新たな前立腺肥大症に対する低侵襲手術「経尿道的前立腺吊上術(ウロリフト)」とは?
〜日本初*のウロリフト前向き介入研究による手術成績の報告ならびに手術手技の工夫〜
*テレフレックスメディカルジャパン株式会社調べ
ウロリフトの前向き介入研究データの報告で、50症例の前立腺体積の中央値は42mL、手術時間の中央値は20分、インプラント本数の中央値は5本でした。手術後、発熱や止血術を要する出血はなく、全例において、予定通り1泊2日で退院されました。排尿に関するスコア(国際前立腺症状スコア)ならびにQOLスコア、最大尿流率、残尿量は、手術後1か月および3か月において手術前の値と比較して有意な改善がみられました。
手術方法別で解析したところ、前立腺部尿道腹側を開大させるリフト位置において、手術後1か月から早期に有意な最大尿流率の改善を認め、ウロリフトは前立腺部尿道の腹側を開大させることが手術後早期の排尿改善に有効な可能性を示しました。
今後ますます増加が予想される前立腺肥大症に対する低侵襲手術としてウロリフトが有効であることを示し、SDGsの「すべての人に健康と福祉を」に貢献します。
本研究成果は、2024年4月16日付けで国際専門誌「International Journal of Urology」に掲載されました。
https://doi.org/10.1111/iju.15461
【発表のポイント】
世界では2011年に前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺吊上術(ウロリフト)が開始され、日本では2022年4月に保険収載されました。
本研究は、日本初のウロリフトの前向き介入研究であり、症例数は50例、手術時間の中央値は20分、手術成績は良好で合併症も少なかったです。
従来の前立腺肥大症手術では、前立腺部尿道の背側を開大させることが手術のコンセプトでしたが、ウロリフトでは、前立腺部尿道の腹側を開大させることが手術後早期の排尿改善に有効な可能性を示しました。
【研究背景】
超高齢社会といわれる日本において、男性の前立腺肥大症注1,2)は罹患率の高い疾患です。加齢とともに大きくなった前立腺は、内側を通る尿道を圧迫します。その結果、尿が出にくくなる、出し切れなくなるといった排尿障害や、尿を溜めにくくなる蓄尿障害を引き起こしやすくなります。60代の約40%、80代の約80%が前立腺肥大症であり、年齢を重ねるにつれ、患者数が増加しています。
前立腺肥大症の新たな低侵襲手術の1つとして開発されたウロリフトは、アメリカやヨーロッパでは既に10年以上前から実施されています。現在アメリカでは、年間70,000件程度、世界では累計48万件が施行されています。短時間での手術と、短期間の入院が特徴です。日本では2022年4月に保険収載され、これまで高齢や併存疾患などにより前立腺肥大症の手術が困難な方に対して保険適応となり、日本では2年間でウロリフト約2,500件が施行されました。しかし、症例数はまだ少なく、日本から単施設の前向きデータとしてまとまった数の報告は今までありません。
【研究内容】
本研究は、2022年4月に保険収載された経尿道的前立腺吊上術(ウロリフト)の初期成績を報告しました。
50症例の前立腺体積の中央値は42mL、手術時間の中央値は20分、インプラント本数の中央値は5本でした。手術後、発熱と止血術を要する出血は0例であり、ヘモグロビン低下の中央値は1.0g/dL、CRP注3)(炎症を示す値)上昇の中央値は0.1mg/dLと大きな変化はみられませんでした。手術前に尿閉注4)(尿が出ないためカテーテルを使用していた症例)を認めた4例(8%)を含め、全例において、手術後自力で排尿できるようになりました。また、手術翌日には予定通り、1泊2日で退院できました。排尿に関するスコア(国際前立腺症状スコア)ならびにQOLスコア、最大尿流率、残尿量は、手術前の値と比較して有意に改善し、とくに残尿量は、手術前の中央値100mlが、手術後1か月の中央値は18ml、手術後3か月の中央値は0mlとなりました。
手術方法別でサブグループ解析を行ったところ、尿道腹側を開大させるリフト位置においては、手術後1か月の早期から有意な最大尿流率の改善を認めました。
ウロリフトは、超高齢社会の日本において、前立腺肥大症に対する低侵襲内視鏡手術の1つとして有効であると考えられました。
