[京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA]乾久美子・小山田徹・田中功起・副産物産店が出品 展覧会「スキマをひらく」が5月3日(土・祝)より開催
——いまの時代に「共に生きる」ための、表現者たちによる実践
世界のあちこちで分断と対立が深刻化し、先行きが不透明な時代にわたしたちは生きています。そうしたなかで、多様な背景をもち、考え方もそれぞれに異なる人々が歩み寄り、共に生きていくためにはどうすればよいのでしょうか。本展では、人々が時間と場所を共にし、対話を重ねることによって広がる可能性について、乾久美子、小山田徹、田中功起、副産物産店の4組の作品や実践を通して考察します。





見どころ
2017年にミュンスター彫刻プロジェクトで発表された田中功起作品の日本語字幕版・マルチチャンネル・フルバージョン映像を初公開!
田中功起は、「共に生きるとは何か」というテーマのもと、人々の協働や共同体のあり方を問い直す活動を長年続けてきました。本展では、2017年にミュンスター彫刻プロジェクトで発表された《Provisional Studies: Workshop #7 How To Live Together, And Sharing The Unknown》(一時的なスタディ︰ワークショップ7 未知なものを共有し、いかにしてともに生きるか)をとりあげます。

この作品は、さまざまな文化的背景を持った近隣住民8名が参加した9日間のワークショップの記録映像を中心に構成されています。このワークショップは、ロラン・バルトがコレージュ・ド・フランスで行った講義のノート『いかにしてともに生きるか』に着想を得たものです。バルトは、ギリシアのアトス山にある修道院の、同じ空間にありながら、それぞれのリズムを保った生活形態「イディオリトミー(固有のリズム)」に共生の可能性を見出していました。ワークショップの参加者たちは、数名のファシリテーターとの協働による複数のプログラムに取り組み、議論を交わします。合計で4時間半を超える記録映像からは、むしろ共に生きることの難しさが感じられるかもしれません。はたして本当に共に生きることはできるのか、映像の前に立つ鑑賞者は、あらためてその問いに向き合うことになるでしょう。

建築物から、愛すべきみんなの場所へ──京都市立芸術大学の新キャンパス設計JVのリーダー、乾久美子が探求する、「小さな風景」の育て方
京都市立芸術大学及び京都市立美術工芸高校移転整備工事乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同企業体(以下、京芸設計JV)の代表である建築家の乾久美子は、日常で、また仕事先で出会った、誰がつくったのかわからないけれど、生き生きとして、人の温もりを感じることのできるささやかな場所を「小さな風景」と呼び、協力者と共に膨大な数の記録を撮りためてきました。
本展で紹介するこれらの「小さな風景」に、乾はコモンズ的なもの、場所への愛着、居心地、共有の感覚の源泉などを見出し、日々の学びとしています。なかには、あるコモンズのなかに、また別のコモンズが生まれ、共存しているものもあります。このように一時的なコモンズを発生させることを、「コモニング(コモン化)」といいます。こうした日常的でローカルなコモンズ/コモニングの事例を蓄積しながら活動してきた乾は、建築をつくるのではなく「おく」と表現しています。その言葉には、建築とは空間を与えるものではなく、その場に生きる人々と相互に関係し、その人々が生み出す「小さな風景」と共にあるものと考える建築家の思考が表れています。
素材がアーティストの手によって作品へと変わる過程で出る「副産物」の循環と活用を通して、現代社会が直面するさまざまな問題にむきあう
矢津吉隆、山田毅による「副産物産店」は、京芸設計JVの機運醸成・リサーチチームの活動から生まれたアーティストユニットです。制作の現場から出る廃材など、いずれは捨てられる運命にあったモノたちを「副産物」と呼び、それらを回収・活用・販売する活動を行ってきました。

また、資材の循環を目指した「芸術資源循環センター」、副産物の楽器を用いて演奏を行う「副産物楽団ゾンビーズ」など、基本の活動から派生した複数のプロジェクトを手がけています。本展では、乾の「小さな風景」と、元の素材の周囲にかつてあったもの、あるいは用途に着目しながら新たな風景を作ろうとする副産物産店の作品が重なり合うコラボレーションのゾーンを入り口として、「副産物」の循環と活用をさまざまな角度から体験できる場を展開します。

