ChatGPTによる人的資本開示全件調査!生成AI×人間が上場企業4000社の人的資本開示を徹底レビュー
~#2 人的資本開示の好事例企業を徹底解説!好事例企業の共通点とは~
全体サマリ
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日経225のうち、AIと人間が共に最高点をつけた6社が共通して際立っていたのは「具体性」、「戦略との連動性」、「独自性」の3点。
具体性の観点では、どのような人材を、いつまでに、どのような体制・方法で、どれだけ育成・確保するかを明確に言及できているかが重要。(5W1H)。
戦略との連動性の観点では、事業戦略側も人材(財)戦略との“つながり”が伝わるように、
読んでわかる解像度で表現されているかが重要。(それが独自性にも寄与)
本編
本レポートでは、2023年度の決算期にあたる有価証券報告書が出揃ったこのタイミング(2024年7月)で、上場企業4,000社の人的資本情報の開示スコアをChat GPT(AI)およびコンサルタント(人間)の両者が全件チェックを行い、結果を考察します。
前回のレポートでは、速報として日経225銘柄に選定されている各社に対して全体的な傾向と、スコアの分布についてレビューを行いました。
第1回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000145475.html
連載2回目となる本レポートでは、前回のレポートにて取り上げた人間(コンサルタント)、ChatGPT(AI)の両者が最高得点を付けた6社(※)を中心に好事例企業についてのレビューを行います。
※東急不動産HD・旭化成・日立製作所・日本航空・東京電力HD・NTTデータグループ
今回の調査では、5つの視点(人的資本のKPIの網羅性、KPIの年度カバー、取り組みの具体性、戦略との連動性、独自性)でスコアリングを行いましたが、特に6社が共通して際立っていた「取り組みの具体性」、「戦略との連動性」、「独自性」の3点にフォーカスしてレビューを行います。
【取り組みの具体性】
今回得点が伸びなかった多くの有価証券報告書では、人事施策に関して「XXに向け、XXの人材(財)の育成と確保に取り組んでいる」といった施策の狙いや概略しか記載されていなかったり、「XXの組織風土の醸成に向けてXXに取り組む」といったように施策タイトルの言及のみに留まる企業が散見されました。
一方、今回とりあげた6つの企業では、人事施策に関してどのような人材を、いつまでに、どのような体制・方法で、どれだけ育成・確保するかを明確に言及しており、読み手である投資家向けに、企業がどれほど具体的に施策を推し進めようとしているかを示していることが伺えました。
例えば旭化成では新規事業創出に向けたプロフェッショナル人財の育成に関して、NTTデータグループに関してはコンサル人財の強化に関して、ただ単に施策の内容について触れているのではなく、その取り組みの背景も含めて丁寧に言及されているのが把握できます。
上記は「取り組みを行っている かつ 積極的に開示している」例であり、実際に開示していない企業が取り組みを進めていない、というわけではありませんが、仮に取り組みを行っていたとしても開示していなければそれを伺い知ることはできない(投資家への訴求が出来ない)ということを認識しておく必要があります。
【戦略との連動性】
次に、仮に人材戦略や人材施策だけを詳細かつ具体的に開示していたとしても、企業の成長戦略に各種人材施策がどのように寄与するのかの連動性が明確でなければ、企業価値をうまく伝えることはできません。
読み手に伝えるべきは、施策の内容以上にどのように人的資本が充実し、それがどのように事業に寄与するかの結果であるため、事業戦略の記載に関しても、人材(財)戦略との“つながり”を意識した、一歩踏み込んだ内容の記載が求められます。
お手本となる例として、日立製作所では有価証券報告書の中で経営戦略と人材戦略の具体的連関を示した図を掲載することで、両者の“つながり”を明確に示しています。
東急不動産HDについても、経営戦略と人材戦略の具体的な連関を一表にはまとめてはいませんが、人材(財)戦略の説明の中で、事業戦略に関して記述するなど、両者の“つながり”を示そうという姿勢がくみ取れます。
