測できない未来を目の前にしている我々にとって今ほどイノベーティブなビジョンを必要としている時代はないでしょう。それと同時に、個々の研究者が持っている感覚やアイデアを異なる背景を持つ研究者と出会うことで大きなビジョンとして醸成していくこともできると考えています。
デサイロ理事 磯野真穂からのコメント
アカデミア、特に人文・社会科学の世界は、研究者が大学の常勤職員であることが前提となってデザインされています。常勤職になると生活は安定し、研究費も取りやすくなるけれど、そのトラックに乗れないと生活自体が不安定になる──ずいぶんな格差社会です。これをそうなった個人の能力に帰する人々も一定数存在します。しかし人文・社会科学系の常勤ポジションが実数として減っている中、この状況を個人の能力にだけ還元させることには無理があるのでしょう。大学常勤職以外に生き延びる道がない世界は、多様でインクルーシブな社会とは真逆のはずです。また学問として評価される研究がサイロ化し、その外側の世界と乖離する様子は人文・社会科学も同様です。
このような問題意識を持つ研究者は大学の内外にいます。しかし、それを跳躍板とした、新たなエコシステムの構築・実装は未だ途上のステージにあり、デサイロはそこに参画をします。デサイロが人文・社会科学を志す研究者の飛躍の場となれるよう、人文・社会科学を触媒とした新たな出会いの場を作り出せるよう尽力したいと考えます。
- 運営メンバーのご紹介
岡田弘太郎(おかだ・こうたろう)
編集者。一般社団法人デサイロ(De-Silo)代表理事。『WIRED』日本版エディター。クリエイティブ集団「PARTY」パートナー。スタートアップを中心とした複数の企業の編集パートナーを務める。研究者やアーティスト、クリエイター、起業家などの新しい価値をつくる人々と協働し、様々なプロジェクトを展開。そうした人々と社会をつなげるための発信支援や、資金調達のモデル構築に取り組む。1994年東京生まれ。慶應義塾大学にてサービスデザインを専攻。Twitter: @ktrokd
久能祐子(くのう・さちこ)
社会起業家、フィランソロピスト。京都大学工学部で学部、修士、博士課程を修了。1982年に京都大学工学博士を取得する。バイオベンチャーの共同創業者兼CEO等として、日米で研究開発、会社経営を経験。これらの事業を通して、1994年に世界初のプロストン系緑内障治療薬を商品化に成功。その後、2006年には慢性特発性便秘症及び過敏性腸症候群治療薬-クロライドチャネルオープナーの商品化にも成功した。2012年には、新型ワクチン開発を目指すVLPセラピューティクスを、2014年には、滞在型社会起業家インキュベーターHalcyonを、2017年には、滞在型企業内起業家支援インキュベーター、フェニクシーを共同創業した。現在は、ワシントンDCで社会起業家、フィランソロピストとして活動している。京都大学理事(2022年9月30日まで)のほか、ジョンズホプキンス大学医学領域評議員、ヘンリー・L・スティムソンセンター理事、お茶の水女子大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の評議員も務める。
その他の運営メンバーのプロフィールは下記のURLよりご覧ください。
https://desilo.substack.com/about
プログラムへのお問い合わせやコラボレーションのご相談については、下記メールアドレスにご連絡ください。
De-Silo事務局:
E-Mail:contact@de-silo.xyz
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像