「共有空間の獲得」──京都市立芸術大学新学長・小山田徹が長年つくり続けてきたもの・こと
昨年度まで本学美術学部彫刻専攻の教員を務め、この4月に本学理事長兼学長に就任した小山田徹は、数十年にわたって、「共有空間の獲得」をテーマとした活動を続けてきました。ホームパーティーが外に広がっていったかのような、人々がゆるやかに集う「カフェ」、小さな焚き火のもとに集う場などの共有空間は、対話や議論が生まれ、育まれていく場所となっています。
それらはすべて与えられた空間ではなく、ばらばらな人々が集い、それぞれ固有のリズムを保ちながら、自分たちがつくったものとして愛する空間です。これらもまた、イディオリトミックな共生の場ということができるでしょう。本展では、約15年間ものあいだ、小山田が作り続けてきた共有空間で、その役割を変化させながら寄り添ってきた小屋状の立体作品《浮遊博物館》を、新キャンパスに「おく」ところからはじめます。実はこの作品は、ようやくその使命を全うして「副産物」になりかけていたところを修復され、復活したものです。そして展覧会会期中の週末には、誰もにひらかれ、それぞれが思い思いに過ごすことによって育つ共有空間「ウィークエンドカフェ」が出現します。
社会の隙間をひらくことで共有空間が生まれ、その場に集ってきた人々によって社会とのつながりができていきます。そして一時的にでも共にいることで、学び合い、認め合い、委ね合う関係性が築かれていくのです。共に生きることの可能性や未来を、本当の意味でひらいていくのは、そうして生まれてくる共有空間を、人々が愛をもって「小さな風景」に育てていくことの積み重ねなのかもしれません。
たくさんの方のご来場をお待ちしております。
関連イベント
オープニング・トーク
出展作家によるトークを実施します。
日時|2025年5月3日(土・祝)14:00–16:00
会場|@KCUAおよびキャンパス内屋外
小山田 徹「ウィークエンドカフェ」
会期中の毎週末に、ゆるやかに集うことのできる共有空間が出現します。飲食物の持ち込み歓迎。トーク、「移動式芸術資源循環センター」、「イヌ場」など*も開催予定。
※開催時間は目安です。天候などの理由により、変更の可能性もあります。ご了承ください。
日時|2025年5月3日(土・祝)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、
6月6日(金)、14日(土)、21 日(土)
金曜日は17:00–20:00頃、土曜日は11:30–20:00頃開催。
会場|小山田徹作品周辺(屋外・@KCUA南側窓面付近)
*移動式芸術資源循環センター(副産物産店):京都市立芸術大学を中心にアートの現場のゴミ処理を巡る環境のリサーチとその周辺の人々(アーティスト、大学関係者、建築家、研究者など)との対話を軸に考案された、大学移転後の新しい機能のアイデア「芸術資源循環センター」をトラック型で試行するもの。
「イヌ場」:イヌと人による共有空間を作ることで、多種共生のあり方について考えるプロジェクト。乾久美子曰く、「まさにコモニングそのもの」。
副産物産店ワークショップ「Balance and Fixation──彫刻のための協働行為、あるいは協働のための彫刻行為」
副産物産店が日々蒐集している“副産物”を素材に、二人一組になって即興的に立体作品を制作します。
日時|2025年5月24日(土) 15:00–17:00(要事前申込)
会場|@KCUA・副産物産店作品周辺
など、本展に関連するイベントを多数開催いたします。詳しくは@KCUAウェブサイトでご確認ください。
開催概要
スキマをひらく
Exploring the Gap
会期:2025年5月3日(土・祝)–6月22日(日)10:00–18:00
(月曜休館、5月5日(月・祝)は開館、翌平日の5月7日(水)を休館)
会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(京都府京都市下京区下之町57-1)
入場:無料
出展作家:乾久美子、小山田徹、田中功起、副産物産店
主催:公立大学法人京都市立芸術大学
助成:芸術文化振興基金
企画:藤田瑞穂(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA チーフキュレーター/プログラムディレクター)
お問い合わせ
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
電話番号:075-585-2010
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