TNFDアーリーアダプター50社を分析、企業価値との有意な関係は確認されず 福田総合研究所が企業向け研究レポートを公開

日本企業100社を比較。「登録」だけでなく、自然資本への実質的な取り組みと情報開示の質に注目

株式会社福田総合研究所

株式会社福田総合研究所(東京都中央区、代表取締役:福田徹)は2026年9月1日、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応と企業価値との関係を分析した企業向け研究レポート、

「TNFDに対応するだけで企業価値は高まるのか―日本企業100社の分析から見えてきた『登録』より『実質』の重要性―」

を公開しました。

本レポートでは、日本企業のTNFDアーリーアダプター50社と、業種・企業規模が近い非アダプター企業50社の計100社を対象として、企業価値の代理指標であるTobin's Qなどを比較しました。

分析の結果、TNFDアーリーアダプターであること自体と企業価値との統計的に有意な関係は確認されませんでした。一方、TNFDアーリーアダプター企業では、Tobin's Qのばらつきが非アダプター企業より小さいという特徴も確認されました。

本レポートでは、こうした分析結果を踏まえ、企業のTNFD対応について、単なる「登録・賛同」にとどまらず、自然への依存・影響の把握、リスク・機会の評価、KPIの設定、さらに経営戦略やガバナンスへの統合へと進めていくことの重要性を提言しています。

 ■ 研究レポートのポイント TNFDアーリーアダプター50社と、業種・企業規模が近い非アダプター50社の計100社を比較 Tobin's Qの平均は、アーリーアダプター1.17、非アダプター1.37 回帰分析では、TNFDアーリーアダプターであること自体と企業価値との統計的に有意な関係は確認されず 一方、Tobin's Qの標準偏差はアーリーアダプター0.46、非アダプター0.88 今後は「TNFDに対応しているか」だけでなく、LEAPアプローチに基づく具体的な取り組みやKPIなど、開示の実質・質に注目する必要性

研究では、アーリーアダプター50社と非アダプター50社を比較し、平均Tobin's Qは1.165対1.372、標準偏差は0.457対0.877という結果でした。

 ■ 結果1 「TNFDアーリーアダプター=企業価値が高い」とは確認できず 

今回の研究では、TNFD公式サイトに掲載された日本企業のアーリーアダプターのうち、分析可能な上場企業50社を対象としました。

さらに、それぞれの企業について、原則として同一業種で企業規模が近い非アダプター企業を選定し、50社の対照群を設定しました。

企業価値の代理指標としてTobin's Qを用いて比較した結果、平均値は、

TNFDアーリーアダプター:1.17

非アダプター:1.37

となりました。

図1 TNFD対応の有無とTobin's Q平均

さらに、企業価値に影響を与える収益性を考慮した回帰分析では、ROEとTobin's Qとの間には統計的に有意な正の関係が確認されました。

これに対して、TNFDアーリーアダプターであることを示すTNFDダミーについては、統計的に有意な影響は確認されませんでした。

したがって今回の分析対象企業・対象期間では、TNFDへの早期対応やアーリーアダプターであることだけで企業価値が高まっているとは確認できませんでした。

 

■ 結果2 アーリーアダプター企業では市場評価の「ばらつき」が小さい 

一方、Tobin's Qの標準偏差には違いがみられました。

TNFDアーリーアダプター:0.46

非アダプター:0.88

となり、今回のサンプルではアーリーアダプター群の標準偏差は非アダプター群の約半分でした。

図2 Tobin's Qのばらつき(標準偏差)

これは、今回の分析対象において、TNFDアーリーアダプター企業の市場評価が比較的狭い範囲に分布していたことを意味します。

自然への依存や影響、自然関連リスクなどについて企業が情報を開示することが、投資家の情報不足や不確実性の低減に寄与している可能性も考えられます。

ただし、本研究は主として単年度のクロスセクション分析であり、標準偏差の違いから「TNFD対応によって市場評価の変動が低下した」という因果関係を示すものではありません。

 ■ 「TNFDに対応したか」から「何を実行し、何を開示したか」へ 

TNFDが推奨するLEAPアプローチでは、

Locate:自然との接点を把握する
Evaluate:自然への依存と影響を診断する
Assess:自然関連のリスクと機会を評価する
Prepare:対応策を策定し、開示につなげる

という一連のプロセスが示されています。

企業が自社と自然との関係を具体的に把握し、自然関連リスク・機会を評価するとともに、定量的なKPIを設定し、経営戦略やガバナンスへ組み込むことが重要です。

図3 形式的な対応から、実質を伴うTNFD対応へ

今回の研究では、企業の統合報告書やサステナビリティ関連資料について、LEAPアプローチの実践度を評価しました。

今後は、「TNFDに対応しているか」という形式面だけでなく、「具体的に何を実行し、どのような情報を開示しているのか」という実質面にも目を向ける必要があると考えられます。