このように有価証券報告書の中で経営戦略や事業戦略と人材戦略の“つながり”を明示していくと、市場において多くの目にさらされ、より具体的な説明を求められたり、指摘を受ける可能性があります。
しかし逆から言うと、ステークホルダーの様々な意見や指摘を受けながらも、自社の成長のために、人的資本経営に取り組もうとする企業の“覚悟”を示した好事例であり、このような企業が増えていくことが期待されます。
■株式会社日立製作所
【経営戦略と連動した定性的・定量的な施策・KPI】
■東急不動産ホールディングス株式会社
【人的資本経営の考え方】
【独自性】
今回取り上げた6社は、どの企業も共通して、他社との差別化につながるような自社特有の「KPIの設定」や「人事施策」を実施しています。
例えば、東急不動産HDでは、Group VISON 2030にて「稼ぐ力と効率性向上」や「新領域での事業育成」といった事業戦略を掲げ、その実現に向けた一つの要素としてイノベーティブな組織風土の醸成に取り組んでいます。そして、独自KPIとして社内ベンチャー制度による事業化件数を掲げており、将来の目標についても明確にしています。
日立製作所では、社会イノベーション事業のグローバル展開を事業方針として掲げており、実現施策としてグローバルでの経営リーダーの育成に取り組んでいます。そして、独自KPIとして役員層における外国人比率を掲げており、将来の目標についても具体化しています。
人的資本開示の取り組みにおいて、多くの企業が「他社と差別化された独自の指標」の検討に頭を悩ませていますが、「戦略実現に向けて、どのような人材が必要で、どのような施策や指標が必要か」という順番で考えることが重要です。
人的資本において開示すべき指標は、多くの企業をカバーするための最大公約数を取り上げていますが、今回取り上げた6社においては、個社別の事業や戦略を踏まえて必要な指標を足したり引いたりして独自の指標体系を作り上げています。このように、フレームワークや独自性をどう出すかといった起点ではなく、戦略に向き合うことこそが、結果として他社との差別化要素にになってくるでしょう。
総括
ここまで、本調査を通じて抽出された人的資本開示の好事例の企業をご紹介してまいりましたが、有価証券報告書の人的資本開示において重要な要素は以下の2点に集約されます。
①人的資本の取り組みに関する具体的開示
・人的資本に関する施策を、施策の狙い、目標、実績など、5W1Hに基づいて、実際に推進していることが見える形で示すこと(情報量が多いだけでは×)
・人事施策を実施した後のモニタリング方法(KPI)まで関連性を明確に示すこと
② 戦略との連動性・独自性
・ 一般的な指標だけでなく、自社の掲げる戦略・課題や背景になぞらえて開示内容や指標を検討すること
・上記に関して、指摘を恐れず事業戦略⇒人財戦略⇒各種人事施策⇒モニタリング方法(KPI)の順番で関連性を明確に示すこと
日経225銘柄に選出されている企業であっても、法定開示事項のみの最低限の内容にとどまる企業も多く存在しており、AI、人間共に全体の5割以上の企業が平均点未満でした。今回は、AI、人間共に最高点を付けた企業を取り上げましたが、他の企業(平均点未満や、最高点がつかなかった企業)との差になったのが上記の①具体性と②戦略との連動性・独自性だと言えます。
今回調査した中では十数ページにわたり人的資本関連の記載をおこなっていた企業も見受けられましたが、有価証券報告書の性質上そこまで多くの分量を盛り込むことは難しいと考えられます。そのため、経営との連動性(つながり)や人的資本施策の具体性が一目みてわかる形でまとめておくこと(図や、HP等の外部リンクの活用)がとても重要です。また、戦略との連動性・独自性などを開示し、指摘を受けながらも、様々な意見を受け止め企業成長に対して推進していく“覚悟”を示すこと自体が市場からの評価にもつながっていくはずです。
著者情報
山岡慎治(J.P.コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント)
SNSマーケティング会社での経営管理業務を経て、現在はJ.P.コンサルティング株式会社にて人事コンサルタントとして、人事制度設計および基幹システム構築に従事。ここ最近は、生成AIを通じた業務効率化支援にも注力している。
問い合わせ先
J.P.コンサルティング株式会社
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