本研究は、日本初のウロリフトの前向き介入研究データであり、手術が低侵襲でありながら、手術後排尿状態の改善ならびに合併症が少ないことを明らかにしました。
【今後の展望】
本研究により、前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺吊上術(ウロリフト)は有効で、合併症の少ない手術の1つと考えられました。今後は、適正使用指針注5)で適応となる患者さまに対する低侵襲内視鏡手術の1つとして普及、拡大する可能性があります。尚、本研究は手術後3か月までの評価であるため、今後は、長期の経過報告が必要と考えられます。
【用語説明】
注1. 前立腺; 前立腺は男性にのみ存在する生殖に必要となる臓器で、前立腺液とよばれる精液の一部を作ってい ます。膀胱の出口あたりに位置し、尿道を取り囲むように存在しています。
注2. 前立腺肥大症; 加齢とともに前立腺内腺の細胞数が増え、肥大化する疾患。
注3. CRP; C-reactive protein、炎症や細胞破壊が起きると増えるたんぱく質。
注4. 尿閉; 膀胱を完全に空にすることができず、排尿が途中で停止する状態。
注5. 適正使用指針; 日本泌尿器科学会と日本排尿機能学会および日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会が定めたウロリフトの適正使用に関するガイドライン。前立腺肥大症に対する手術療法の適応のうち、全身状態や手術侵襲を考慮して、従来の手術療法が困難な症例とされています。
【論文名】
Initial outcomes and surgical techniques of prostatic urethral lift for benign prostatic hyperplasia
in Japan
(日本での前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺吊上術の初期成績と手術テクニック)
掲載誌:International Journal of Urology
【著者名】
Go Anan*, Kanya Kaga, Yosuke Fujishima, Hidero Minami, Thomas Mueller, David Sussman
*責任著者
【本件に関するお問い合わせ先】
<研究に関すること>
四谷メディカルキューブ
泌尿器科 科長 阿南 剛
TEL:03-3261-0401(代表) E-mail:g-anan@mcube.jp
千葉県立佐原病院
医療局診療部泌尿器科 加賀 勘家
TEL:0478-54-1231(代表)
岩手県立磐井病院
泌尿器科長 藤島 洋介
TEL:0191-23-3452(代表)
公立つるぎ病院
泌尿器科 部長 南 秀朗
TEL:076-272-1250(代表) E-mail:info@tsurugihp.jp
<機関窓口>
四谷メディカルキューブ
経営管理部 広報担当 島津・永田
TEL:03-3261-0401(代表) FAX:03-3261-0402
E-mail:pr@mcube.jp
千葉県立佐原病院
事務局局長 矢野
TEL:0478-54-1231(代表) FAX:0478-54-4497
岩手県立磐井病院
事務局次長 荒川
TEL:0191-23-3452(代表) FAX:0191-23-9691
E-mail:EA1007@pref.iwate.jp
公立つるぎ病院
総務部総務課 吉田
TEL:076-272-1250(代表) FAX:076-272-3144
E-mail:info@tsurugihp.jp
図1: 経尿道的前立腺吊上術(ウロリフト)での内視鏡操作
(a)手術前の前立腺部尿道:尿道が閉塞している
(b)膀胱内から前立腺尿道に戻る際の内視鏡機器の動かし方(前立腺左葉)
(c)左膀胱頸部での1本目のインプラント
(d)膀胱内から前立腺尿道に戻る際の内視鏡の動かし方(前立腺右葉)
(e)右膀胱頸部に留置された2本目のインプラント
(f)3番目のインプラント:前立腺部尿道手前(左葉)
(g)4番目のインプラント:前立腺部尿道手前(右葉)
(h)インプラント留置後の前立腺部尿道:尿道が開大している
*: 前立腺、白矢印:内視鏡機器の圧迫方向
図2: 経尿道的前立腺吊上手術前後の国際前立腺症状スコア、QOLスコア、最大尿流率、残尿量の変化
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