なお、本研究だけで「開示の質が高ければ企業価値が上昇する」という因果関係を確認したものではなく、この点については今後さらに検証を進めます。

 

■ 福田総合研究所から企業への5つの提言 

1.TNFDへの登録・賛同をゴールにしない

登録や賛同表明はスタート地点であり、その後の具体的なリスク管理や事業戦略への反映が重要です。

2.自社と自然との接点を具体的に把握する

事業拠点、原材料、製造工程、サプライチェーンなどを通じ、自社がどの自然資本に依存し、自然にどのような影響を与えているのかを把握します。

3.リスクだけでなく事業機会も評価する

自然関連リスクへの対応だけでなく、ネイチャーポジティブへの移行による新商品・サービス、調達改革、競争優位などの機会についても検討します。

4.具体的・定量的なKPIを設定する

方針や取り組みの説明だけでなく、進捗を継続的に測定できるKPIや目標を設定し、その結果を開示することが重要です。

5.自然資本を経営戦略・ガバナンスに組み込む

自然資本を環境・サステナビリティ部門だけの課題とせず、取締役会、リスク管理、投資判断、事業戦略と結び付けていくことが求められます。

 ■ 「企業価値を上げる開示」だけでなく「企業価値を守る開示」へ 

企業の情報開示については、「開示すれば株価や企業価値が上がるのか」という観点で議論されることがあります。

しかし、自然資本のように将来の不確実性が大きい領域では、それだけで開示の意義を評価することは十分ではありません。

企業が、

「自社はどのような自然資本に依存しているのか」

「どのようなリスクを認識しているのか」

「そのリスクにどう対応するのか」

を投資家に説明すること自体が、企業の将来リスクを理解するための重要な情報になります。

その意味では、TNFDを、

「企業価値を上げるための開示」だけでなく、「企業価値を守るための開示」

として捉える視点も重要だと考えています。

 

■ 研究者コメント 

株式会社福田総合研究所
代表取締役 福田 徹

「今回の研究で注目したいのは、TNFDアーリーアダプターであること自体と企業価値との有意な関係が確認されなかった点です。TNFDへの対応が広がること自体は重要ですが、企業にとっては『対応しました』『登録しました』という形式だけで十分とは限りません。一方、今回の分析では、アーリーアダプター企業で市場評価のばらつきが小さいという特徴もみられました。自然資本について投資家が判断できる情報を提供することには、企業を取り巻く不確実性を小さくする役割がある可能性があります。今後重要になるのは、自然との接点を把握し、リスクと機会を分析し、KPIを設定し、それを経営戦略やガバナンスに結び付けることです。

TNFD対応も、これからは『対応しているか』ではなく、『何を実行し、何を開示しているかが問われる段階に入っていくと考えています。」

 

■ 研究概要 

研究テーマ
生物多様性への取り組みが企業価値に与える影響
―TNFDアーリーアダプターの検証―

分析対象
TNFDアーリーアダプター企業50社
業種・企業規模が近い非アダプター企業50社
合計100社

主な分析対象期
2025年3月期または直近決算期

企業価値指標
簡易Tobin's Q

主な分析方法
ペア比較、記述統計、OLS回帰分析等

本研究の基礎となった研究成果は、2026年6月28日に開催された日本ファイナンス学会第34回大会で発表しました。

今回9月1日に公開した企業向けレポートは、その研究成果を企業の経営者、経営企画、IR、サステナビリティ担当者等に向けて、実務的な観点から分かりやすく再構成したものです。

※本研究は対象企業・対象期間に基づく分析であり、TNFD対応と企業価値との一般的な因果関係を断定するものではありません。

 

■ 研究レポート全文 

「TNFDに対応するだけで企業価値は高まるのか―日本企業100社の分析から見えてきた『登録』より『実質』の重要性―」

公開日:2026年9月1日

掲載先:株式会社福田総合研究所ウェブサイト

URL:https://www.fukuda-ir.jp/archives/2297

 ■ 株式会社福田総合研究所について 

株式会社福田総合研究所は、IR・情報開示、サステナビリティ、企業価値等に関する調査・研究、コンサルティング等を行っています。

会社名: 株式会社福田総合研究所
代表者: 代表取締役 福田 徹
所在地: 〒103-0027 東京都中央区日本橋1-2-10 東洋ビル3F
Webサイト: https://www.fukuda-ir.jp/
TEL: 03-4588-6706
お問い合わせ: info@fukuda-ir.jp

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会社概要

株式会社福田総合研究所

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業種
サービス業
本社所在地
東京都中央区日本橋1-2-10 東洋ビル
電話番号
03-4588-6706
代表者名
福田 徹
上場
未上場
資本金
1000万円
設立
2005年05月